6-5
南・葛岡高校の場合(参)
ギリギリと刃が削れ、こぼれた。力づくで押し込んでくる黒塗りの男は、
狩野の後ろで膝をついた鳴滝を見て、狂ったように狩野を押した。
あと少しで大将の首を取れる。例の金が余分に手に入ると――
「巽さん!逃げてください。こいつ、なかなか力があるんです」
「おい、狩野忠史」
狩野の反対側で鳴滝を守るように応戦していたトドが叫んだ。
「ちょっと、耳を貸せ」
「なんだ、トド。今、忙しい。手を貸すなんて余計な事ほざくなよ」
「ほざくなとは、何だ?先輩に向かって生意気な!」
「ちょっとちょっと、言い争っている場合じゃないでしょ」
狩野に食って掛かり、トドが余所見した所を殴りにかかった、
黒塗りの男の首元を重森はさっと掴むと、足を引っ掛け男を地面に叩きつけた。
以前、狩野にかけた技だ。狩野は奥歯を不機嫌に擦らせた。
神経質とはまったく縁のない男、重森は、
狩野とトドに守られ膝をつく鳴滝の腕を掴んだ。
「どうした?怪我でもしたのか」
半身持ち上げられ、鳴滝の髪が顔にかかった。
狩野はカッとなって重森の手を叩いた。
「触るな。少し腹を切られただけだ」
「切られた?」
よく見れば目を閉じた鳴滝の男前の顔には汗が垂れていた。
かすかに息が震えている。片手をわき腹に当てていたが、その手に赤い血がついていた。
「深いのか」
狩野は頭を掻き毟り言った。束ねた髪が数本乱れ飛び出た。
「わからない。俺は倒れた鳴滝さんしか見ていない」
重森は狩野に舌打ちして、鳴滝を覗き込んだ。
鳴滝は苦悩しているかのように眉に深い皺をよせて頷いた。
「何言ってんの?大丈夫なわけないでしょ」
「ほら、全員ボサッとしているな。援護しろ」
重森はその場で多く叫んだ。汚くなった制服のシャツを無理やり引き千切り、
歯で噛み切った。そして、鳴滝の血のついた手を取り払い、
鳴滝のシャツを脱がせるようにトドに言った。
「へ?脱がせるたって……」
「早くしろ」
狩野が怒鳴った。
「……なっ、生意気な狩野め」
「先輩、早く!」
「わかった!」
しゃがみ込んだトドが鳴滝のシャツを腕から丁寧にシャツを脱がし、
下着のタンクトップも頭から脱がせてやった。
「まったく、先輩を敬う後輩はどこにいる……!こうでいいか」
重森は頷いて切り裂いたシャツをきつく鳴滝の腹に巻いた。
あまりにもきつくまいたから、重森は鳴滝が声をあげるかと思った。
だが、鳴滝は声一つあげることなく、シャツを腹に巻き終わると、
重森の肩を持って「肩を借りる」と言った。
「もう立つのかよ」
シャツだけを上から羽織り、体重を半分以上重森にかけて、
立ち上がった鳴滝は「大丈夫だ。目眩がしただけだ」と低く言い。
葛岡高校生が集まりに集まった周囲を見て、
「俺は大丈夫だ。先へ進むぞ」と、自らが先頭になって
葛岡高校生たちはいさましく叫んだ。
「おい、鳴滝!」
一人だけ鳴滝の名を呼んだのはトドだった。
鳴滝は声もなく振り返った。鋭い目がもっと、険しくなっていた。
儚い容姿など、微塵もない。トドは言うのをためらったが、
我慢して言わないのは性に合わない。
「無理をするな。動けそうにないなら、リタイヤしたってかまわない」
鳴滝は目線をトドから地面に落とし、言った。
「――柄にもなく、俺に泣き言を言わせる気か。反吐がでる」
トドは静かなる鳴滝の迫力に乾いた唇を舐めた。
鳴滝は尚も言った。「俺のじいさんがやり遂げたゲームだ。
半端であるはずがない。
先輩と名乗った奴が言ったとおり。
大将である俺がこの場所から抜け切れなければ、ゲームは終らない。
このかすり傷は序の口だ。ここで諦めたら何も終れない。
生きたければついてこい」
放たれたシャツの前から覗くのは、包帯のように巻かれた血の滲んだ重森のシャツ。
男前の顔には苦悩が浮かんでいた。紛れもなく、その男には相応しい道があった。
誰にも疑いようのない道が目の前に。
それでも、鳴滝という男はその道を見てはいなかった。
ゲームが終われば、すべてが終わる。思いひとつで、血の出る体を動かした。
なにもかもが――あの塔の上へと。
「出て行かないで」
「わしはなぁ、ヤクザが怖い」
「愛したかった」
「生まれてきてよかった」
「可愛い子!」
「血が嫌いなんか?」
「いやぁあああああああああああ」
常に<暴力表現猛注意中>
漢字ばっかりだな。
作者、風邪引いて更新遅れている。
イァッホー
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