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6-8



「え~~。嫌だよ」


 不意に、柳岡の声か聞こえてきた。
柳岡だけじゃない。

「でもね、でもね」
「お嬢ちゃんが倒れてくれないと、おじさんたち困るんだ」
「そう、そう。お願いだから、向こうで少しの間寝ていてくれないかな。
気絶した振りでもいいから。ね?」


 地味声の三人の男たちが、柳岡相手に必死にお願いしているようだった。
「横になってくれるだけでもいい」と。さすがに、
女の子である柳岡に手を出せないようで、川口は他人事だと内心笑っていた。
柳岡は言った。

「嫌だよ~~。悠ちゃんと荘ちゃんに、ここに座っていろって言われたから。
動かないよ。それに、麗は満ちゃんが起きるの待っているの!」 

川口は小声で「げっ」と叫んだ。





「満ちゃん?」




「あそこで寝ている子だよ~」

 わざわざ教えなくてもいいのに、
柳岡は寝ている川口を指差しているのだろうか。
足音が近づいてきて、川口の頭を蹴った。

「満ちゃんを蹴っちゃ駄目だよ」

かわいい柳岡がそう言うならと、
「あぁ、ごめんね」男たちは蹴るのを止めて、川口の頭を撫で出した。
川口は「無言、無表情、僕は睡眠中」と声もなく唱えた。
男が男に頭撫でられるなんて気色悪いかった。
しかも、知らないおっさんになんて、尚更だ。
吐き気がしてきた。

「もう、無理や!」

目をぱっちり開けて立ち上がった川口は、頭を撫でていた男の顎に突撃。
「満ちゃん」と言う柳岡を他所に、川口は「ハァッ」と息み、体勢を低くして走り、
柳岡の隣にいる一人に抱きつき。頬を限界まで引っ張ったり、ビンタを繰り返し。
男は「降参」と、後ろに自ら倒れた。残った男はあたふたと刀を三本持ったが、
川口は柳岡の手を取って、格好よく「行くで!」と、塔の方角へ走った。
下り坂を走る川口と、引っ張られ走る柳岡。どんなに戦っても、
坂ノ浦学園高校の生徒も黒塗りの男たちも、敗れは起き上がり。
体が傷つこうか、負けたくない思いひとつ、その場から離れられない戦いを繰り返した。先に行った佐野たちに追いつく必要なんてない。そう思ったのか、すんなりと、走ってきた川口たちに「通れ」と道をあけてくれた。 黒塗りの男も戦いに夢中なのか、邪魔をしようとする気配すらなかった。柳岡はそんな男たちに「頑張って」と元気つけとうとしたが、言葉を口にする前に速く遠ざかってしまった。
後ろで、腕を切られた男が悲痛に叫んだ。

冬の、学校のマラソンのように、風が冷たく辛い距離を喉が痛くなるほど走った。
温かさなんて物はない地下のかわりに、心臓だけが熱をしきり全身に運んだ。
脹脛の筋肉が張っていた。繋いだ手が汗で滑りそうだったが、
川口が何度も繋ぎ直し、力強く柳岡の手を握った。
誰かの体から血が噴出し。殴られ。蹴られ。倒れ。川口の手から離れれば、
いつ、ひ弱な自身の身に何が起こるかもわからない。
女の子がゲームに参加するなんて、両親にも友達にも無茶だと散々いわれたけれど、
せっかく巻いた髪が崩れて泥がついても、守れなくても守られなくてもいいから、
こうやって一緒にいられるだけで柳岡は嬉しかった。



























「あ、おった!」


前しか見てない川口が叫んだ。
柳岡は「なぁ~に?」と聞きたかったが、苦しい息しかでなかった。
川口はぱたりと泊まり柳岡を振り返ると、息を弾ませ
「すぐそこに佐野ちゃんたちが見えているのが分かるか?」と言った。
柳岡は首を横に振った。酸素が足りずに、目の前が真っ暗になっていた。
顔も青白い。「麗?」と川口が言うと、柳岡の気持ちに反して、
足がガクリと曲がり、まっすぐ立っていられなくなった。
川口のせいなのに、はぁとため息をついて、「……ごめんね」と謝る柳岡に背を向けて、座り込んだ。



「しゃあないから、俺の背中に乗れ!」



「えっ、いいよ~。自分で走れるよ」

「無理やろ、どうみても!ほれ」

川口は柳岡の腕をとって自分の首に回し、柳岡を背負うなり、
「重っ」と漏らしたが、柳岡は聞かなかった事にした。
川口はジャンプするように、背負い直して走り出した。
上り坂には道を通してくれそうな男はほとんどおらず、
川口はスルスルと奇跡のように避けていた。
背負われた柳岡は目をつぶっては開いた。


「おい、怪我ないか?俺の最強の反射神経について来れるのは
山田ぐらいやから、大丈夫やと思うけど」

川口は得意げにそう言い、「よぉ、待たせたなぁ」と大笑した。




「川口!」


「麗も来たのか」

川口の背を見て、佐野が言った。
「てっきり、お前は最後まで寝た振りしてると思った」
山田が言った。佐野も葛木も頷く。

「そうしたかったけどなぁ。おっさんに頭撫でられるのはアカンわ。
撫でられるぐらいなら、戦ったほうがマシやわ」

「何でお前の頭を撫でるんだよ」

「分からん」

「あとちょっとで着くから、終わるまで塔の中に隠れてたら?」



「そうやなぁ。あの塔に隠れたら、誰にも追われずにすむかもしれんし。
安全かも知らん。でも、縦に長いホラーハウスみたいやねんけど……
あ、誰か出てきた」


「ん?」


約四百メートル先の塔の七階、黒い高欄が付いた廻縁に、
顰の面を被った男が出てきて法螺貝を吹き、もう一人出てきた男は
四角い枠の中に丸い円がぶら下がる物を運んできて、ゴォーンという音と、
張り裂けるシンバルのような音を叩き鳴らした。「何?」全員が首を傾げた。


――カタカタ。カタカタ。



「何の音?」
「地震?」

「地震じゃないやろ。地面揺れてないし」と川口。「じゃあ、何?」

「あそこで貝吹いている奴らが原因なのは確かだな」



「――あの塔、動いてないか」

葛木が言った。全員がじっと塔を見ていた。
カタカタ。カタカタ。

「もしかして?」

「まずい」山田が麗を川口の背から下ろして、
近くにいた坂ノ浦学園の生徒に「しばらく、こいつ預かってくれ」と押し付けた。
「私も行くよ~」
「駄目」と拒否する山田。 葛木は叫んだ。


「佐野ちゃん。今から俺と山田と川口が援護するから、走れ。
それで、何がなんでも塔の中に入れ」


「ん、わかった」

「川口、行くぞ」
















走って、走って、走りまくる。
それが青春。
近頃、筋肉痛が・・・


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