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痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。 作者:夕蜜柑
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防御特化と下流探索。

結局二人は三日目を卵の孵化と二匹との戯れで過ごしていた。
時間は夜の十時。もう一度探索に出るのは億劫な時間帯である。

「あー…どうするー……探索行くー?」

「今日はもういいかな……」

「私もそんな気分…」
二人はそれぞれのパートナーを撫でつつ明日の予定を決めていく。

「明日は下流を探索して、降りてきた方と逆側に上がろう」

「そうだね……ん?上がる!?」

「下りてきた時とと同じように……あっ」
メイプルは完全に後のことを考えていなかったのだ。
そう、メイプルにはこの渓谷から脱出する手段がないのだ。

「ど、どどどどうしよう!?」

「…………どうしよう?」
メイプルがサリーに答えを求めるが、サリーもこれといった解決策が見つからなかった。

「それじゃあ、明日は下流に向かいつつ上に戻る方法を探すことにしよう。流石に何かあると思うしね」
下流を探索するだけのつもりが、思ってもみない問題の浮上によって探索時間が想定よりもかかることになった。
上に上がれる手段が見つからなければ無駄足になってしまうが仕方なかった。

「じゃあ、早めに出発しないといけないね」

「四日目の内に上に出たいからね」
出発時間を早朝四時に決めて二人は交互に眠ることにした。










「おはよう」

「おはよう」
挨拶を交わして二人が探索に向かう。
イベントも四日目に入り、後半戦だ。
メダルを手に入れたプレイヤーも増えてきていることだろう。
奪い取り、奪い取られる戦いがあちこちで起こっているのだ。
それは二人に関係のない話ではない。
戦闘になる覚悟は常にしておかなければならないのだ。

「何かあった?」

「いや、今のところ何も」
注意深く辺りを観察するもダンジョンらしきものも無く、魔法陣も見当たらない。
そのまま下流へと向かうこと二時間半。

道中で数回の戦闘を挟み、シロップと朧のレベルが1上がって興味深いスキルを覚えた。
スキル名は【休眠】と【覚醒】。
【休眠】は二人の指令で指輪の中で眠って安全に体力を回復させるスキル。
【覚醒】は二人の指令に応じて指輪から出てくるというスキルだ。
現在は二匹は指輪の中で眠っている。
霧が深くなってきており、見失いそうになったためである。

そうして、歩くことさらに三十分。
二人はついに川の終点に辿り着いた。
ここに辿り着く前から薄々感じていたことのあった二人だったが、ここにきてそれが確信に変わる。

「ここが霧の発生源だね」

「うん、間違いない」
濃霧はより濃くなっていき、メイプルは既に真横にいるサリーを視認することが困難なほどになっていた。

二人が川に近づいていく。
すると。

ブワッと風が吹いて霧が吹き飛ばされていき目の前が露わになる。
そこには上流同様泉があり、その中心に一つの壺があった。
壺からは白い霧が休むことなく吹き出している。壺は泉の水を吸引して霧を出しているようだった。

「あの壺…調べてみる?」

「………それしかないか」
二人が泉に足を突っ込んだその瞬間。
狙い澄ましたように風が止んで濃霧が一瞬にして辺りを覆い尽くす。

「サリー!いる!?」
メイプルのその声に対して反応は一つも無かった。
メイプルが警戒心を高める。

「うわっ!?くっ!ああっ!」
サリーの声が聞こえる。
ガキンガキンと金属のぶつかる音も聞こえてくる。サリーの声は焦っているようでメイプルの不安を煽る。
声の方へと向かうメイプルの目の前に現れたのは真っ黒な穴だった。
覗き込んでも中は見えない。
しかし、サリーの声は確実にこの中から聞こえてくる。

「よしっ!いこう!」
目をぎゅっと瞑り、穴の中へと飛び込んだメイプル。
目を開けた時にそこにいたのは体から赤いエフェクトを散らしているサリー。
そして。


白銀の全身鎧に身を包み、白く輝く大剣を構えた騎士だった。



「サリー!」
メイプルが驚きのあまり叫ぶ。
それもそのはず。メイプルはサリーがダメージを受けているのを初めて見たのだ。
サリーもメイプルに気付いたようで急いで下がってきてメイプルに寄りかかる。

「だ、大丈夫!?」

「うん、何とか…」
サリーの体を【ヒール】の光が包み込む。
痛々しい赤のエフェクトも消えた。

「私の後ろにいて!何だって止めてみせるから!」
メイプルは力強く言うと新月を抜き放つ。
その刀身から紫の魔法陣が展開される。
騎士はゆったりと剣を構える。

「【毒竜ヒドラ】!」
三つ首の毒竜が騎士へと迫る。
騎士は剣を振りかぶり斬り下ろす。
それは毒竜にずぶりと沈み込み、毒竜を真っ二つに切り裂いた。
しかし、斬り裂けたのは一匹のみ。
残りの二匹は騎士に直撃する。
騎士が呻き、その膝をつく。
それでも剣を支えに立ち上がろうとする。
しかし、それは叶わなかった。
ボロボロになった鎧からは白い光が溢れ始めていた。
騎士は立ち上がるのを諦めたように剣から手を離す。
それと共にその白銀の鎧にも負けない光の奔流となって天に昇っていった。

「怪鳥とくらべれば弱い弱い!」
実際、毒竜を切り裂く能力は驚異的だったがそれにHPと防御力が伴っていなかった。
その点、怪鳥は異常だったと言えるだろう。

「倒せたね!」

「ふふふー!メダルが落ちてないか見てくるね?」
例のごとく討伐地点は毒の海に沈んでいる。
メイプルが見に行くしかないだろう。

「一枚くらいならあるかな?」
メイプルが討伐地点へと向かって歩き出す。






「【ディフェンスブレイク】」
唐突に聞こえた声。
背中に走る痛み。
メイプルが振り返って見たものは何度も何度も自分を切り裂いていく深い青のダガー。

「え?え?」

「あはっ。あはは、あはははははははっ!」
狂ったように笑うそれはサリーだった。

「な、何で!?」
メイプルはガリガリと削れていく自分のHPバーに気付く。
このままでは自分の身が危ない。

「【パラライズシャウト】!」
強力な麻痺の状態異常攻撃。


メイプルは気付いたのだ。
目の前にいるサリーの姿をした何か。
それが、決してサリーなどではないことに。
パーティーメンバーに直接ダメージを与えることは出来ないためだ。

「あはっ、あははは」

「効いてない!?」
強力過ぎる麻痺耐性。
サリーでないことが確定した。
しかしその速度はサリーと同じ、いや、それよりも速い。

「強化されてる!?」
狂ったような笑い声と共に、その姿がかき消えてメイプルの体から赤いエフェクトが弾ける。

「くうっ…捉えきれない!」
自慢の毒竜も、大盾も、当たらなければ意味がないのだ。
幸い攻撃力は高くない。
名案を思いつくか、削りきられるか、どっちが早いかである。




メイプルが偽物と戦っている。
そして、それはサリーも同じだった。



「くっ…メイプルと同じ異常な防御力!」
サリーがすれ違うようにしてその体を斬っていくも、HPバーは一ミリも減らない。
絶望的な防御力に嫌になる。

「出来れば戦いたくない相手の中でぶっちぎりの一位なんだけど…」

「あははははっ!【毒竜ヒドラ】!」
メイプルの形をしたそれから、毒竜が撃ち出される。サリーがそれを躱す。
特別速いわけでもない毒竜を躱すことなど容易だった。
しかし、あれを倒すことは容易ではない。

「これは…しんどいなぁ」


メイプルがサリーに、サリーがメイプルに。互いに信頼している部分がある。
そしてそれは敵に回すととんでもなく厄介なものなのだ。
騎士との戦いなどただの前座。
信頼するパートナーの姿と能力を持った相手との本当の戦いが今幕を開けた。




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