ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
4−5






  ――翌日の坂ノ浦学園高校、校門前。時刻は登校時だった。
いつもならやる気のない一日の始まり、眠気を抑え、低血圧さながらの
活気のない顔でもなんとか登校するところ。チンピラ風の男が一人煙草を吸いながら、
落ち着きなく校門辺りをうろうろしていていた。

地面には数本の吸殻が落ち、男は登校する生徒達を一人一人、
いちいち睨みつけていた。どうみても尋常じゃない。教室の、自分の席に着いたら
即行に深い眠りにつこうと思っていた生徒は、そんな男と目が合い、
思わずギョッとして、半分閉じていた目があともう少しだけ開いてしまった。
だが、そんなものは束の間の出来事。結局は、何事もなく寝てしまうのだけれど、
用は、それほど珍しい光景だったということだった。


 坂ノ浦学園高校はいたって普通の学校だ。例え、奇抜なファッションの生徒はいても、これといって厳つい生徒はいない。
まず、やる気がないのだ。毎日は淡々と過ぎてゆく。



――そう、今年から生徒指導担当になった蒲原先生は、
少しばかり早く起きてノロノロと登校する生徒たちに「おはよう」と、
声をかけるだけでいいとばかり思っていた。だから、新学期の早々に不幸にでも
あったようにがっかりとして、元々ひどかった猫背をさらに強調させて、
校門の脇から顔を出して、じっと男を観察していた。
この場合、「一体、学校に何の用ですか?」と訊ねた方がいいのか、
男が立ち去るのを待った方がいいのか、決めかねていたのだ。
 


男は五本目になる煙草を銜えた。――と、男は何か見つけたようで、
五本目の煙草をしまって、途端に片手を振り出した。
蒲原先生は男の視線の先を追った。

すると――、













「荘輔!」

 蒲原先生は顔を大きく歪ませた。男に名前を呼ばれたのは、
坂ノ浦学園高校指定のブレザーを着た生徒、名前を呼ばれてはしょうがない、佐野だ。
頭は金髪だが、他の生徒同様、問題など起したと聞いたことはない。
顔は可愛いが、普通の生徒だ。

 ――けれど、もしかしたら、
佐野は裏社会では名の通った伝説の男で、実は超能力が使える……
などという在りもしない考えがもくもくと浮んだ。
最近、毎晩のように見ているSFドラマのさっそくの影響だ。
蒲原先生は頭を振って、佐野の反応を見ようとした。

どうせ、人違いだろう。あんなチンピラのような男が
坂ノ浦学園の生徒と付き合いがあるはずが……




「――なんだ、あんたか」

 佐野は男を見て、男蒲原先生の気が遠ざかるような反応を示した。
「なんだ、あんたか」なんて、顔見知り以外ないじゃないか。
蒲原先生は頭を抱え、激しく振った。
――きっと、夢でも見ているんだ。何かの間違えだ。
うちの生徒に限って、裏社会になんか――

と、蒲原先生が葛藤していると、
チンピラ風の男が突然、地べたに這い蹲り、土下座して叫んだ。


「お願いだ、もう少しだけまってくれ」

 何の話をしているのかは分からないが、登校中の生徒たちも、
蒲原先生もびっくりだ。男はどう見ても、佐野に土下座しているのだ。
門に隠れていた蒲原先生は身を乗り出し、思わず、子供の頃の癖である
四本指全部を咥えた。

「……」


「こないは死ぬかと思ったが、もう逃げたりしない。
堂々と働いて、負けた分はきっちり返す」と、男は泣きべそをかきながら言った。

男は本気のようだ。しかし、「死ぬかとおもった」、「堂々と働いて」「きっちり返す」というのは――?何か会話自体が、高校生にふさわしくないような……と、
そう思った蒲原先生は、さらに耳を澄ませた。

すると、やはり普通の生徒である佐野は、周囲が怪しみ、好奇の目で見ているのに
気づいて、男の腕を掴み上げ、ぼそぼそと言った。


「――あぁ……。あれだったら、もういいから。とにかく立ってくれない?」


 恥ずかしいんだよ。と、佐野。「はっ?」と、佐野の予想外の言葉に驚いた
チンピラ風の男。佐野に「重い」と愚痴られながら、引っ張るように立たされ、
男はぼんやりと佐野を見た。


 そして、すっかり傍観者に徹した蒲原先生は、背の高い生徒を盾にして、
二人の会話を聞き取ろうと近づいた。盾にされた生徒は迷惑そうな顔をしたのは
もちろんの事――。



 佐野は言った。


「借りは帳消しにするよ。だけど、もう二度と賭けごとはしないって、
ここに書いてくれる?」

 学校指定鞄からA4の学習ノートを取り出し、
筆箱から赤のペンを出して、男に渡した。

「荘輔……」

「実は、あんたがあまりにもひどいからって、奥さんに頼まれたんだ。
サインしてくれるよね?」

 それですべて帳消しだよ。と、にっこり微笑む佐野。

男はしばらく佐野を見てから、
「分った、サインだな? すぐする」と言って、学習ノートをめちゃくちゃに捲り、
空いたページに何やら歪んだ文字を書いた。 しかも、
書きながら号泣しているではないか! こんな大の男が泣いてしまうなんて、
一体何事が起こったというのだろう。
 
 訳が分からない蒲原先生とっては、SFドラマの続きより気になっていた。だが、
盾にしていた生徒に「うざい」と追い払われ、こそこそと門に逃げ戻った蒲原先生。
それでも、男が書いた文を見ようと、背伸びしているのだから、
野次馬根性は人並みではなかった。









 学習ノートになにやら書き終わった男は、
ノートとペンを返して、袖で涙を拭いた。

「恩に着るよ!もう二度と賭け事なんてしない」


「うん、本当にそうして。俺ももう勝ちたくないから」

 あっさりと嫌味を言った佐野。けれども、男は「生意気だな」と笑って、
「じゃあな、また会おう」とにこやかに言った。――が、しかし、佐野といえば、
「もう二度と会いたくない」と首を横に振った。
 佐野は男のためにそう言っていた。

 男はそれが分かっていたのだろう、ただ笑っていた。



「そう言うなよ、これがなかったらお前とは上手く付き合えたはずなんだよ。
おれも運がなかったよ、お前みたいなのを敵にまわすなんて。
兄貴によろしくな!」



「うん」と佐野。男は頷くだけで、特にこれ以上話もないのか、
何も言わずに煙草に火をつけ、登校する生徒とは逆の方向へと歩いて行った。
土下座して、号泣したとは到底思えない。後ろ姿は、まるで悟った男のようだった。












「佐野ちゃん、またカードやったの?」









蒲原先生「えーと、ぼくの名前は・・・」


佐野「うらはら先生?」
川口「がばはら先生?」
柳岡「はらはら先生?」

山田「かんばら先生だから。
よく、一緒に昼飯食うじゃん。覚えておこうな」


佐野「あ、そうなの?」
川口「おぉ〜、さすが山田」
柳岡「悠ちゃん、すご〜い!!」       




次回、↑この女子が登場します!?


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。