5−8
北・門倉学園高校その(弐)
固いおにぎりを食べた一同は、いつしか疲れ果てて地面にぐったりと眠りこけていた。
一体、どれほど迷路のような洞窟を動きまわっていたのかはさかだではないが、激しい運動の後の睡魔には勝てなかった。普段なら気になる鼾も、まるで聞こえず。吸い込まれるような眠りという欲求に、生徒達は何ら抗うことなく落ちていった。
とてつもなく深い眠りの間、門倉学園高校の美術準備室と同じように、壁に凭れ眠っていた八王子は身じろぎしたとたんに、身体がずれ落ち。驚いて目を覚ました。
「――あぁ?」
目に映るのは闇で、布団とはくらべもののにならないほど硬い地面に、
何でこんな所にいるのだろうと、八王子は疑問に思った。
熟睡しすぎて、記憶が飛んでいたのだ。
だが、とろんとした目を瞬きさせているうちに腕の傷が疼いて、すぐに思い出した。「
「バトルBゲームの最中だっけ?」
あまりにも緊張感のない、周囲の静けさに頭を搔きながら座りなおした八王子は
また眠りにつこうとした。まだ眠い。
あいにく、同学校の生徒達もまだ寝ているし。
小さくなっていた蝋燭は燃え尽きていて、眠りを妨げるものはなかった。
八王子は欠伸一つして寝入ろうとしていた。
頭を壁に預け。ずっと聞こえていた風の音がやけに過剰に聞こえた。
八王子は耳を塞いた。台風でもきているのか、ビュウビュウと風は強くなっていた。
鼾がかわいく思えるほどだ。耳を塞いだぐらいでは、止みそうになかった。
眠りたいのに、寝付かせてくれない。誰かの嫌がらせのような風音に、八王子は我慢できずに立ち上り。悪い魔女の呪いで糸車を追いかけた美女のように、八王子は歩きだした。
その途中、誰かを蹴ったようだ。寝言なのか、泣き声で謝っていた。フランセルだ。夢の中で紫垣に謝っているのだろう。起きそうもなかった。八王子は壁を伝って歩いた。あと何人か蹴ったようだが、フランセルと同じで起きはなかった。皆、仲良く楽しい夢の中だ。
八王子が壁を伝って歩き続けていると、足元が急に濡れる感触があった。
靴の中に水が入ってきているのが分かる。八王子は後退さった。
目の前に水溜りか何かあるのか……。
八王子は感覚だけを頼りに、手を地面に突っ込むと、思ったとおり水の中に腕まで浸かっていった。そして、掴めない水を無理に掴んで、水中へ引っ張り出した。
喉はカラカラだった。随分、昔に飲んだきりだ。舌に零れ落ちる水を滴らせ、
数回手の内の水を飲み干した八王子は、後で他の奴らにも教えてやろうと、制服のシャツで顔を拭った。
「“美味いかのぉ”」
頭から降ってきた言葉に、八王子は蹴躓いて。咄嗟にそこにあった石を掴んだ。
「誰だ!」
警戒心剥き出しにして、怯え叫んだ八王子に恐ろしいほど下品な笑い声が返ってきた。向こうには八王子の様子が手に取るようにわかるのか。
掴んだ石を投げようかと思った矢先、強風を伴奏のように女が歌っていた。
とても小さな声で歌っていた。
「“おやかたさまのお戯れじゃ おやかたさまのお戯れじゃ”」
「“――倅の四つ首射取らして
あいこは首切り首賭けじゃ
褒美はなにかなんじゃろうか
わしはあれが欲しいお前はそれ
一首 二首 三つ首取らしたらくださろう
おやかたさまのお戯れじゃ おやかたさまのお戯れじゃ”」
新しい道を照らすように燃え、現れた松明。
それを持っていたのは、あの小面の女だった。
八王子は掴みかかる勢いで前進したが、ただ水に行く手を阻まれた。
制服のズボンが膝まで濡れていた。松明が照した水の正体は湖だった。
洞窟の中に湖。テレビで見たことがある。時に山の水が洞窟の中にまで流れ込んで湖や川ができると……
女は湖の上に浮かべた木舟に乗って、おかしくてたまらないといった風に笑っていた。
「何がおかしい?」
八王子は叫んだ。「お前、殺し合いをさせる気なのか?なんでこんなに――」小面の女は最後まで八王子の言葉を聞かずに大きく首を傾げ、松明を八王子の方に投げつけた。
「――うわっ」慌てて避けたが、危なかった。
腰をついた目の先で、松明が燃えていた。
小面の女が言った。
「“早よう起き 早よう起き”」
小鼓を叩き散らし、意図的に木舟が流されていく。
小面の女は面を心少し持上げ、見せた形のいい赤い唇が、「追いかけてきな」と声もなく言った。一瞬だった。
「――おい、待て!」
「何だぁ?」ぞろぞろと背後で生徒達が起きだした。小鼓がうるさくて起きたのだ。
木船が奥へと消え去って行く。泳いだところでも追いつけそうにないほど距離が深まってゆくばかりだ。松明を拾い上げた八王子は「クソ!狂っている」と罵りながら、松明を道場に押し付け。首を振りながら叫んだ。
「あの報道馬鹿どもは、此処に来ているのか――」
誰よりも心配なあいつが此処にいるか……?
次回、近日公開。
――近日っていつだろう?明日??
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