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*木崎先生からの猛注意* 
これより非常に安全な軽度から気まぐれな重度の暴力表現あり。苦手意識のある人は、目を瞑って読みましょう

5−4



 南・葛岡高校の場合(壱)







 本堂に閉じ込められ。さっきまで昼だったはずなのだが、すっかり夜のような
ひっそりとしてしまった為に、葛岡高校生達はパニックを起こしたように騒ぎ出した。
少しひんやりと肌寒いのは、階段でたっぷりと掻い掻いた汗が冷えたせいだろうか。
一部の生徒達はお化け屋敷のような、何かのアトラクションのようだと喜んだにちがいないが、賢い生徒たちはなるべく冷静に、目が暗闇に慣れるのを待とうとしていた。
 

 けれど、そんな努力の甲斐もなく、五分も満たないうちに、前方でふっと蝋燭が灯った。突然の光に全員の目が眩み、反射的に閉じた目を恐る恐る開いて次に見たのは――
片手に光の灯った細い蝋燭を持ち、もう片方では杖をついた、笑う翁の面を被った老人だった。
 身なりは時代劇のように野暮ったい直垂と袴で。腰が随分曲がっているのにもかかわらず、床が軋むことなく足音も立てずに、老人は本来なら内陣と呼ぶべき場所に立っていた。幽霊よりも気味が悪く見えるのは、灯りに照らされる翁の面のせいだと思いたい。何人かの生徒たちは息を飲むのも忘れた。 老人は面に隠された口で、物を言った。






「よう来なさった」





 長い歳月を思わせる、小細く老いた声だ。
 十字路の商店街近くで医院をやっている稲田氏よりも年上で、その一声で、「聞いたことのある声だな」と、葛岡高校二年の鳴滝はぼそりと呟いたが、誰も気づきもしなかった。老人はまた言った。



「さっそくじゃが、電話はすべてここに出して床に置いてもらおう」




「電話とは、携帯電話のことですか?」と、葛岡高校三年の和久井こと、トドは聞いた。すると、老人は「さよう」と頷いた。



「それなら、大丈夫です!おれは携帯を常備していません」




 機械は小賢しくて使えない性分です。と、自慢するようにトドが言った。
それに数人が笑ったが、老人は笑い声を出すどころか冷やかに「はよう出しなさい」と、催促して言った。


 葛岡高校生たちは何だか気分悪く、けれど、言われるまま制服のズボンから
それぞれ携帯電話を取り出して、木床に置いた。そして、これで文句はないだろうと、老人に目を向けると、老人はのろのろと腰を下ろして蝋燭を携帯と同じように木床に置いていた。これはじっくり話をするのだろうと、誰もが思った。
 しかし、老人は



「電話を置いたら、外に出て箱を開けて。そうして、まっすぐ小面の女子を見つけたらいい。小鼓を鳴らしておるから、外に出て歩いとると聞こえてくるじゃろう」


 と、曖昧な事を言った。
 本堂はただ、携帯を置くだけの場所だというのだろうか。



「……あの、ゲームの説明とかないんですか?」


 遠慮がちにそう聞いたのは、ラグビー部部長であり三年の百武だった。葛岡高校の代表
で、大将のはずの鳴滝は黙り込んでいた。頼りにならない大将は、何も明雲高校や坂ノ浦学園高校だけではないらしい。老人は口を開いた。


「そんなもの、必要ない。行けばわかる」


「行けば分るって、それはないでしょう!
せめて、バトルBゲームの意味ぐらいはじめに教えといてくださいよ」と、二年の九重森が言うと、「説明がないと、ゲームができないのか!」と、老人の代わりにトドが無闇に叫んだ。



「そうじゃ。箱の中身さえ持ってりゃ、死にはせんよ」



 老人のその言葉に、全員が目を見開き。誰かが言った。






「死なない?……どういうこと?」













「そろそろ行ったらどうじゃ?出遅れると、後々面倒じゃぞ」







「じいさん、どうなんだよ?」
「死ぬってどういうことだ?」


 納得いかないと、噛み付くように次々と葛岡高校生は叫んだ。


「うるさい小童どもじゃな。
ゲームをしとうないのか?それとも何か?此処で死にたいのか」




 翁の面を被った老人はどうやって持っていたのか、直垂の内から短刀を何の疑いもなく取り出して、蝋燭の前で鞘を抜いた。短刀の刃がゆらめく蝋燭の火で光り、老人の震える手がなんとも生々しい。老人は本気なのだろうか。その短刀が本物かどうかよりも、本堂の空気と、老人のそのすべてに声すら出てこない。ドクン、ドクンと心臓が五度ほど鳴った、――そのとき、鳴滝はただ一人立ち上がって老人に向かって言った。




「外に出ればいいのか?」




「さよう」と、同じように老人は頷いた。鳴滝はそのどこが面白かったのか、
フンと鼻で笑い、そのまま一人で入ってきた方の扉ではなく、光が漏れてくる扉を押して、外に出た。長髪の同級生で、おそらく鳴滝の「友達」である狩野も出て行く。そして、他の葛岡高校生は――普段は、部活でがむしゃらに身体を張っているが、老人の普通ではない姿に肝が小さくなってすっかり萎んでいた。
 だが、いつもと変わらず淡々としている鳴滝を見て、一同は老人の「此処で死にたいのか」というのは、そんなものはただの脅しだと思い直して、鳴滝に続くように、楽しげに叫びながら本堂から出て行った。


 しかし、それでも数人は本堂に残っていた。ゲームには参加しない教師たちと、正座したたまの空手部で巨体の二年九里、三年の宇治を筆頭にした理数系のとても賢い生徒たちだ。中には老人とゲームに対する不安で震えるだけの者もいるが、自分自身がどうすべきなのかを十分に思考を巡らせている者もいた。弱肉強食の学校で生き残るには、知恵が必要だと、彼らはよく知っていたのだが。そんな生徒を尻目に、老人は小さく、消え入るように言った。





「ゲームに参加しとうないなら、蝋燭の替えは仰山ある。
ここで口をじっと継ぐんでおれ。――わしと一緒にな」






 それを聞いて、生徒の半数は本堂から慌てて走って出た。誰とも知れない可笑しな老人と、ただ、蝋燭が溶ける様を見つめているなど、まっぴらごめんなのだ。けれども、残らなかったことを後悔しなかった生徒はどれほどいるだろうか。残ったことを後悔した生徒はどれほどいるだろうか。



























 老人から逃れるように本堂から出てまっすぐ歩くと、そこではもう既にゲームが始まっていた。
 下から運んできた黒い木箱が倒され蓋は開いていて、中身が地面に散らばっていた。厚みのない薄いヘルメットのような兜、ボロボロの臑当、鞘のない刃の錆びた刀、緑の絡まった紐。今さっき脱ぎ捨てられた制服のネイビーのジャケットに、誰かが本堂に置いて行かなかったのだろう、泥に汚れた携帯まで落ちている。それを拾う余裕がどこにあるだろうか。
 本堂から出ると、そこは竹林がずっと続いて、その竹林を「まっすぐ」歩いていると、小鼓も音色が聞こえてきた。生徒達は面の女が近くにいるんだろうと、何を心配することなく、そう思った。そして、音色の方へ足を向けた途端、横から顔に黒い塗料を塗った自分たちとはそう年の変わらない、若い男たちがやってきて、刀を振り回しながら葛岡高校生たちに襲いかかってきたのだ。


 驚いている間もなく、自己防衛のために、応戦するしかないだろう。

 

 木箱を盾にして、ごつい拳で襲ってきた男を失神させたり、その逆もしかり。
刀を避けようと、のけ反りすぎて木に頭から衝突したり。唯一、男の持っていた刀は安物のようで、研がれてもおらず、髪の毛一本切れたものじゃなかった。
そのおかげで、黒塗りの男たちの半数は返り討ちにされていた。
葛岡高校の大半は格闘部ともいえない部に属しているのだ。切れる刀を持たない華奢な男たちは体格も比べ物にならなかった。しかし、音色の方へ進むたび、襲ってくる数は多くなっていた。その度に、拳を腫らすのも億劫になってきた生徒は、木箱を置いた場所に戻り、落ちている刀や臑当てを持って、前に進んだ。徐々に小鼓の音が大きくなって、すぐ傍で聞こえてきた。


 老人が告げた、小面の面を被った女が洞窟の前で小鼓を叩いていた。
白い小袖に、淡い紅梅色の表着を羽織っていた。顔は当然見えないが、その長く綺麗な腕の先にある美しい手は滑らかに小鼓を叩いて、その場にいるすべての者の闘志を煽るように鳴らした。




 鳴滝は襲ってくる男を一蹴りし、その小面の女に歩み寄ろうとした。
 話をしようとしたのだ。
「どこへ行けばいい」と、聞きたかっただけだった。

 けれど、女は近寄ってくる鳴滝にいち早く気づいて、叩くのをやめて小鼓を持って急ぎ足で洞窟に入っていった。


 
 
 女が怖がっている?



 ――いや、そんなはずはない。いくら鳴滝が色男だからだといっても、
怖がるほど神経が細くか弱い女が十字路の街にいるとは思えない。そうではないはずだ。
  鳴滝は小面の女を追おうと、洞窟に足を踏み入れた。洞窟は本堂と 同じように、小さな灯りが転々と灯っていた。女は道案内しているのか。鳴滝が洞窟に入っていくのを見ていた葛岡高校生たちは、進む先はそっちか!と、次々に殴りながら蹴りながら洞窟に入った。遅れて本堂を出た生徒達もその洞窟へ。

 洞窟は生徒全員を受け入れると、何者かが動かした岩によって入り口を塞がれた。今度こそ、本当に閉じ込められたのだ。洞窟から出るには、岩をどけなければならない……しかし、そんな暇はなかった。休むことなく、襲ってくる黒塗りの男たちを喧嘩のように、戦いのように倒して、前に進むしかできなかった。そのうち、長髪の狩野は、必要以上に鳴滝ばかりを襲っているのに勘付き、必死に守ろうとしていた。大将を落とそうとしているのだ。
 将棋と同じように、大将を落とされたらゲームはお終いか。どうしたらいい。
とてつもなく長い洞窟の壁は切ったような深い線が走り、刀が何本もずぼりと刺さっていて、思わずそれを本能的に引き抜いて、使ってしまう生徒もいたほどだ。

 ルールも何もなく、理由もない。
 なにしろ、密閉された洞窟での襲われる恐怖と緊張で、何も一々認識すらことすらできなやしない。



 倒した人数?倒れた人数?
 そんなものは知らない。嵐のように激しく手足を動かしていた。






 ――これがゲームのやり方らしい。   


 



 なぜ、襲ってくるのか。謎に満ちた黒塗りの男が狂気に満ちた声で叫んだ。                            




「前座を楽しもうぜ」












次回、「前座のはじまりはじまり」・・・



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