6-4
「何してんだよぉおお!」
逃げようとしたはずの生徒たちがいきなり発狂して、
次々に吉柳の首を絞める黒い男を叩いた。
頭や肩、腰、足。いたるところを激しく叩かれて男は少し屈み、
嵐のような集中攻撃にもはや吉柳を持ち上げられる余裕はなかった。
吉柳が地面に倒れたが、泡を吹いたまま動かなかった。
死んではいないよな……。
ひたすら叩かれている男は地面へ張り付くように頭を抱え、
丸くなり。我を忘れた集団に叩かれ蹴られ、
そのうちに、男まで動かなくなった。急所に当たったのか。
逃れようとして、吉柳が落とした刀に伸ばされた手はとても痛々しい。
ずっと見ていた三成は「あいつら、なんだよ。やるじゃねぁか」と漏らし、
心配いらないならと、目の先にいる東たちへと急いだ。
並木は190センチという高すぎる身長をもろともしない軽い足取りで立ち回ると、
黒塗りの男の腹を一撃し。刀を横に構え、別の、
小太りの男の刀に押されている八王子を見つけて、近くに駆け寄った。
「男たちの走り方が妙だ」
八王子の隙に付け込もうとした男の足を、並木は払い。
巨体の半分の体重をかけて、男の身体を足で踏みつけた。
蛙のように男は喚いた。「――妙って?」
押された刀をわざと一旦引かすと、力をかけすぎた男がよろめき、
刃が八王子の胸へ一段と攻め寄ろうとしていた。
だが、八王子は男の脂汗臭い体臭と息を嗅ぐ前に、
刃を真下へ転がし、男に刃紋が見えるように動かした。
そして、さらに、刃先の方をぐい持ち上げ、男の刀を横へと強引に反らした。
刀の側面に傷がついたが、八王子には気にはならない。
「こっちに走ってきていたのが、急に走る方向を変えている」
「ゲェヘヘ。ゲェヘヘ。これで金がもられるなんて、たまんないよぉ~」
熱っぽく、もう一度立ち上がった男を今度は並木が逆手で持った刀で
光のよりに打ち返し、一歩踏み込んで顔を殴った。これも一撃だ。
男は目をまわしながら、気絶した。
「方向を?」
八王子のちょうど足元で伸びた、男の垂れた涎が黒い塗料を洗い流し、
濁った素肌が見えた。
「こんな奴もいるのか。金の為に……。襲われたりしてないよな……」
八王子は顔を上げ辺りを見渡しながら、言った。
「並木、どっちに走っている?」
「西と東だ」
並木は一撃で確実に一人一人仕留めながら、
「どうやらあの塔の西と東側には誰かがいるんじゃないか。
まさか、塔に逆戻りしているとは思えない」と言った。
「誰か。何かいるっていうのか?」
「今、考えられるのは、あの三校だろう。
さっき、先輩が“戦場”だと言っていた。
この男たちを倒し終わったら、鉢合わせさせる気なのだろう」
「正気か。まだ、戦わせるのか?」
「そのつもりらしい。さすがに疲れたな」
「そうだな、疲れた」
八王子は男の顔面を連続で殴った。「――って、言っている場合じゃねぇ。
俺は気が気じゃないんだ。並木、ジャーナル部がここに来ているのは知っているか?」
「ジャーナル部?丸池先輩ならあそこにいるが」
「先輩じゃない。玖珂とかそういう下っ端の奴らだ」
「玖珂さんたちか。それは知らなかった。
こんな所まで来ているなんて度胸がある」
「アイツらを褒めるな。俺はあの度胸というか、
強情さには困り果てているんだ」
並木は倒した男の首元掴んで笑った。
「あのときはどうやら思い違いをしていたらしい」
「どう思おうが、並木の勝手だ」
並木はまた笑った。
「御手洗くんが言っていた。誰も気づかなかったが、洞窟のあちこちで光が見えたと。
もしかしたら、ジャーナル部だったのかもしれない」
「フラッシュか」
「ここが明るいのはライトが地面に埋られているからだ。
ここに隠れ場所があるとは思えない。あの塔にいる可能性がある」
八王子は塔を見上げた。「あの塔は地上に繋がっているのか?」
「行ってみないことには、分からない」
フランセルは歯をガタガタ鳴らして逃げ回っていた。
半ば滑るように走っていた。
刀ぐらい簡単に使えるだろうと思っていたのに、
真剣は片手で持つには重すぎた。偽刀に持ち替えようにも、
刀の入った缶から遠ざかってしまっていた。
地面が軽い坂のように下りになっていて。また、もっと塔に近づけば、
きっと同じような上りの坂があるのだろう。塔が小高い場所にあることがわかる。
地面は随分緩やかなVの字のように上がり下がりしていた。
フランセルは後ろを振り返った。
後ろには黒塗りの男たちが六人も追いかけていた。おっかない顔をしている。
フランセルは仰天して、走ってどうにか逃げ込きろうとした。
けれど、前から来た黒塗りの男たちが刀をフランセルに向けて構えていた。
「うわっ、挟み打ちされる!」
フランセルはつい、口を開けて脱力して刀を落としたというのに、
焦ってそれに蹴躓いた。こうして、痛い、痛いと膝を擦っていると、
追いかけてきた男が急には止まれないと、フランセルの足に躓いて、
ちょうど塔から走ってきた男たちへ飛んでぶつかった。フランセルの目の前で繰り広げられた、マンガのような出来事に思わす笑ったが、文句を言い合っている男たちからそそくさと離れ、サーベルで突きまくっている東に叫んだ。
「会長、これをどうにかしてほしい」
後ろを指して「倒してくれ」と言った。
東は走ってくるフランセルと、顔を抑えてフランセルを追っている黒塗りの男達を見て、綺麗な面を膨れっ面にさせた。サーベルで襲ってきた男の手を突いて、華麗に一回転し、そっと近づいて、顔を叩いた。
「フランセルくん、僕に命令しているのかい?」
「命令だなんて、そんなこと――」「それじゃあ、八王子くんと喧嘩をするような君が、どうして逃げているのかな」
フランセルはばつが悪く、言った。「――この刀は重すぎて」
「そうかい。だったら、この男の刀を使えばいいよ」
と、東は地面に転がった刀をフランセルに投げた。
「僕は、浮気者は好きじゃないんだ。君らのような愚か者がいるから、
無実の者まで疑われるんだ。大いに一人で戦ってくれたまえ」
追ってきた男が刀を振ると、フランセルはひょういと避けて
「会長、勘違いです。そんなこと言わずに助けくださいよ」と言った。
「いいや!僕ならけして京佳を裏切ることはしないさ」
東は長い髪をなびかせて、塔の方へと行ってしまった。フランセルは思わず舌打ちした。
「浮気しないなんてよく言い切れる!
目の前を通ってゆく、麗しいレディーたちを放っておくなんて、
普通の神経じゃできないね」
東が投げた刀を拾い、真剣を投げ捨て。「浮気をどう思う?」と、刃を向けた相手に聞いた。
「――浮気?今はそんなこったぁ、どうだっていいだろ」
散々走らせやがってと、いつの間にかカンカンになっていた男は、
フランセルの刀を金槌で打つように、強く叩いた。
刃を止めるたびに、カンカンッと鳴っている。手首が少し反れて痛い。
「あぁ、聞いた相手が悪かった!」
フランセルは刃を素手で掴んだ。手の肉に刃が食い込み、血が流れた。
それなのに、フランセルはそのまま刀を奪い取り、
「八王子の奴がでしゃばらなきゃ、こうはならなかったのに……。
葉菜が一番好きなんだから、浮気したって一番なのには変わらないだろ。
なのに、葉菜ときたらまだ怒っている!どうしろっていうんだ」と、八つ当たりするかのように、男の脛を何度も何度も蹴り上げた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。