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6-9
 
 
四大将決戦


 
――ドドドドッ。塔の頂上が地下の天井により深く入り込もうとしていた。
囲の土とともに地面から離れてゆく。カタカタカタ。カタカタカタ。
ひどい轟音に雄叫びが圧倒される。直径径八、七メートルとすっかり開いた穴から、
影に隠れた木造の歯車がもう少しで姿を見せようとしていた。
東西南北の生徒たちが塔へ走る。


「行け!行け!行けぇえ!」

掠れきった声が叫んだ。昇るばかりで塔はちょうどいい高さで止まろうとはしない。
その足で飛び乗る他がない。すぐそこまで来ている。

「早く、早く!」

執拗に黒塗りの男たちが行く手を阻むが、うちの大将だけは通してもらうと、
我武者羅に刀で払い退け、行く道を作る。血に塗れ、黒に塗れても、
もう、あいつらを無事、塔へ行かせることができれば上等じゃないか。
疲労さえあるももの、最後の力を出し切れば、黒塗りの男たちの足止めぐらい、
なんてことない。そんなに柔に育った覚えがない。「よっしぁあ」
 大声出して勇み立つ。自分の強さと友人たちの強さを信じているから。
「頼む、通れ!」




 頷くように、四方の方角から塔へ、喉が切れそうなほど息を吐き吸い。
あと200mの距離を、遅くなり速くなりもしながら走り抜ける六人。
北一人、西の一人が塔の土に飛んだ。後から東の二人も飛び。
南は二人飛んだが、南の狩野が着地に失敗し。片手だけなんとか土に捕まった。
疲れ果てた腕では持ち堪えそうにもなく、今飛び降りるのは、
みすみす穴の中に落ちて自滅するようなものだ。だったら、どうする。
助かりそうにない。終わりか。目を閉じずに死を直視した。後悔もなく。
ありのままの誰かを強く信じたことで、誰かの救いの手が落ちた狩野の手を強く引き止めた。

「巽さん」

「……」

 鳴滝は無言で狩野を引き上げようと、息んだ。
 狩野は「おい、藤尾行くぞ」と聞こえてきた周防の声に、はっとして鳴滝に言った。「すみません、巽さん。離してください」

「傷に触りますし。まだ、あなたはこの先へ行かないといけません。
俺がこんな様で、お一人で行かせるしかなくて、本当に申し訳ありません。
……でも、巽さんには必ず勝ってもらわないと。ご存知のはずです。
この場所にいる全員の命の保障がないんです。どうなるか。
あいつら、本気で俺たちをこの場に閉じ込めて殺す気なのかもしれません。
何を考えて、刃物持ち出すこんなゲームをさせているのか分かりませんけど、
あなたはこの塔を出て、それで、ゲームを終わらせてください。

 あなたに相応しいのは頂点なんです。俺はあなたを信じているから、
だから、勝ってくださるのなら俺はここで死んでもかまいません。お願いです!
行ってください。あなたを無事行かせることが、今、ここでの、俺の存在意義で、葛岡高全員の願いなんです」
 もう片方の手を持ち上げて、この状況で、たいそうな科白を吐くとは、
なんてばかばかしいんだ。鳴滝は唸るように言った。「黙れ」

「そうだ。馬鹿じゃないか。ドラマじゃないんだから、惨めに落っこちて死ぬだけだ。かっこつけるな!」

 グイっと、狩野の体が持ち上がったと思えば、藤尾が狩野の片腕を持ち上げていた。

「藤尾行輝」

「英司、何も言わずに先にいけ。――鳴滝くん、その手の俺の腕に掴まえさせるんだ。それで、先にいってくれ。後は俺が何とかするから」
 鳴滝はじっと藤尾を見た。「お前……」
「うるさい、ナルオカ!藤尾は何とかするって言ってんだ。絶対に落とさねぇよ。
敵助けるなんて、藤尾ぐらいだぞ。土下座して感謝しても足りねぇよ」藤尾が言った。「英司、それは大袈裟だ」

「おい、落ちている奴。助けられといて、藤尾に手を出すなよ」

 手を出したら俺が許せねぇと言い。そして、「他の奴らはこの中だな!足痛てぇけど、走ったらすぐだろ」と、ぶつぶつ言いながら周防は塔の中へ入っていった。
「鳴滝さん!」たまらず狩野が叫んだ。狩野はこれ以上、鳴滝に遅れを取って欲しくないと言っていた。黙った鳴滝はまた、じっと藤尾を見てから、「――藤尾行輝、頼んだ」と、狩野の片手を藤尾に預け。鳴滝も塔の中へと向かった。

























 影に包まれた塔の内側、中央に木造の階段が一つ、上へと繋がっていた。
先に着いた周防が三階へ通じる階段をのぼっている。天井から埃が落ちた。
鳴滝は口を腕で塞いで、周防と、後二人を追うため階段を登りはじめた。
足の筋肉がピキピキ鳴り、中古の玩具のように動きにくくなっていた。
油を一滴も注さず、余裕もなく走るなんていつ以来だろう。

 塔三階、四角の狭い空間は木壁で囲まれ、階段に接する床も木造だった。通り過ぎた二階も同じ造りだった。十七階すべてそうなのかもない。味わいのある古い造り、どことなく黒い寺と似通っていた……。三階の木床で「ちょっと、君」と東がはじめて言った「何?」と、佐野。

「僕のサーベルを避けてばかりじゃないか。
つまらないね。向かってはこないのかい」

「……この状況で、それを言うの?」逃げに逃げた挙句、塔の壁に背がぶつかり追い詰めた佐野に、サーベルの剣先を向けている東。フフンと東が笑った。

「君は僕の相手にふさわしくないんだろうね。弱すぎる」


「――ん、悪かったね」

 半分ぶち切れそうになりながらも、冷静に佐野は東の隙を探した。
東は確かに、佐野より強かった。東のサーベルはからかうように、
佐野のわき腹のちょっと横や腕のちょっと下を迂回し。
佐野は刀を構えるどころか、後ろに後退することしかできなかった。
壁にぶつかってからも、東は気を緩めることなく、佐野の行動をいちいち監視していた。 佐野は「これは負けたな」と思った。
塔に来るまではこのゲームに本気になりかけたが、こうも東に徹底的に追い詰められては、佐野の本気はあっさり冷めてしまった。元々、冗談と遊びしか知らない男が、急にまじめになっても不幸になるだけだ。白旗のかわりに、刀を床に置いて、戦意がなくなったと見せようとしたが、予想以上にドンッと床が軋んで驚いた。誰かがやってきたのだ。



「うぉおおお!見っけた」



 見るまでもない周防だ。楽しい遊び相手がやってきた。
周防が叫んだ。「お前ら、俺を置いていくなんていい度胸だ!」
「スルデン!」
 
 東が周防に気を取られた隙に、佐野は刀を持って横にそっと逃れた。
でも、東は佐野が逃げたことなど気に留めていなかった。
「助かった…」と佐野。東は強敵である周防しか見ていなかった。
どうやって、あの禿げた男を跪かせようか。東の頭の中もそれしかなかったのだ。
佐野は物音立てないようにそっと、そっと、壁を沿って東や周防の反対側に行こうとした。だが、周防が刀を投げてきた。赤い紐は揺れ鈴がチャリンと音を立て、刀が壁に突き刺さった。佐野はちょっとゾッとした。もう少し動いていたら顔に刺さっていた。刀は佐野の耳に触れそうだった。周防が言った。

「逃げるな!二人とも俺が殴り倒してやるからな」

「何を言っているのだい。僕の美しい顔を傷つけるだって?」


「無礼な」
 
 東がサーベルで突くように、周防へ走った。周防は考えないなしに、
拳を握り東に殴ろうとしていた。二人が組み合った。
刀をそこらに投げ捨て、転げ回りながら殴り蹴り合いをし出した。
佐野はのろのろと歩きながらも、気づかれないように階段まで歩いて、
一気に駆け上った。
 そうして、ようやく登ってきた鳴滝は、殴り合っている二人を見て、
さっと上の階をのぼる佐野を見上げた。どう見ても、今度は佐野を追いかけた方が
いいなと、鳴滝は階段を登ろうと体を捻ると、わき腹が痛んだ。傷が熱い。
手で押さえて前屈みになった。すると、鳴滝の横を周防が瞬く間に走り抜け、
刀を手に足を引きずっているとは思えないほど力強く、階段を二段飛ばしで登っていった。「ギャ―」と東が叫ぶ声がきこえた。


「ぼ、僕の美しい顔に血が!血が!」


 動転した東はひたすら叫んでいた。東の顔に引掻き傷が三本。
鳴滝はそんな東を振り返ってから、まっすぐに立って、手すりに手をついて急ぎ階段を登った。








 六階、最初にやってきた佐野が廊下に寝転んだ。ハァハァと、息が上がりすぎて、
突然、途切れてしまいそうだった。床の振動で、誰かが登ってくる気配はするが、
誰だろう。起きないと。
 思ったより厳しい立場だ。周防はとにかく、後の二人は化け物だ。逃げないと。
よろよろ壁に手をついて立ち上がったとき、いきなり現れた周防が佐野の顔を殴った。

「かっ」

 麻痺する感覚と、じわっと、口の中が血で溢れた。
床に倒れた佐野は顔面押さえ、血の唾を吐いた。佐野の前に立ちはだかった周防が笑っているように佐野には思えたが、ドンッと大きい音が鳴ると、
周防が佐野に覆い被さってきた。違う。飛んできたんだ。
カードし忘れた佐野は頭を壁にぶつけ、意識が飛んだ。
佐野と周防の少し向こうで鳴滝が立っていた。
飛び蹴りしたのか。この距離で!

 周防が佐野の上で声を我慢しながらも痛がっていた。
階段から東が怒りながら登ってきたが、「僕を置いていくなんて……」と言いかけると、鳴滝が肘で東の顔を殴った。「グヘッ」後ろに反れた東の顔から鼻血が噴出し、東は慌てて両手で押さえ、座り込んだ。鳴滝は三人を見下ろすと、静かに階段へと体を傾けた。と、周防が「うおぉおおおお」立ち上がって、ガッと鳴滝の肩を掴んで、驚き振り返った顔を殴った。



「ナルオカふざけるなよ!お前の弱っちぃ蹴りなんて効いてねぇよ」



 鳴滝は膝をついた。殴られた衝撃が全身を、特に、傷口を激しく疼かせたのだ。一発殴ったぐらいなのに様子のおかしい鳴滝を見て、周防は首を傾け、「まぁいっか」と殴らず
に階段を飛び登った。









 塔の八階、一人周防は廊下を塞ぐ木の壁を叩いた。
叩いた感覚では、周防の叩く壁は重いというより軽かった。ところで、
なぜ周防が壁を叩いているのか、というと、周防は窓を探していたからだった。
塔の外から見たとき、確かに十七重塔にはすべての階に窓があったはずなのだが、
塔の内側はすべて壁に囲まれて、窓すらなかった。
もしかしたら、この壁の先にあるんじゃないかと周防は直感的に思ったのだ。
 しかし、窓を探してどうするつもりなのだろうか……。
周防が言った。「壁壊すしかねぇか」

 塔の持ち主に許可もなく、周防は自身の拳で壁をぶち抜こうとしていた。
だが、下で何やら動く音が聞こえて、周防は舌打ちして、階段へ走った。あとの三人が上に登ってきたのかかもしれない。










メーリ クリスマス!
白ケーキに顔面からダイブしたかったのに、
勿体ないとケーキが逃げた。
夢です





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