矛盾犯罪(11/11)PDFで表示縦書き表示RDF


矛盾犯罪
作:樒 麻容



無関係者から知人に


「すみません、呉さんはいらっしゃいますか?」
 休診と札は下げているが、急患のために鍵はかけていなかった。ドアの隙間から覗いた顔に、呉と柴田は同時に声を出した。
「不知火唯…」
「こんにちは。約束を守りにきました」
 唯は中に入っていいのか迷っているようで、水野は手招きして許可した。
 それに唯は優しく笑い、ドアを大きく開けた。唯の背後には男子高校生がいた。
「その子は?」
「私の話をするのには彼が必要ですから。速水(はやみ)(れい)、同じ高校の一年生です」
 零の会釈に、呉は視線で答えた。柴田は慌ててお辞儀をし、水野は再度手招きした。
 三人の雰囲気が柔らかかったため、唯と零は顔を見合わせてから靴を脱いでスリッパに履き替えた。
「呉さんの言ったとおりだ…不知火さんが来た」
「事件が良い結果で終わったからです。有難う御座いました」
 深々と頭を下げる唯に、呉と柴田は穏やかな笑みを返した。あのまま高島だけがあの事件を解決していたなら、萌は犯人に仕立て上げられていた。しかし、呉がいたからこそ萌は傷付かずに済んだ。呉がいなくても萌が犯人ではないことは後々わかることだが、無用に傷付ける必要はない。
 唯が望んでいた形で事件は終結した。
「高島さん、か。なるほどね」
 零の呟きに、唯を除く三人は目を見開いた。高島。それは萌を犯人だと言った刑事だが、あの場には関係者しかいなかった。しかも、萌がいる前でも『高島』の名前は出していなかった。
 零が高島を知る機会はなかったはずだった。
「どうしてその名前を…」
「私は対象者の『未来』を、零は『過去』を見ることができるんです。だから、永山さんの未来を見て、彼女を守りたかった」
 柴田の思わず漏れた驚きに、唯は再度優しい笑みを浮かべた。その様子は嘘を吐いているように見えない。零の呟きはそれで説明がついた。
 唯がこの場で嘘を吐く意味もない。それなら、唯は本当のことを言っている。
呉はそう結論付けた。
「だから、もう真実を知っていた俺に助けを求めたんだね」
「はい。永山さんの未来に呉さんが見えましたから。それに、呉さんの未来に私がいましたから」
「唯の見る『未来』は必ず現実になるわけではないんです。変わる可能性がある。だから、唯は呉さんに逢いに行ったんです」
 唯とは違って無表情に淡々と言った零に呉は視線を合わせた。零の瞳は少し灰色がかっていた。
 見透かされている、というより嘘が吐けない空気を作る子だ。その瞳を見て、呉は溜息を吐いた。
「もっと良い方法で解決できたとも思えるけどね」
「高島さんが関わっている時点で、今回の終結が一番良い方法だったんです。呉さんだけなら、誰も傷付かずに終わらせられたんですけどね」
 呉と柴田と水野は苦笑した。高島が探偵気取りで犯人当てをしなければ、呉だけならば、事件にせずに自殺ということで解決できていた。死体損壊は別にして、『殺人犯』はいなかったのだから。
 ふと思い付いたかのように、柴田が「あっ」と声を上げた。
「不知火さんは『未来』を見ることで、犯人がわかるんですか?」
「運が良ければ可能です。被害者の未来が見えたら、犯罪は防げます。容疑者が次の犯行を予定していた場合もそうですね」
「犯人探しなら、僕が適任だと思いますよ。『過去』が分かりますから。被害者が犯人を見ていたなら、ですけど」
 柴田が驚いている隣で、呉は眉を寄せた。それを見て、水野は困ったように笑った。
 犯人がわかるということは、犯行の状況を見ることになる。殺される瞬間を目撃する。これから被害に遭うものと、被害に遭った体験をする。
 それは、精神的負担が大き過ぎる。
「君たちの力は事件解決の役に立つけど、デメリットが大き過ぎるね」
「被害を少なくするために、必要じゃないですか?」
「連続事件ならお願いしたい。でも、君たちに被害の疑似体験をさせたくないからね」
 呉の微笑みに、唯は苦笑いで答えた。
柴田は唯たちの力のデメリットに気付き、慌てて頭を下げた。
「すみません! 『未来』と『過去』を見るのは被害の疑似体験だったんですね!」
「気にしないでください。役に立てるなら、と思ってここに来たんですから」
 柴田の純粋な謝罪に、唯ははにかんだ。
 警察官と医者と超能力者の高校生。変な組み合わせにも係わらず、雰囲気は穏やかだった。
 唯が警察を訪れたあの日から。唯の友人が事件の当事者になり、未来を予知したときから。
 この日は決定していた。
「遅くなりましたが水野さん、初めまして。不知火唯です。自己紹介から始めませんか?」
 唯の提案に、全員が頷いた。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP


小説家になろう