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俺の一生はまだ始まったばかりというのに、
一日も一年もいつもいつも、余分に長すぎた。
知らずと生きる日々には、人々、些細な動作、それを包む世界が現れ。
時に、辛さを与えては喜びを与え、柔い心を大小かまわず揺さぶる。誰にも本当は必要とされていない。誰もほしくない。何も上手くできない、人より劣る。人とは違う。己が何者なのかが、わからずに叫び。暴れ。壊し。最後に気づく。
あぁ、どうして気づかなかったのだろう。
壊し終えた後に気づく。それは最大の過ちだ。涙を流し、壊れそうだったのは、真実を知ろうとした俺だったのに。他人を壊して、俺を壊し。見捨ててしまっていた。信じたくなかった。目に写ったすべてを殴り倒しても、後には忘れてしまう、ほんの一瞬だけの優越感を感じるだけ。使い捨てのような安っぽい優越感。そんなものの為に、理性を失ってしまう。野獣のように荒れ狂う血筋のせいではなく、大勢の中でしか見られない俺のせいだ。信じられず。まったくの別人にならなければ、清廉潔白なあの人に会っても、同じことをしてしまうのではないか。傷つけてしまうのではないか。そう思うと、ますます己も、己が纏うものも嫌悪するしかなかった。俺は変りたい。変えたい。用意されたものになるのではなく、人を救える善人に。そうなれば、きっと……
見えない九掛ける九の升目の内、歩兵が一歩づつ進むとき、
桂馬が敵の歩兵を攫り。飛車が二つ歩んでその下に控える。
玉将を前に左金将も同じく前へ進み。右金将はそのまま。
角行は全体の様子を見ながら斜へ。ここは将棋盤の上ではけしてないが、
そう変わらない位置で全駒が戦っている。
将棋の駒はもともと、刀を振り回す者たちを表されているのだ。
平和を謳う現代に、この身をもって戦を経験し。これが最後の大喧嘩になるなら、
これほどまでに光栄なことはないだろう。
腰を捻ると同時に足を高く上げ、黒塗りの男の顔面を蹴ると、
また、足を上げて斜めの方角にいた男を蹴飛ばした。緑の紐をベルトループに通して、
ギラギラとした刀を無理に縛り付けていた。刃が鳴滝の太股に刺さりそうで刺さらない。怪我をしたと思えないほど、鳴滝の動きは俊敏だった。
狩野とトドは互いに皮肉りながらも頷き合って、
トドは目に見えた男たちをタックルし。狩野は片手で一人の首元を掴んで、
男三人の方に投げた。鳴滝たち一同はやっと上がり坂のちょうど境目に差し掛かった。
下り坂はラグビー部専用のグランド十数周ぐらいだろうか。坂を走りぬいても、まだ、同じほどの上がり坂があり。それを上りきれば、塔に出会う。障害もなく駆け抜けたら、ここから塔まで十五分もかからないだろうに。一日二日、三日?蓄積された疲労が生徒全員を苦しめていた。
横にも縦にも長い、巨漢の黒塗りの男に手間取っていた桃武が転倒した。
足で数回、腹を蹴られるが、日頃から腹筋を鍛えている部長は、
体を丸めて男の痛い蹴りに耐えていた。葛岡生たちが「何を!」と
タックルや腕掴んで技をかけるとするが、この巨漢は重すぎて技をかけようにも、
子供が親の手を引っ張って遊んでいるようなものだった。
タックルなど、巨漢がビクリと動いただけ。男はたるんだ瞼の下にある小ぶりの目でこちらを見下ろしていた。さすがの葛岡高校も、こんなに大きく丸々太った男はいない。
2メートルはいっているんじゃないだろうか。殴られたら、吹っ飛ぶだけではすまなさそうだ。
けれども、そんな程度ではひるまないのが葛岡高校生だった。
重森が巨漢の足へ、さっと奪った黒塗りの男の刀を投げた。
巨体を支える足を狙えば、塔へとつづく道を通してくれるだろうと重森は思った。
しかし、巨漢は縄跳びでもするかのように刀を飛び越えた。
意外にも男は身軽だった。葛岡生二人の首をさっと掴んで、顔面をぶつからせた男は、気絶した二人で周囲を殴り散らし。狩野とトドの間にいる、
鳴滝の方へ急に走り出した。地面が鳴る。「誰か止めろ!」
重森は叫んだ。鳴滝は怪我をしている!と、口に出せばいいのだが、
「なんだ?」と、暢気にこっちを見た葛岡生は役には立たない。
いちいち説明している暇はないんだと、重森は自らが巨漢を追いかけ、
がっちりと腹を掴み。「よぉいしょ」と、真っ赤な顔に腕に筋肉がもりあがる。
重森は巨漢を少しだけ持ち上げた。が、ピキピキとどこかしら無理があった。
逞しい筋肉を持っているとはいえ、巨漢を投げる力はない。
だから、重森は巨漢を振りまわそうと回転しだした。
振りませば回すほど巨漢は重くなるのだが、この巨漢を倒さなければ、
全滅してしまうかもしれない……
焦った重森は筋肉が壊れ力尽きるのを覚悟して振り回った。ところが、
巨漢はただ振り回されているだけではなかった。肉のたっぷりついた腕を曲げ、軽く重森の顔面を直撃。「ハッ!」重森は鼻から血を流し倒れた。少々、目が回った様子だったが、巨漢は頭を振ってから鳴滝の方へ、体を揺らしながら全力疾走した。鼻時を押さえながら、「狩野!」重森は叫んだ。
狩野は振り返ったが、巨漢は狩野の横を素通りし。
別の男とやり合っていたトドが気づいたときには通り抜けて、
鳴滝にタックルしようと飛んだ。鳴滝は巨漢に気づいてはいなかった。
巨漢にとって絶好のチャンスだった。
巨体が鳴滝の背を押しつぶそうとしていた。が、鳴滝はその瞬間、
誰かに突き飛ばされた。
「ぐはっ」
巨体が体当たりしようとしていた相手の鳴滝は地面を擦り飛んだだけで、
他に無傷だった。男は自分の巨体の下敷きになったか細い少年を見て首を鳴らし、
立ち上がった。咄嗟に、その少年は鳴滝を突き飛ばして身を張って庇ったのだ。
巨体はそんなことは気にせずに、鳴滝を押しつぶそうとまた全力疾走しだしたが、
今度は鳴滝自身がそれを避け、倒れた仲間を鳴滝はそっと起こした。
「お前」
――宇治だった。鼻からも口からも血を流していた。
宇治は虫の息で「おにぎりのお礼がしたくて」と言った。
「礼など!」
「いいんだ。ここまで来れるとは思ってなかったから。
こういうのも面白いね。運動部に入ってみようかな……」
思ってもいないことを口走った宇治は間もなく意識を失った。息はしている。気絶しているだけのようだが、ぐったりとなった宇治を鳴滝はそっと地面に寝かせ。また馬鹿みたいに突進してくる巨漢に、鳴滝は渾身の力をかけた蹴りをお見舞いしてやった。男は地面を削り倒れ、すぐにいの中のものを吐き出した。鳴滝の怒りは、巨漢の胃にまで届いたのだ。男が吐いたその場所にいた少年が「汚ねぇ!」と叫んだ。鳴滝は黒塗りでもない、ごくふつうの金髪の少年を見据えた。
ちょっと、遅くなった!!
寒さのせいにしておくれ~
次回、坂ノ浦!!出会っちゃったよ~編
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