6-11
十五階から十六階の階段をのぼる鳴滝の元へ、いきなり群れのように周防、東、佐野の三人がやってきて走り転げた。鳴滝を単独では行かせないつもりなのだろう。
「ナルオカ!勝つのは俺だ」
周防が叫んだ。三人とも頭には血管が浮かんでいた。
右側の東は素手で周防の耳をひっぱり、何度も平手打ちしては周防の頭を蹴落とそうとしていた。周防の方は痛みを他所に、赤紐と黄色の紐がついた二本の刀と青い紐のサーベルを持っている佐野の首を腕で締めあげている。鳴滝は三人を見て、まず真ん中にいた周防を軽く蹴った。
「ちょっ」
慌てて、佐野はすべての刀を捨てて階段の手摺りにつかまった。
佐野の首を絞めていた周防は助かったが、より絞められた佐野はたまったものじゃない。一人落ちそうになった東は手に触れらものに咄嗟に捕まった。
「いっていていてぇ!」周防の頭に爪を食い込ませた。
「ふぅ、驚いたよ。まったく」
涼やかにバランスを取った東はサーベルを拾い、笑った。周防は「このぉ」と言ったそばから、佐野から腕を離してしまい、階段から転がり落ちた。ドン、ドスッと廊下の壁にぶつかって周防は痛みに呻いた。東は高笑いした。鳴滝もふっと鼻で笑い、階段をのぼってゆく。佐野は上段と下段を見て比べ、にんまりした。どっちに行ってもどうなるかは同じだ。刀を手に持って、鳴滝、東の後ろに付く。
不自然に、三人の足が速まった。出遅れた周防が十六階を越えた三人を下から追いあげた。周防が佐野ではなく、その前にいる東の髪を引っ張り殴って二位の順位を奪い、十七階へ。
最後の階までとうとうやってきた。次へと進む階段はなく、四面に壁が行く手をくませていた。しかし、周防が十一階で壁を壊してくれたおかげで、壁の先に道はあると分かっていた。鳴滝は腹の帯をまたきつく結び、叫び狂いながら上がってきた周防に迎え打つ。殴りにかかった周防はこの勝敗を自身の勘と勢いにまかせた。
「うりぃあああああああ」
拳に沿うような皮膚を手に感じながら、床に突っ込み倒れた周防。鳴滝の膝が崩れた。脳が衝撃に揺れ、気絶した。周防は見届けるまでもなく、さっと立ち上がり、サーベルで乱れ突いてくる東に右腕を出しストレートから左フック、猛ラッシュの連打を打ち込んだ。サーベルと周防の拳が身を守りながら行き違う。周防の両頬と腕には無数の切り傷がつき。東の左瞼は悲惨にも蒼く腫れあがり、口の端は切れていた。
まだ弱い命を燃やすように戦い、目は重すぎる疲労に充血していた。
動きが鈍くなっていた、これは本来の実力じゃない。これ以上やりあっても力尽きたら負けるだけだ。相手があとどれだけ持つのかも分からない。息が続かないのをいいことに、互いに離れた。階段の最終の段からそのやりとりを見ていた佐野は口笛を吹いた。
周防と東が佐野を見た。唾を飲み込みながら、なんとか途切れそうな呼吸をする。
周防が言った。
「なぁ、外にいるやつらまだ生きてるよな?」
「どうだろう。……できることなら、生きていて欲しいけどね」と、東は戦意が失せてしまったのか、その場に座り込み、目の覚ましそうにない鳴滝に目を向けた。
鳴滝の傷はひどいものだった。
「いなくなると、寂しい連中だよね」
佐野は最後の階に入り、左の壁に凭れかかってしんみりそう言った。
「いなくなるとか、まだわかんねぇだろ」
「ハゲマルの言う通りだ」
「あぁあ?誰だよそれ」
「ねぇ、とりあえず協力して道作って、とっとと外出ない?疲れたよ」
「じゃあ、彼を起こさないと。重症だよ」と言う東に、「さっき動いてたぞ」と気絶させた本人、周防は尚も言った。「俺、刀取りにいかねぇと」
「何度も忘れるなんて馬鹿だよ」
「おい、なんて言ったぁ?」
「まぁ、まぁ。道作っとくから、先に刀を取りに行ってきなよ」
「おう。頼んだ」と片手あげて、周防は階段を下っていった。
周防が刀を拾って十七階に戻ってくると、鳴滝は目を覚まして東と佐野に支えられていた。壁には穴が開いていた。ちょうど、さらに上へと繋がった梯子が覗いていた。あれを一発で見つけ当てたことには、さすがの周防もすごいことだと思った。
「やるじゃねぇか」と、周防。周防に気づいた鳴滝。
「当然だ。喧嘩は終わったのか?」
嘘のように空気が変わって半分面白くなさそうに聞いた。「さぁね」
佐野は首を傾げた。
「僕はもううんざりだ。これ以上、顔に傷がつくと、京佳に嫌われそうだよ」と東。
周防は笑いながら言った。「お前の顔、すげぇもんなぁ」
「ツルツには言われたくない」
「何だぁ、やる気かぁ!」
「いいとも!」
「おいおい」
喧嘩をやり直そうとしている二人に、佐野はついてけないとため息をついた。鳴滝は、東と佐野に「もういい」と告げて、一人、新しい階段の方へ歩いた。
まだゲームは終わってない。
胸騒ぎを忘れ、梯子に足をかけた。人が丸々一人通ることができるだけの、地上へと続く狭い四角柱の穴があいた通路。その壁側に梯子がかかっていた。
一番手をゆく鳴滝の次に不満そうな周防が、三番手は東。四番手は佐野の順で梯子をのぼりだした。真っ暗闇の、それも重力に逆らって梯子をのぼるのは難しいことだった。
負傷さえしなければと、鳴滝は自分の無用心さを呪った。
感覚のみで数メートルのぼりにのぼった。四人とも揃って無言を通していた。
刀やサーベルは梯子をのぼるのに予想以上に邪魔な存在で、壁にぶつからないようにするのに必死だったのだ。汚れすぎた手で梯子を持つたび滑りそうだった。
もう終わりたい。そう望むことすら切のないことのように思えた。と、鳴滝は行き止まりにぶつかった。「いってぇ」
下の周防が鳴滝の足にぶつかり、そのまた下で、東と佐野がぶつかったようだった。「何してんだよ」と周防。鳴滝は何も言わずに手で行き止まりを探った。
辿り先は何かで塞がれているようだ。鳴滝はその何かをドンッと叩いた。
すると、その何かが浮いたのだ。
「蓋か?」鳴滝は何度も叩いて、最後の力でその塞ぐものを上へ叩き除けた――
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