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1−4



 教室を追い出された後、周防と奥村は食堂近くの渡り廊下まで来ていた。二時間目の体育真っ最中のグラウンドから賑やかな声が聞こえてくる。二人は渡り廊下の壁に背を向け、腰を下ろした。

「あぁ、負けた。負けちまった。」

 パーカーを引っ張り、顔を覆う顔周防はうな垂れるようにそう言った。
「それで、その賭けって何だったの?」
 奥村は寒さに震えながら温かいカフェオレの缶を開けた。周防は俯いて息を吐きながら、太ももを擦った。
「数学の課題を完璧に答えられたら、今週の日曜は休みにしてくれるっていう賭け。」
「・・・それって正当な賭けなのか?」
 缶から口を離して、ふと思った事を問う。けれど、周防は自信満々に答える。
「正当な賭けだって。キザ先言っていたし。」
 『キザ先が言っていた』という時点で、きっと上手く言いくるまれたのだろうなと奥村は思った。普段から週末も休みがないと、周防が不満を言っていた。だから、休みがほしいと木崎先生に訴えたのだろう。木崎先生は木崎先生で、勉強に関してまったく無関心で、毎回の定期テストで全教科欠点を取る周防をどうにかしてほしいと、他の先生方から頼まれたに違いない。それで、休みを『餌』に勉強させようという魂胆で、敢えてこんな無謀な条件を『正当な賭け』と言ったのだろう。口が上手いあの先生が、馬鹿な周防を手懐けている様子がありありと思い浮かぶ。


「へぇ、そうなの。」
 奥村は深く突っ込まずに、目線をそらして再び缶に口をつけた。ここで間違っても『キザ先生に、いい様に扱われている』などと、余計な言葉は口にしない。下手なことを言って、周防が木崎先生の企みに気づきでもしたら、まちがいなく木崎先生に目をつけられる。強いものには取り敢えず巻かれろ、奥村という男はそういう男だ。

「そうなんだよ。昨日言われて、すぐにフジオに電話したのにな。」
周防は残念そうに頷いた。藤尾の名前が出て、さすがの奥村も突っ込む。
「初めから、行輝任せか。」
「当然、俺が一人でできるわけがない!」
 堂々とそう言ってのける周防は、ある意味立派だ。馬鹿は馬鹿なりに、自分の事をよく分かっているらしい。
「それもそうか。でも、行輝がよく協力してくれたな。賭けの事知っているのか?」
「お前馬鹿だな、言うわけがないだろ。大体、言っていたら、教えてくるなんてあいつは絶対に言わない。」
 それすらも当然の事だとい言い張る周防に、奥村は声を上げて笑い出した。変な所だけずる賢く、藤尾とよくつるんでいるだけはある。空になった缶を潰しながら呟く。「お前らしいよ。」
「何がだよ?」
 首を傾げる周防をよそに、奥村は立ち上がった。



「それで、行輝はいいのか?」


「・・・・うぉおおおお!しまった、こんな所でのんきに語っている場合じゃなかった。今すぐ藤尾を探しに行くぞ。」


 周防は飛び跳ねるように立ち上がり、奥村を指差すと、そのまま校舎へと歩いていく。その子供っぽい背中に、奥村はふっと笑った。
「まぁ、別に探さなくてもいいと思うけど、あいつがいないと俺が子守役になっちまうしな。」
「何、物々言っているんだよ?早く来いよ。」
 足早に前の方を歩く周防に、奥村は追いかけながら尋ねる。
「けど、探しに行くってどこに行くんだよ?」
 周防は歩きながら振り返り、腕を組みながら後ろ向きで歩くなんて器用なことをしている。
「あいつん家。家に電話した時、あいつの母ちゃんが学校行ったって言っていたけど、何か臭う気がする。」
「臭うねぇ。じゃあ、俺は学校にいるわ。もしかしたら、こっちに来るかも知らねぇし、行き違いになるのも面倒だしな。どっちにしろ、また電話してくれよ。」
 二階に続く階段と下駄箱に続く廊下の分かれ道で、奥村は立ち止まって片手を上げた。「おう、じゃあまたな。」周防も答えるように片手を上げた。
 


階段を登りながら携帯でメールを打っていると、奥村はハッとする。
「そういえば、俺。行輝の家に行ったことねぇな。・・・まぁ、いいか。」
 





 午前8時四十分頃、黒いベンツが東地区の狭い裏街道を走っていた。ゆっくりと車が角を曲がった時、遠くの道路の上に黒い人間らしき物が倒れ込んでいた。運転手は速度を落とし、数十メートル前に車を止めた。
「どうかしたか?」
 後部座席から声がかけられる。運転手は車をパーキングに切り替え、へつらいながら答える。
「へい。それが、路上に人が倒れているようで。今すぐどかしてきますんで、お待ちください5代目。」
 黒に白の水玉シャツが浮き立つ眉毛の薄い運転手は、車を降りて倒れている人に駆け寄った。後部座席に座る男は、緩んだ赤いストライプのネクタイに手をかけ、フロントガラス越しに外を伺っている。



「あの制服は・・」



次回、倒れていたのは・・・・フジオなのか!?「って、あんた。五代目って誰なのよ!?」by.千鶴


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