6-7
西・坂ノ浦学園高校の場合(参)
砂埃を薄目で見れば、ずっと向こうに凛々しい男前が立っていた。
赤い染みのついた包帯のようなものを腰巻き、シャツを羽織り。
顔のすべてのパーツが整っている。それに、色気もあるように思えた。
年上か。巨体を倒したのはあの男なのか。
佐野は「誰だろう」と小声でつぶやいた。
見たことのない顔だった。相手も佐野同様、じっくりとこちらを見ているようだった。
顔は黒く塗られていない。汚れに汚れたシャツやズボンがどことなく、
スーツのような、制服のような……。緑の紐に結ばれた刀……。
これと同じものが右手にあるような気がする。
佐野の持つ紐の色は黄色――思い出した。
北か、南の大将!
どうやら、その一瞬、相手も思い出したようだった。
両者の足が動いた。踵を高く上げて、爪先で走る二人。
そう長くない距離を縮め。バッドを振るようなフォームで刀を振った佐野に
相手が足で蹴り止めた。「おぉ!」と、空いた左手で顔面を殴ろうとするが、スカ。
相手を避けて、佐野のわき腹を蹴ろうと足を振り上げた。
間一髪、刀でそれを防いだが、あと少しで当たっていた。
一ヶ月半前に作った痣がきれいに治ったばかりなのに、
また作るつもりなんてない佐野は一歩後ろに下がった。すると、
攻めてきてもおかしくなかった相手も一歩下がった。
互いに威嚇するように、眉を潜めたが、
すぐに決着がつきそうにないのは直感的に分かった。
この男は手ごわい。
決着がつかないなら、ここで足止めを食らうよりも、
前に進んだほうがいい。ゲームを終わらせるためにも。
仲間のためにも。どうぜ、塔に向かうのには変わらない。
身を引いたほうがいい。と、佐野は相手より先に背を向けて、
元いた場所へ戻った。
もしかしたら、攻め追われるかもしれないが、佐野が思った通り、
相手は追ってはこなかった。振り返ると、相手も佐野と同じように元いた場所へ戻って行く。
次にあんなのと会ったら、どうなるのだろう。
周防となら、楽しく遊べそうなのに。佐野は先読みできなくなったゲームに、
ここに来て初めて戸惑った。
「佐野ちゃん。何処に行ってた?」
山田が言った。黒塗りの男の腕を背中で押さえ、
男は「痛い痛い!」と叫んでいるが、山田は姿を見失って倒されたかと思ったと言った。
「――ん、大丈夫。ちょっと北か、南の大将に会ってた」
「大将!」
葛木が山田の横に来た黒塗りの男の足を引っ掛け、
倒れた上に座り込んで「どうだった?」と聞いた。
「思ったより、男前だった」
「オレ、顔の事なんて聞いてない!」
「男前?」山田は抑えていた男に頭突きした。「北は西洋風の王子だって噂があるけど」
「顔がいいと強いのかよ」と、葛木。
「王子というか……。ヤクザ?」
「は?」
山田と葛木は声揃えて、佐野を見た。
「俺のイメージでは、男前のヤクザだった」
「ヤクザの息子か!」葛木は下で暴れる男の手足を引っ張りながら叫んだ。
山田は二回目の頭突きをして気絶した男から手を離し、地面に置いた刀を取って、
次に来た黒塗りの男に投げた。
「さすが、大将は半端じゃないな」
「失敗した。俺は東の周防ちゃんとやり合えたら満足だったのに」
「我侭言うなよ。それなりに実力あるくせに!で、あいつは起きたのか?」
「誰?」
「川口!」
「川口か」佐野は言った。
「どうだろうねぇ。危ないから麗と一緒に置いてきたけど」
「……あいつは、川口だからな」と、山田は無愛想に声だけで笑った。それに、葛木は「あぁ、そうだった」と頷いて、座る土台になっていた男の背に力いっぱい肘を打ち込んだ。
この地下の舞台でゲームが始まってすぐに、
二つ岩から三メールも離れていない所で寝覚めした川口が、
精神的に朦朧としながら、ぽつりと言った言葉は、とても惨めったらしかった。
「あぁ、神様。僕はなんで、こんな所で寝ているんやろうか」
刀を合わせる大勢の男たち。世にも恐ろしい奇妙な声。
走り回る地響きが耳に全部入っていく。殴られて、変な物でも見えているのだろうか。
川口は起き上がろうにも起き上がれなかった。手を組み、じっとしているしかない。数メートル先で黒塗りと男と、坂ノ浦学園の生徒が取っ組み合っているからだ。汗じゃなく、涙が流れ落ちそうだった。
次回は早めに書きたいものじゃな・・・
あと四話で終えてみせる!!
11月20日はHP、89-luxの二周年記念日だ!?
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