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3分間の君の声
作者:庄垣彬
 
《彼女の言った言葉、僕はどんな状況でも聞こうと、いや聞いていたい彼女の笑顔、彼女の声、すべてが僕の宝物だから》


ブゥー・ブゥー

短いメールの着信

森下健二は携帯を見る。

「小百合かぁ」

受信ボックスの新着メールを開けると

『何時頃、帰ってくるの?料理作って待ってるから』

「う〜ん」

健二はしばらく考えて

ピッ

プルルル・プルルル・プルルル・プルルル・プルルル・プルルル

「あれ、出ない」

しばらく仕事をして

プルルル

今度はワンコールで相手がでる

「おう」

「おうって何?どうして電話してくるの」

「どうしてって、電話の方がいいかなって思って」

「せっかく、仕事中だと思ってメールにしたのに」

「いや、なに、メールって面倒で・・・そ、それに小百合の声も聞きたかったし」

「バ、バカなこと言ってないで・・・それで、何時に帰ってくるの」

「今、顔、赤くなっただろ」

「そんな事ないよ、もう」

「ははは、照れてる」

「バカ、切るよ」

「あっ、待って、えっと、もう仕事終わるから7時位に帰る事が出来ると思う」

「そう、じゃあ待ってる」

「うん」

森下健二と新藤小百合は同い年の二十七歳、付き合い始めて2年だけど同棲をしているわけではない
時々、小百合が健二の家に来て料理を作ってくれている。

一応、親の公認、将来は結婚の事も考えていた。

7時過ぎ、健二は自分のアパートに帰ってきた。

「ただいまぁ」

「お帰り、思ったより早かったね」

「小百合の料理を早く食べたくて、走って帰ってきた」

「はいはい」

「なに、冷たいなぁ」

「だって、いつもふざけてるし、付き合っていられないよ」

「分かった、今から真面目になる」

「はいはい」

「信用していない?」

「うん」

奥の部屋に入り、すぐに着替えて出てくる。

料理がテーブルに綺麗に並べてあった。

「うまそう、さすが小百合、やるな」

「ははは」

小百合は腰に手を当てふんぞり返って、どうだといわんばかりに笑ってる。

「まあ、冗談はさておき」

健二が冷蔵庫に向かいビールを取りだす。

「冗談かい」と小百合が突っ込みを入れた。

「まあまあ、冗談はなしで、ほんとに凄いと思ってるから」

「ほんと」

「ほんと、だから食べよ」

「もう」

小百合は不満な顔で健二の正面に座り二人は食事を始める。

「ほんと、美味しいよ」

「でしょぉ、張り切ったんだから今日は」

「どうして?」

「だって、今日はぁ・・・あの日」

「あ・の・ひ?・・・・あぁぁぁぁぁ」

「えぇ〜、もしかして忘れてた」

「あっ、いや、その・・・」

「もうぅ、せっかく・・・」

「あっ、あれ何」

健二が窓の外を指さす、小百合はつられて外を見た。

その隙に健二は細長い箱をテーブルの上に置いた。

「なに?何もないじゃん」

健二は何事もなかったようにビールを飲んでいるが口元が笑っていて、こぼしそうになっていた。

「これは」

小百合が箱に気がつく

「二周年おめでとう、そして、ありがとう」

「えっ?覚えていてくれたの」

「忘れる訳ないだろ・・・忘れたら何されるか」

「えっ、何か言った」

「いえ、何も」

「開けていい」

「ああ、どうぞ」

中にはネックレスが入っていた。

「ほんと、うれしい、ありがとう」

小百合は大粒の涙を流して喜んでいた。

そんな余韻を楽しみながら食事した。

食事も終わり二人で映画を見ていた。

「ねえ、いつもメールをしたら、どうして電話で返してくるの?」

「ああ、その事」

「ねえ、どうして?本当にメールは面倒?」

「別に、面倒じゃないよ、友達ならメールで済ますし」

「じゃあ、どうして?」

「それは、小百合の声を聞きたいから」

「またぁ」

「ほんと、ほんと、小百合の声は俺の宝物だから」

「・・・・」

「どうした?」

小百合はうつむいて顔を伏せている。

「まさか、泣いてる」

「泣いてない、泣いてないって」

映画はいつの間にかエンドロールが流れていた。


ある日、久しぶりに小百合の親に夕食を御馳走してもらう事になった。

親公認?とは言え久しぶりという事もあり緊張しながら電車に乗り車窓の景色も見ているようで見ていない状態だった。

目的に駅に着き電車のドアが開いた時、このまま『乗り過ごそうか』と一瞬心の中で思ってしまったが、後が怖いんで電車を降りた。

改札口に近づいてくると小百合がキョロキョロしながら立っている、そして健二の姿を見つけると大きく手を振って姿を健二はうれしそうな顔で見て恥ずかしそうに小さく手を振り返した。

改札を出ると小百合がすぐ側で待っていて健二の顔を覗き込む。

「あれ、緊張してる?」

「な、なにを・・・きんしょ・・・緊張してるわけな、ないでしょ」

「健二、言葉へんだよ」

「バカな事を・・・ははは」

健二の明らかに引きつっている顔を見て小百合は

「あははは」

笑っていた。

小百合の家の着くと健二は立ち止り、身だしをチェックしている。

「なにしているの」

「身だしなみをちゃんとしとかんといけないだろ」

「大丈夫だよ、そんなの、さあ行こう」

「おう」

妙に気合を入れる・・・別に結婚の申し込みに来た訳じゃないけど。

玄関の扉を開くと

「わぁ・・・・」

一瞬、後ずさりをする健二

小百合のお父さんが玄関で仁王立ちをして待っていた。

怖い顔?まさに仁王さんみたいな顔、そして体格がいい、なんでも昔柔道をしていたらしい。

しかし、明らかに顔が引きつっている・・・余計に顔が怖い

「いっ、いらっしゃう、あ・・・・しゃい」

緊張のあまりお父さんは言葉をかんだ。

「およびいただいて、あるがとうだ・・・・あっ、すみません、ありがとうございます」

健二もかむ。

横で小百合は吹き出しそうなのを必死にこらえていた。

奥ではお母さんがお笑いしている。

健二は応接間に通された。

用意されていた料理がテーブルに並べられている。

そして示された座席に座るとお父さんが向かい側に座る。

小百合は、お母さんの手伝いにキッチンに入っていった。

無言のまま数分が過ぎる・・・健二のこめかみに汗がツゥーっと流れていった。

「さぁお待たせ」そう言いながらお母さんが料理を持って入って来た。

「はい、ビール」

小百合も後から入って来たのを見て健二は少しだけ緊張が少しだけ和らいだ。

「さあ、はじめようか、さあ、健二君」

お父さんがビールを注ごうビール瓶を差し出す。

「あっ、ありがとうございます」

健二のグラスにビールがなみなみと注がれる。

「僕も、お父さん」

ビール瓶を受け取りお父さんに注ぐ。

「ありがとう」

緊張のあまりビール瓶を持つ手が震えグラスにカチカチカチと細かくあたっていた。

そんな姿をお母さんと小百合は笑いをこらえながら見つめていた。

「そんなに緊張しなくてもいいのよ」とお母さんの優しい声がした。

「そうよ、ほら、お父さんも。顔が怖いから健二さんが緊張してるのよ」と緊迫している二人の男の雰囲気をお父さんのせいにした。

「な、何をいってるんだ、わしは緊張などしとらん」

「ふふふ、さあ、健二さん、お父さんは、ほおっておいて食べてください」

お母さんのほんとうに優しい声に少しずつ緊張がほぐれる・・・が向かいのお父さんを見ると一気に緊張がマックスに、健二の体はおかしくなりそうだった。

「健二君、仕事の方はどうなんだ」

唐突にお父さんが質問をしてきた。

「はい、順調です」

「そうかね、まあ、順調がなによりだ」

「はい」

そして沈黙、お父さんはビールを一気飲み

「はい、お父さん」

健二がビールを注ぐ

「健二君、仕事は楽しいかね」

「は、はい、まあ、たのしいです」

「そうかね、うん、楽しかったらいい」

「はい」

また沈黙、そしてお父さんは一気飲み

「どうぞ」

健二がビールを注ぎ

「ありがとう」

そんな事を何度か繰り返しているぎくしゃくしている男二人を小百合とお母さんは楽しそうに見ていた。

お父さんの顔が赤くなり始めそして。

「健二君、君はいい、本当に君はいい、息子にしたいくらいだははは」

健二はびっくりした。

まだ、そんなに飲んではいないはず、現に健二はまだ酔っていないが

「ほら、こっちに来て、ほら」とお父さんは健二を自分のそばに座らして。

「まあ、飲みなさい、ほれ」

健二のグラスにビールを注ぎ

「乾杯だぁ」

カァーン

「乾杯ぃ」

そして一気に飲み干した。

「わしは、君が好きだ、小百合のオテンバな娘よりもっといい子がいるはずだ、それなのに小百合を選んでくれた事がうれしい、わしはうれしい」

「おとうさん、もう、健二さん困ってるから」

小百合がたまりかねて言うと。

「お前は、黙ってろ、わしは健二君と話をしてる」

「もう、酔っぱらってるから」

「なにぃ、わしは酔ってない」

お父さんは怒って立ちあがろうとした。

「まあ、まあ、おとうさん、僕に話をしてください」

「健二君だけだ、わしの味方は」

「ないよ、お父さん、もう知らない」そう言って小百合はすねた。

「ふん、お前なんか早く嫁に行け」

お父さんは怖い顔をして子供みたいにすねた。

(あらら)

それからお父さんが酔い潰れて眠るまで健二はお父さんの昔話に付き合わされるはめになった。


「ごめん、こんな事になるなんて、お父さんたら」

「いいよ、意外にたのしかったよ」

眠ってしまったお父さんを健二が寝室に連れて行き応接間に戻って落ち着く。

「はい、ビール」

お母さんが健二のグラスにビールを注いで「ごめんなさいね、健二さん」そう言って誤った。

「いいえ、お母さん」

「今日は朝から緊張していたみたいなの」

「えっ?」

「ほら、久しぶりでしょ、健二さんが家に来てくれるなんて」

「はぁ」

「前に来ていただいた時、小百合には言わなかったけど、お父さん健二さんの事が気にいっちゃってね、何度も私に、健二さんが家に来るように小百合に言っておいてくれって、言っていたくらいなの」

「そうなの、そんな事一言も」

小百合がびっくりしたように言う。

「言おうと何度かしたけれど、健二さんの仕事の都合とか、あなたたちの時間とかもあるでしょ、だからなかなか言えなくて」

「そうですか、これからは言っていただければいつでも」

「そう、ありがとう、お父さんも喜ぶわ」

そして、健二は落ち着いて食事をし直した。

駅に向かう帰り道、小百合が駅まで送ってくれた。

「今日は、本当にごめんなさい」

「謝らなくていいよ、十分たのしかったし」

「ほんと?」

「ああ、さすがに最初は緊張しまくったけど、でも酔ったお父さんを見る事も出来たし、色々、昔話も聞く事ができたから」

「でも、私、お父さんのあんな姿見たの初めて、びっくりした」

「いい、お父さんだね、大事にしなきゃ」

「うん、そうだね」

少し、しんみり、そして、しあわせな帰り


次の日の休みは小百合とデートだった。

健二が小百合にお父さんの事を聞くと。

「二日酔いがひどくて今日は一日寝てるって」

「そう、大丈夫かなぁ」

「大丈夫よ、本人は二日酔い、初めてだったみたいで、朝から病気だと思って大騒ぎしていたけど」

「ははは、そう」

そんな会話をしながら目的地の映画館着いた。

映画の内容はアクション、小百合の大好きなジャンルだった。

映画を見ている最中

「キャー・キャー」

「ワァー・おぉ〜」

二人で大騒ぎ、他のお客に迷惑??

映画を観終わり夕方、二人はおしゃれなレストランで食事をする事にした。

静かな雰囲気、周りもカップルが多い

「いいところね」

「ああ、でも変に緊張しるよ」

「どうして?」

「こんな所に来る事ってないだろ」

「そう、私、前にも来た事あるよ」

「えっ?だ、だれと?」

「さあ、だれでしょう」

いたずらっ子のような笑顔で小百合が笑う。

「ま、まあ、おれには関係ない・・・・嘘です、だれと?」

泣き出しそうな健二の顔を見て小百合は吹き出す。

「あははは、家族で来たの」

「家族で・かぁ、そうかぁ」

健二はホッとして体の力が抜けた。

食事が運ばれてきて二人は食べながら料理の内容について語り合い、楽しく食事をする。

食事の後、隣り合うビルのバーでお酒を飲む事になった。

「夜景がきれい」

ビルの最上階のバーで夜景の見える窓際の席に2人は並んで座った。

「そうだ、来週から少し忙しくなるかも」

「どうして」

「うん、企画が通ってね、で、急がない仕事をしている者も手伝う事になったんだ」

「じゃあ、健二も」

「そう、俺も、だからしばらく帰りが遅くなってしまうから、会えないかも」

「そう、う〜ん、じゃあね、こうしない、健二はメール送っても返信してくれないじゃん」

「ああ」

「だから、私から一回メールを送って、その後、私から電話をかけるわ」

「いや、そんな事しても意味がないじゃん」

「あは、そんな事ないよ、だって健二の携帯の留守電のメッセージを私が入れるから」

「はぁ?何それ」

「だから、いきなり電話したら仕事中の健二に迷惑でしょ、最初に、電話するってメールを入れておいて、それから私が電話するの、そして、健二が私からの電話を確認して、そのままにしておいてくれたら、留守電になるでしょ、そうしたら私がメッセージを入れるの、健二は落ち着いたら、留守番電話を聞いてくれたら私の声が聞けるって事」

「おおぉ」

パチパチパチ

健二は感心して思わず拍手している、小百合は「どうよ」と言わんばかりに腰に手をあてて体をそりかえしていた。

「ほんと、いい考えだね、そうしよう」

「うん」

休みは明け、思っていた通り健二は仕事に追われる事になった。

朝早くから電車の最終に間に合う時間まで、毎日のように。

そして、小百合に3分間のメッセージが健二の心を、体の疲れをいやしてくれた。

『ああ、今日が最初だね、何を言っていいのか・・・・なんだか、ちょっと緊張するね、今日はね、帰ってからお母さんと買い物に行くの、そして料理を教えてもらう、健二にもっと美味しいもの食べてほしいから・・・ヤァー、なんだか恥ずかしいぃ、じゃあね、お仕事がんばってね』

最初メッセージ、健二は夜、自宅に帰ってから聞いた。

「はぁ、ナマ声聞きたいなぁ」

次の日は昼、食事もそこそこに、仕事をしている健二の携帯が震えた。

ブーブーブー

メールが入り

ブーブーブーブーブー
電話が入り留守電になる。

健二は気にして携帯を見る・・・「出たい」

しかし、出る暇もなくそのまま夕方まで放置するしかなかった。

夕方、少しだけの休憩を後輩と取ると喫煙室に入り、後輩と仕事の話を少しして健二は携帯を取り出し留守電を聞く

『由美でぇ〜す、健二さん元気』

「なんじゃ」

びっくりして健二は携帯を耳から離して携帯を見つめる。

「どうしたんですか?」

「えっ?あっ、いや、なんでもない」

後輩に聞かれ、健二はちょっと動揺した。

もう一度携帯を耳に当てると、メッセージが途中からになるからまた最初から聞き始めた。

『由美でぇ〜す、健二さん元気、今日は仕事が終わってから小百合とデートだよ』

『ちょっと、由美、携帯返して』

『いいじゃん、小百合はいつでも健二さんと話出来るから、私は久しぶりなんだよ』

『だめ、私がメッセージをいれるんだから』 

『どうして、いいじゃん』 

どうやら二人で携帯争奪戦をしているようだ。

健二はなんだかおかしくて

「ふふふ」

そして

『ごめんなさい、由美ったらほんとうにもう、夕方、由美と食事に行くの・・・あっもう終わる・・・うぅ、それじゃね、仕事、頑張ってね』

健二は携帯片手にニタニタしている。

「先輩、大丈夫?」

後輩は小さな声で心配そうに言った。

そんな事が数日続くと社内でちょっとした噂が流れ始めていた。

「森下、ストレスが溜まりすぎて変になってる」

とか

「もしかしたら薬、やってる」

とか

しまいには

「男に目覚めた」

とか、根も葉もない噂が流れ心配になった上司が

「森下、最近はどうだ」

「大丈夫です、仕事・・・」

「いや、仕事を頑張ってくれているのは分かっている」

「はぁ」

「だから、精神的に参ってるって事は」

「はぁ?」

「大丈夫なのか」

「はい、全然、大丈夫ですよ」

「そうか、それならいい」

そう言って去っていく上司の後ろ姿を見ながら健二は首をかしげ

「なに、今の?」と不思議に思った。

それでも健二は携帯片手に休憩室に入り携帯を耳に当てニヤニヤしている。

周りで見ている者は遠巻きに健二を見て

「壊れてる」と口ぐちに言っていた。

健二も小百合に返事の留守電を返したりはしていたが、仕事で疲れている時とかは留守電を聞いて

「返さなきゃ・・・・ぐぅ〜」

てなぐあいで寝てしまってそのままって時もしばしば・・・大体そんな毎日だった。

それでも、小百合の決まった時間に送って来るメール、そして留守電を毎日、休憩の時とか、時間を見つけて聞いている。

そして、ついに健二は《留守電マニア》の称号を得た。


健二の仕事も落ち着き始めた。

朝のミーティングで上司から「もう少しで、切りがつくからもうひと踏ん張り、頑張ってくれ」

そう、忙しい日々も後少しで終わろうとしていた。

昼になりいつものように携帯を見る。

メールには短い言葉は書いてあった。

『今日は、何の日?メッセージは夕方にします』

「ええ?今日は・・・あっ、そうか今日は」

健二は納得して遠くを見てうなずいている。

「とうとう、頭が変に」

健二の姿を遠目で見ていた後輩が呟いた。

仕事は順調に進み夕方、いつものようにメールの着信、すぐに電話の着信があり、いつものように健二は放置しておいた。

その日は会社のみんなは先が見えてきたという事もあって、気合が入っていた。

もちろん健二も例外ではない。

社内は活気に満ち溢れていた。

夜、7時を指す頃、喧騒の中、健二の携帯が鳴りだす。

最初は気がつかず、再び携帯が鳴る。

着信を見ると「由美」

「何、忙しいのに」

出ようとしたら切れてしまった。

「まあ、いいか」

仕事に集中しようとするとまた携帯が鳴りだした。

「もうぉ、何?」

そう言って少し怒り気味に携帯にでた。

「もしもし、何?今、い・そ・が・・・」

由美は泣いている

「どうした」

また、彼氏と喧嘩したのかなって一瞬おもった、が

「小百合が、小百合が・・・」

「小百合が、どうした」

不安な気持ちが体を包む

「小百合が危篤な、危篤なの・・・わぁぁぁ」

「由美、どういう事、危篤ってどういう事」

信じられない気持がいっぱい、夢を見ているようだ。

「事故にあって、それで、危ないの、小百合が死んじゃう・・・わぁぁぁ」

健二の体の力が抜け、膝から崩れ落ち座り込んでしまう。

携帯は健二の手から床に滑り落ち、由美の鳴き声と、健二を呼ぶ声が聞こえている。

健二の姿を同僚たちが見て、喧騒の社内がシーンと静まり返ってしまった。

「どうした、森下」

心配になった上司が健二に歩みよってきた。

「どうした、大丈夫か」

返事が無い

上司は床の携帯を取り

「もしもし、電話、代わりました、上司の・・・はい、はい、はい、分かりました、すぐに向かわせます、で、病院は、○○病院ですね、はい、それでは、すぐに」

電話を切った上司は健二の肩に手を置いて

「森下・・・」

「小百合、小百合、どうして、小百合・・・」

「森下・・・」

もう一度声をかけるが、まるで聞こえていない様な状態

そして

「森下ぁ、しっかりしろ」

社内に響き渡るくらい大きな声で健二をどなった。

「はっ」
健二は涙目で上司を見る。

「森下、大丈夫か、すぐに病院に行ってこい」

「・・・」

健二は動けない、今、起こっている事が信じられず、動けない。

「森下、お前がしっかりしなきゃどうする、すぐに○○病院に行け」

大声で健二を怒鳴りつけた。

健二はヨロヨロと力なく立ち

「すみません」
涙声で言ってそのまま会社を走って出ていった。

会社を飛び出した健二はタクシーに乗るため近くの駅まで走る。

駅前でタクシーに飛び乗り病院に向かった。


病院に着き救急の出入りから入っていって、救急の処置室に行ってみると誰も居ない。

看護師に聞くと今、手術中と説明を受けた。

手術室に行くと、お父さんとお母さん、そして由美がうなだれて手術が終わるのを待っていた。

健二が静かに近づくと

「健二君」

お父さんが気がついて声をかけてきた。

「お父さん、どんな状態ですか」

「うん、危険な状態らしい、それで、今、手術を」

「健二さん、小百合が・・・」

お母さんは健二にしがみつき泣き崩れる。

「大丈夫、大丈夫ですよ、お母さん、彼女はきっと、大丈夫です」

健二は自分に言い聞かすようにお母さんの肩を抱きながら言った。

手術室の前、沈黙が流れる、それはとてつもなく長い時間ように思えた。

時折、看護師が何かを持って手術室に入ったり出たりしている。

待っている間に小百合が事故にあったいきさつを、お父さんから聞く事になった。

【健二に電話をした後、ガードレールの無い歩道を歩いていた時、酔っ払いの乗った車が交差点て、出会い頭に車と衝突。
偶然に交差点に差し掛かった小百合を含む数名を、なぎ倒すようにぶつかった。小百合意外の被害者は重軽傷は負ったものの命には別状ないらしい】

数時間後、健二は何かに気がつき手術室の入口を見た。

スゥー

扉が開き医師らしい人が出てきて四人の所に近寄ってきた。

「先生、小百合は」

お父さんが不安そうに聞くと医師は

「手術は終わったんですが、内臓の損傷がひどくて、今夜が山でしょ」

「そんなぁ、小百合ぃ」

お母さんはお父さんにしがみつくようにして泣き崩れた。

由美は健二の横で座り込んで泣き始めた。

健二は言葉が出ない、どうしていいか分からない。

「ICUの方で経過を見ます、後ほどおこしください」

そう言って医師は去っていった。

静かな病院、鳴き声だけが響いていた。

ICUに行くと、沢山の管を付けた小百合がベッドで横になっていた。

お父さんとお母さんは寄り添い信じられないといった表情で見ている。

健二も無言で見詰めていた。

「がんばって、小百合」

小さな泣き声で由美言った。

変わらない経過のまま、四人は長い時間待っていた。

疲れた顔、体、だけど、ただ、ひたすら待った、小百合がよくなる事を祈って。

どれくらい待ったか分からない、明け方近く、外も白み始めていた。

突然、ICUの方があわただしくなり、看護師が駆け出していく。

医師が入って行って数十分後、4人の前に来た。

「来てください」

その声は、明らかに、絶望を予感させた。

4人はうなだれながらICUに入っていった。

「意識が、戻ったんですが、しかし、もう」

計器の数値が戻らないなしい、でも最後の力なのか小百合の意識が少し戻ったらしい。

「小百合」

一番にお父さんとお母さんがベッドに近寄り声をかける。

「お父さん、お母さん」

小さく力の無い声で小百合が言った。

「小百合話さないで、いいから、小百合」

「お父さん、おかあさん」

小百合の頬を涙が流れる。

由美も近づいて

「小百合」

「由美」

健二は四人のそんな光景をただ見つめている事しかできないでいる。

「健二に会いたい、健二に、健二、健二」

小百合は少し大きな涙声で言っている。

「健二君」

お父さんが呼び健二が近づいていった。

健二が近づくと、他の三人は少しベッドから離れた。

「小百合」

「健二」

「大丈夫だよ、すぐによくなるから」

健二は思わずそう言った。

「ごめんね、こんな事になっちゃって」

「そんな事、それより、早く元気になろ、そしたら、そしたら」

健二は泣きそうになり言葉に詰った。

「そしたら?」

「元気になったら、結婚しよう、なぁ」

「うん、うん、うれしい」

「そう、結婚しよ」

「うん、ありがと・・・」

小百合の声が消えてしまう。

そして

ピィーーーーーーーー

ピィピィピィ

計器がけたたましくなり始め医師が急いで近寄ってきた。

そして、小百合の胸のあたりを力いっぱい押し始めた。

看護師が計器を見ながら何かを言っている。

健二には何も聞こえていない、小百合の最後の「ありがとう」だけが頭の中に響いていた。

数分、医師は最善を尽くした、だけど・・・・

「五時十三分、心肺停止を確認しました、御臨終です」

その時

「何言ってんだよ、違うだろ」

健二は凄い勢いで医師に歩み寄り

「そんな、まだ、まだ死んでないだろ、小百合が死ぬ訳ないだろ、何いってんだよ」

健二は医師につかみかかりそう叫んだ。

「まだ、暖かいじゃないか、なあ、頼むよ、なあ、死なせないでくれ、頼むよ」

すがる健二に医師は無言で見詰めている。

「あんたがやらないなら、俺が生き返らせる」

そう言って小百合の近寄り心臓マッサージをしようとすると

「やめなさい、もう、だからやめなさい」

医師が健二を羽交い絞めにして止めに入る

「はなせぇ、俺が生き返らす、はなせぇ」

健二が暴れ医師ともみ合う

「邪魔するなぁ、俺が、俺が、小百合、小百合」

まるで駄々っ子のように健二が暴れる、すると

パシッ

健二の頬に痛みが走り、前にはお父さんが立っていた。

「いい加減にしなさい、小百合を・・・静かに逝かしてあげなさい」

「お父さん・・・」

「健二君、分かったか」

「そんなぁ」

健二は部屋を飛び出していった。

「健二君」

お父さんの声も聞こえない。

明るくなった病院のロビーは誰も居ず健二はソファーに転げるように座り込んだ。

「はぁはぁはぁ、嘘だ、こんなの、夢だぁ・・・嘘だぁ、嘘だぁ」

そして、健二は携帯を取り出し待ち受けにしている二人の写真を見る。

笑顔の二人がそこに映っていた。

画面の隅に留守番電の表示があった。

おもむろに番号を押し携帯を耳にあてる

『1件のメッセージがあります』

ガイダンスが流れる、健二は再生を押すと

『覚えてる、健二、今日は何の日か、そう私と健二が初めて出会った日、あれから三年も立つんだ、早いね、今ね、私出会った場所に来てるの、いつも何気なく通ってるんだけどね、今日は違って見える、不思議、本当は健二と二人で来たかったんだけどなぁ、仕方無いよね、仕事だもんね、ああ、どうしてこんなん日に仕事なのかなぁ〜、あっごめんね、わがまま言っちゃって、仕方ないのでもう少しここにいます、あの時の事を思い出しながら、じゃあね、仕事がんばってね、でも体には気をつけてね』

またガイダンスが流れる。

健二は携帯を耳に当てながら泣き崩れ「小百合、ごめん、小百合、ごめん」

何度も、何度も同じ言葉を繰り返していた


お葬式、初七日、そして四十九日も健二は行くことができなかった。

仕事も一カ月余り休んでしまった。

そのため、あの日以来、お父さんとお母さんにも会っていない。

傷が癒えないまま数カ月。

それでも、生きていくために仕事をしている・・・がむしゃらに。

上司は心配はしているものの、今の健二にどう声をかけていいものか分からないまま時は過ぎていった。

半年がたつと外見は立ち直ったように見えた健二、上司や同僚は一安心しているようだったが一人になると、むしょうに悲しくなり、涙を流す事も少なくなかった。

そして、一年の月日が流れた。

ポストに封筒が入っていた、小百合のお父さんからだ。

『健二君、元気にしているか、小百合が去ってから一年になるな、○月○日に小百合に一周忌をする事になった、もしも君の気持に整理がついたているのらな、一度、顔を見せに来ないか、待っている』

短い手紙、健二の心は揺れた。

穏やかな日差し、時折心地よい風が吹いている。

「気持ちがいいなぁ」

健二はそんな事を感じている自分に少し驚いた。

久しぶりに訪れた駅、歩く道、何もかもが遠い昔に歩いたように感じていた。

そして、小百合が住んでいた家、何も変わらない、たった一年、変わるはずもないけれど健二には懐かしく思えた。

「こんにちは」

気恥ずかしい気持ちで玄関を入り声をかけた。

「はぁ〜い」

元気なお母さんの声が奥から聞こえてきた。

「健二さん、来てくれたのね、お父さん、お父さん、健二さんが」

「おう、健二君、よく来たね、どうぞ入ってくれ」

お父さんとお母さん、久しぶりに見る顔、少し痩せたように思えた。

仏間に通され、仏壇の前に座りお線香を供える。

仏壇の中に小百合に写真は無邪気に笑っていた。

少し離れた場所に健二は座っていた。

お父さんとお母さんは準備のため忙しく動いていた。

親戚だろう人たち、そして小百合がいた会社の人、健二は一人場違いな所に来たような気がしていた。

「健二君、来てくれたんだ」

由美が明るく言って近寄ってきた。

「おう、久しぶり」

「どうしてたの、全然、顔を見せないで」

「元気にしてたよ」

「そう、でも少し痩せたんじゃない」

「そうか・・・そうかも」

「もう、一年になるんだね」

「ああ」

「健二君はもう吹っ切れた?」

「どうかな、自分でもよく分からないよ、由美は?」

「私?どうだろ、あの時以来、立ち直れなくてよく泣いていたけど、今はもうそんな事はないかな、でも、時々ふと小百合の事を思ってしまうの、そうしたら少し泣いちゃう」

「仕方ないさ、おれも・・・時間が癒してくれるよ」

「そうね」

しばらくして、お坊さんが到着し一周忌の法要が始まった。

食事も終わり来ていた人々も帰り始めた。

お父さんが健二に近寄ってきて

「健二君、後で話があるから、もう少しいてくれないか」

「分かりました」

最後の人が帰り、家にはお父さんとお母さん、由美、そして健二だけになった。

「悪かったね、遅くまで」

「いえ、そんな事」

お母さんと、由美はキッチンに行き二人で何やら話をしている。

健二とお父さんは仏壇の前に並んで座った。

「どうだね、健二君」

お酒を健二にすすめる。

「いただきます」

グラスに注がれたビールを一口飲んだ。

「君は、まだ、小百合の事を思っていてくれているのかね」

「・・・」

「まだ、一年しか経っていないから仕方がないか」

「・・・」

「わしらは、小百合の親だし、可愛い娘だった小百合の事は忘れる事は決して無い、しかし君は・・・君の顔を見た時、まだ・・・そうだろ」

「まだ、思っています、僕も忘れる事はできません」

「君が小百合の事を思っていてくれているのは、本当にうれしい、だけれど、もう小百合はいない、君には君の人生を歩いて行ってほしいんだ、忘れろとは言わないが、早く吹っ切ってほしいと思ってるんだよ」

「ありがとう・・・ございます」

「いや・・・」

それから二人は黙ったまま健二はお酒、お父さんはお茶を飲んで小百合に写真をしばらく見ていた。

健二と由美が小百合の家を出て、駅まで一緒に帰る事にした。

「どんな話し、していたの」

「えっ?」

「お父さんと」

「ああ、世間話だよ」

「そう、ふ〜ん」

「由美はずっと」

「うん、出来る限りだけどね」

「そうか、ごめん、本当は俺も・・・」

「健二君は謝らなくていいよ、私が好きでやってるんだから」

「俺なんか、お父さんとお母さんに比べれば・・・」

「そんな事、そんな事ないよ、辛い気持ちは誰だって同じだもん、私だって」

「はぁ、それにしても一年って・・・早いな」

「そうね、あっという間だった、私、いまだに小百合の夢見るの」

「そう」

「夢の中の小百合、いつも笑っていて、いろんな話をしている・・・でもね、声が、声が思い出せないの、どんなに思い出そうとしても・・・うぅ」

由美は両手で顔を覆い泣いてる。

「そうか」

健二は由美の肩を優しく抱いた。


三年の月日が流れた。

健二は結局、一周忌以来、小百合の家に行く事はなかった。

仕事、仕事の毎日、無理に仕事をすることで気持ちを紛らわしていた頃だった。

そして・・・

青空が遠くまで広がっているある日

健二は山の中腹にある霊園に足を運んでいた。

駐車場で車を止めると、そこから市街地が一望でき眺めは最高だった。

健二が車を降りると、続いて助手席からもう一人降りてきた。

「いいところね」

「ああ、天気も良くて気持ちがいいよ」

「そうね」

二人は霊園に入っていき

「確かこのあたりだと」

一枚の紙を出し何かを確認している。

「由美の絵ってホントへたくそだな、分からないよ」

「そんな事言ったら悪いよ、健二さんがちゃんと確認しとかないから悪いんじゃない」

「そんな事・・・・う〜ん」

健二が紙とにらめっこしていると

「健二さん?」

はっ

健二は一瞬、小百合の事を

「健二さんね」

振り向くと、小百合のお母さんがそこに立っていた。

「お母さん、御無沙汰してます」

「本当に、でも、元気そうね」

「はい、お母さんも、元気そうですね」

「お父さんは?」

「ふふふ、昨日友達がいらしてね、久しぶりだったもんだからお酒をたくさん飲んでしまって、今は家で寝ているわ、きっと」

「ははは、相変わらずですね」

「そちらの方は」

「ああ、深田翔子さん、会社の後輩で、お付き合いをさしてもらってます」

「深田翔子です」

翔子は深々と頭を下げる

お母さんは一瞬寂しそうな顔をしたがすぐに優しい笑顔で

「小百合の母です」

そして、健二のすぐ横に来て

「可愛らしい子ね」

「はあ」

健二は頭を掻いた。

「翔子さんて、呼んでもいいから」

「ぜひ、そう呼んでください」

嬉しそうに翔子はお母さんに近づいていった。

「さあ、行きましょう」

そう言ってお母さんと翔子が並んで、健二は後ろをついて行く感じで小百合にお墓に向かった。

お墓の前に来ると

「さぁ」

そう言って、お母さんは掃除を始める。

健二と翔子も手伝った。

一通り、終わり、三人は一息つく。

「ありがとう、健二さん、翔子さん、小百合も喜んでいるわ、きっと」

「いえ、僕も掃除が出来てよかったです」

「私もです、お母さん」

お線香に火をつけお供えをし

手を合わせる・・・長い間、それぞれの思いとともに。


三人は霊園の出口まで来た。

「お母さん、車は」

「私、タクシーなの」

「そうですか」

お母さんは何か言いたげだったが

「それじゃ、僕達はこれで」

「そう・・・ありがとう、翔子さんもありがとう」

健二と翔子が行こうとすると

「健二さん、ちょっと」

「はい」

「少しだけ、お話を・・・」

「はい、翔子は先に車に行っておいて」

「うん」

翔子は一人で車に向かい、お母さんと健二は市街地を見渡せる所まで行った。

「ごめんなさいね」

「いえ」

「いい人ね、翔子さん」

「そうですね」

「でも、大丈夫なの?」

「はい、彼女はすべて分かっていてくれています」

「でもね、いつかは」

「分かっています、僕自身も気持ちを確認するために、今日、彼女を連れて来たんです」

「・・・」

「今日は、小百合と付き合った日なんです」

「えっ?」

「翔子も知っています、今日来る事は彼女も賛成してくれました」

「そう、本当にいい子なのね」

「はい」

「小百合、嫉妬しているかもね」

「えっ?」

「冗談よ、あはは」

お母さんは健二の顔を見て無邪気に笑った。

「健二さん、覚えている、小百合の一周忌の日」

「はい」

「健二さんと由美さんが帰った後。お父さんは仏壇の前に座って一人でお酒を飲みながら『小百合、本当に幸せだったんだな、小百合、健二君、本当にいい子だ、本当に』そう言って泣いていたわ」

「お父さんが、そんな事を」

「私たちね、健二さんには感謝をしているの」

「・・・」

「健二さんと付き合って、健二さんの話をしている時の小百合の顔、その時まで見た事の無いくらい輝いていたわ、そんな小百合にしてくれた健二さんに、お父さんも私も本当に感謝しているのよ」

「お母さん」

「だからね、あなたには、本当に幸せになってほしい」

「ありがとう、ございます」

健二は深々と頭を下げた。

「ああ、翔子さんの待たしては悪いわね、もう、行ってあげて」

「はい・・・ほんとうに、ありがとうございます」

健二は振りかえり、車の方に歩きだした。

「健二さん」

その声に健二はお母さんの方に振りかえる。

手を振って見送ってくれているお母さん・・・健二はその姿が小百合の姿が見えたように思えた。

車に乗り込むと。

翔子は無言で健二を迎える。

車が走り出すと

「翔子」

「うん」

「ありがとう」

「ううん、お礼を言うのは私」

「えっ」

「だって、ここまで連れてきてくれたし、それに、小百合さんのお母さんにも合う事ができたし」

「でも」

「私ね、小百合さんがどんな人だったのか知りたかったの、でもね、お母さんとお話して分かった、健二さんが愛していた小百合さんがどんな人か」

「・・・」

「私がもし小百合さんと会っていたら、絶対に友達になりたいなって」

「そうか、小百合が嫌がったかも」

「もうぉ」

「ははは、悪い、悪い・・・ありがとう、翔子、幸せになろう」

「うん、小百合さんの分まで」

「そうだな」

車が見えなくなるまで見送っていたお母さん。

車に向かってゆっくり手を振りながら

「ありがとう、健二、そして、さ・よ・う・な・ら」

一粒の涙が頬をつたっていた。


End
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