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電脳良心世界
作:ウツキ


 私はついにタイムマシンを完成させ、未来社会へ行った。未来の世界はとても綺麗に整備された美しい街だった。
 ここは住人達も穏やかで争いごとなど全くない社会だ。世界は一つにまとまって戦争などどこにも起きてはいない。誰もが幸せに暮らしている完全な理想社会。
 私は公園で知り合った老人と孫に彼らの街を案内してもらい、この世界についてのそんな説明を聞かされた。彼らと街のあちこちを見て回り、食事をしたりして見聞を広げる。確かにここは彼らのいうとおりの理想世界に見えた。
 ただ気になることがあった。学齢期の子供の姿を見かけないこと。老人の姿が極端に少ないこと。
 私は、これから出産して退院してくる母を迎えに空港へ行くという彼らに同伴して、車の中でそれについて問いかけた。彼らは当たり前のように答えた。
 子供を見かけないのは学齢に達するとスクールシティに集められて教育を受けるからだ。この孫ももうすぐそこに行くことになっている。そして老人が少ないのは一定の年齢に達すると死ぬことに決められているからだ。
「死ぬことに決められてるって?!」
 学校はともかく、こちらは穏やかではない。しかし老人は当然のことのように言った。
「我々老人が余り増えすぎると若い者達の負担となるからの。死は当然の義務じゃ。わしも明日死ぬことになっている。何、苦しみもなく楽なものじゃから心配いらんよ」
と平然と答えた。
「そんな……!」
 どこか狂っていると思う私。ほどなく車は空港に着き、赤ん坊を抱いた母親がゲートを降りてきた。赤ん坊は何か手術を受けたのか頭に包帯を巻いている。老人が再び説明する。
 この世界では生まれた時に脳手術を受ける。脳内の感情を司る部分を中央都市のコンピュータと直結させて、人は皆コンピュータによって脳内の感情を管理されるのだ。人の心が怒りや悲しみに向かおうとしたときコンピュータが働き感情をコントロールしてくれる。人は怒ることも悲しむことも憎むこともなく、誰もがいつも穏やかな心を保つことが出来る。おかげでこの世界は争いごとの起きない理想社会となったのだという。
 それではまるで人間がコンピュータに操られているようなものではないかと私は思った。
「その皆を管理している中央都市はどこにあるんだ?」
 私は彼らから教えられた中央都市へと向かった。
 中央都市には幾つもの建物の中に膨大な数のコンピュータが置かれていて、世界中の人々の心の管理が全てここで行われている。
「これがある限り世界の平和は保ち続けられるでしょう」
 私が過去から来たということを聞き、中央管理長官は自慢げに説明する。
「でもそれは機械に操られた結果でしょう。人々の心の自由が奪われた結果の平和でしょう。こんな操られ洗脳された世界は私は間違ってると思います」
 私はそういうと護身用に持ってきた銃でコンピュータを叩き壊した。
「君!何をするんだ!止めないか!」
 まさかこの世界でこういうことをする者があるはずがないと思われているのでセキュリティなど全く施されていなかったのだろう。想像以上にあっけなくコンピュータは壊れた。私はすぐに係員らに羽交い絞めにされたが。
 中央管理長官が憎々しげに私を睨んで言った。
「なんということをしてくれたんだ、見たまえ!」
 モニターが街の人々の脳内思考を映し出している。管理の手を離れて自らの感情を自らでコントロールするほかなくなった人々が悩み混乱し始めていた。
  僕は親と離れて一人学校なんかに行きたくない!
  わしはまだまだ生きていたい、犠牲になって死ぬのは御免だ。
  等々。
「きさまのせいだぞ!」
 中央管理長官が私に銃を突きつけた。
「見ろ!この混乱した世界を!おまえがコンピュータを壊したせいで私の感情も抑制が効かない。きさまを殺してやる!」
  長官、おやめ下さい!
  長官、早くそいつをやってしまえ!
 係員達もコンピュータの管理から外れたせいで、一律でないそれぞれの感情に揺れている。
 機械に操られた世界などよいことではないと思ってのことだったのだが、私は間違ったことをしてしまったのだろうか。いたずらに社会に混乱を引き起こしてしまったのか。私は絶望に沈みながら再びモニターを見た。そこに映し出される光景に再び目を奪われる。
「長官…モニターを観て下さい…」
 モニターに映し出される脳内光景。
  可愛い孫達が豊かに暮らせるよう、やはりわしのような年寄りは潔く消えていこう。
  おじいちゃん、駄目だよ!おじいちゃんが死ぬことないよ!
  みんなが生きられるよう都市管理の人達にお願いしよう!
  僕はしっかり学校に行ってどうすればみんなが幸せに暮らせるようになれるか勉強して考えるから
  僕は親元を離れて一人でも一生懸命頑張る。
  等々。
 人々の思考が混乱を乗り越え少しずつプラスの方向へ向かおうとしている。全ての人々がそうなれているのかどうかはわからないが、それでも…。
 私は言った。
「長官、我々の心は決してそんなに弱いものではないと思いますよ。試してみませんか、このままで、コンピュータの助けなしで、我々がどれだけやっていけるのかを」
 心の平和は自分の力で勝ち取るもの。迷いながらでもつまずきながらでも。
 長官は黙って握り締めた銃を下に降ろした。

(END)














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