6−2
「そうだろう。他の子たちもおいしいって平らげていったよ
「他の?――英司たちはどこに行ったんですか?」
「皆食べ終わって、とっくに外に出ているよ」
「外?」
藤尾はテントか豚汁の入った椀を手に外にでた。途端、初冬のような外気に、
藤尾は温かい椀にしがみつくように胸に抱いた。そこは山頂から通ってきた
洞窟の通路より一回りほど大きい空洞だった。燃える焚き火と豚汁の鍋の脇で水が滴る。
洞窟の天井には、白い岩の氷柱が垂れ下がっていた。鍾乳石だ。
テントの真上にあったものは切り落とされたのだろうか、足が踏んでいたのはザラザラとした光沢のある砂だった。その上に、テントは五本のパイプでかろうじて立っていた。
蓬ばあさんは、空洞の、ちょうど自分より少し高い、二つ並んだ巨大な岩を指差して、
「そこの小さい隙間から外に出るんだよ。
わたしゃ目があまりよくないから見えないんだ。
綺麗に平らげたら、若い立派な目で確かめてごらんよ」
藤尾は蓬ばあさんに頷いて、豚汁を口の中に放り込んだ。
気を急ぎすぎて気管に入ったのか、藤尾は咽た。
「何を急いで飲み込んでいるんだい。慌てなくとも、
あの子たちはまだそんなに遠くにはいってないよ。
外でもきっと喧嘩しているはずだよ」
「喧嘩……。心配だな。あれからどうなったんだろう…」
「坊ちゃんは自分のことだけ心配をしたらいいんだ。
頭を叩かれて気絶したんだよ。大変なことだよ。
今だったら、ここに避難していられるんだ。これが最後だよ!
自分から痛い目に合いに行くことはないんだ」
蓬ばあさんは心配そうに藤尾を見つめた。
けれど、藤尾は首を横に振った。
「俺はどんな事があっても行きます。遅れを取りたくないですし。
それに、俺は最後まで戦いつづける男なんで。あいつらだって――」
呆れきった深い溜息をつき、蓬ばあさんは
「――まったく、可笑しな子供たちだよ。どうしようもないね」
と藤尾の手から椀を受け取り、その代わりに長ズボンのポケットから
お守りを取り出して置いた。
「いいかい、もうそこを出たら意識が無くなるまで戦うんだ。
何の足しにもならないけどね、これを持ってお行き。
ただのお遊びなんだ。命なんて捨てるんじゃないよ」
濃紺の擦り切れ、少し汚れているお守りには、白い糸で「命」という文字が書かれていた。このお守りを蓬婆さんがどんな気持ちで藤尾に渡したのか、渡してきたのか、
藤尾には到底分らないが。蓬ばあさんの優しげな目に浮ぶ涙に、
藤尾はお守りを握り締め、「はい!」と、とにかく頷いた。
そして、まるで教室の箒入れのように狭い、二つの岩を通りすぎようとしたとき、
藤尾は蓬ばあさんの方を振り返った。
蓬ばあさんは鍋を搔き回し、鼻を啜っていた。それも、「おやかたさま」と意味の分らない歌をうたいながら……
藤尾は二つの岩の先に明雲高の生徒たちの姿を目にするなり
安心しきって、笑いながら「ちょっと油断した」と
輪の中に入っていこうと思っていた。しかし、
その場はそんなふざけた雰囲気ではなかった。
周防が喚いていたが、暴れてはいない――
どうなっているんだ?何を喚いている?
大きい空洞の先にはもっと、ずっと広々とした空洞が繋がっていた。
鍾乳石もぶら下がらない、東京ドームのように高すぎる天井。
想像もできないほど果てしない空洞の、その中心には五重の塔よりもずっと長い、
十七も屋根を持つ塔が建っていた。
歪だ。何なんだ?
塔を背後にして奥村と千葉が後ろから周防を羽交い絞めにしなければ、
周防はまちがいなく田瀬先輩に殴りかかっていただろう。
「田瀬先輩」
先輩の右手左手に置かれた二つそれぞれの缶には刀が何本を放り込まれていた。
田瀬は時計を嵌めた右手首を見ながら言った。
「時間だ。全員こっちを見ろ」
「このゲームの話ははこうだ。
俺の右側にあるのは偽物。左側は本物だ。
早く好きな方を選んで遊べばいい。
正し、今までどおり、あいつらを殴り蹴り倒せばいいが、
これからは掠り傷じゃすまなくなる。言っている意味が分かるな?
俺なら真剣を選ぶ。
どちらも嫌な奴は、尻尾巻いて逃げていろ。
誰も咎めやしない。この町の男である資格がなくすなけだ」
田瀬は藤尾が気を失うまで持っていた刀を刃から、
押さえられている周防の足元に刺し、
「この刀はお前が最後まで持ちつづけろ。どんなに面倒でもだ。
そして、あの塔を登りきれ。簡単な話だろ。
この刀とお前が一緒に塔を上りきれば、ゲームは終る。
刀かお前、どちらが欠けたらゲームは永遠に終らない。死ぬまで。
もう分かっただろう。お前に全員の命が今この時より預けられた」
周防に「後は、お前次第だ」と言葉を突きつけ。何が時間だったのか、
ブォオオと法螺貝が塔から響いた。
「行け」
地面が急に割れたように揺れた。
閉じ込めていたいくつもの雄叫びが塔から聞こえてきた。
塔からどんどんあの、顔を黒く塗った男たちがもう我慢する必要もないとでてきたのだ。
藤尾は瞬時に沸いた雑念をなぎ払い、先輩の左に走った。
「フジオ!起きたのか?」
来週、更新予定!?
いや、いや、いや――
六話終了まで毎週更新!!(たまにさぼる)
毎日、がんばろう
次回、木崎先生「表現」注意報発令・・・
+注意+
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