4−2
新学期が始り――それから一ヶ月もすれば、
どの学校でも部活が活発になってくるのは今にはじまったことではなく、
坂ノ浦学園高校でも、それは例外ではなかった。
――とある一室、
「よぉーく、聞け。愚民ども」
「何で、そんなに偉そうなんだよ」
両手を腰にあて机の上に立ち、高飛車に話す川口に、普通に床の上に立っている山田が手を出してそう突っ込むと、
「いいとこやねん、邪魔すんなよぉ」と、小さな声でぼそっと囁いた、川口。
「どこが、いい所なんだよ?普通に言えよ」
と、山田は見上げて言った。二人はどうやら部活も一緒らしい。
「まぁあ、いいから。いいから。――えっとなぁ、今日から卓球部をはじめます」
「――や、もうとっくに部活ははじまっているだろうが」
「一年生様ははじめてやろ?」
「何でそこだけ敬語なんだよ」
「そりゃ――入部してすぐに辞められたら困るやん」
部員数イコール部費や。と、川口は変に威張ってみせた。山田は少し間をあけてから、
「それもそうだな」と頷いた。――なんて会話だ!初めから部費狙いのような会話。既に、この部の実態が明らかになったも同じだ。
「あの、先輩……」
入部、といっても体験入部したばかりの一年生がおずおずと手をあげた。
二人の正直すぎる会話に、いち早く脱退を表明するつもりなのだろうか――
「なんやぁ?そこの一年の君」
と、川口。名指しされた一年生は言った。
「この部は、卓球できるのですか?」
「当たり前やん!」
川口は突っ込んだ。しかし、冷静な山田、
「――何でそんなこと聞くんだ?」と一年生に聞くと、その一年生は周囲に目を配って、
「卓球台も、球もありませんよね? ごくごく真面目に答えた。
――そう、そうなのだ。台も球も、団扇のような物もない。
川口や山田、それに体験入部に来た一年生の合計六人がいる場所は、
体育館どころか――去年文化祭で使った大道具が大量に置かれた、
物置き場と化した空教室だったのだ。卓球らしいものが何処に存在するのは奇跡しかないだろう。
「うーん」
何と誤魔化せばいいのかと、正直に首唸ったのは川口。
山田は「うちはエアー卓球部で、各自己イメージトレーニングが主かな」
「イメトレの内容は自由だから」と薄気味の悪いスマイルを浮かべた。
普段冗談を言わなさそうな人が言うと、どういった反応をすればいいのに困る。
――それは、体験入学にきた一年生全員も同じで、しかも山田は先輩。
それが冗談であってもなくとも、何も言えないから、尚更分が悪い。
けれど、呆気にとられても無視するわけにもいかないので、
「あはは」と苦笑いを浮かべた四人。
その全員が、入部を辞退しようと考えたのは意外でもなんでもなかった。
――その実、坂ノ浦学園高校の卓球部は、活動おろか、
大会など縁遠いお飾りの部活だった。本気で卓球がしたくて入部した生徒など、
いないのだ。この四人の体験入部者も、直に去ることは目に見えている。
だが、やはり部員数イコール部費。川口と山田は形だけでも、
「いい雰囲気」でアピールして、新入部員を獲得するつもりだった。
けれど、ご覧の通り、微塵も形にすらなっていなかったが……
「とりあえず、今日は部室片付け」という山田の言葉ではじまった、
体験入部早々の大掃除に、四人の一年は内心不満を抱きながらも、
崩れた、やたらと長く大きな木の小道具をだらだらと脇に運んだ。
――これが、まためんどうな作業だ。誰が作ったのか、木の枝はボロボロ取れるわ、
ご丁寧に枝に付けられた葉っぱからは、何故か異臭がするのだ。
一体、何の劇に使ったのが疑問だ。しかし、首を傾げる前に、
一年の一人はその臭いに耐えられなくなり、トイレだと言って空き教室を出て行った。
そして、帰ってこないのはお約束のこと。
一生懸命に教室を掃除する、三人に減った一年生を横目に
「そういやぁー、佐野ちゃんは?」
と、川口は山田に聞いた。佐野も卓球部のようだ。
この三人の仲良しぶりは、お飾り部活、同じ芝生だったことからだろう。
確かに、新学期早々互いに馴れなれしすぎるのも、十分に納得できる。
山田は教室の中で一番軽そうな、棘のついた奇抜な王様の衣装を抱えて言った。
「バイトだろ?」
「そうか、今年もバイト皆勤?」
今時の若者はラジオ体操皆勤だって難しいのに、と川口はつけ加えた。
すると、山田はうんうん頷いた。
「だろうなぁ。佐野は稼ぐというより、あの場所が気に入っているみたいだし、
部活来る見込みは皆無だろ。――って言っても、うちの部、
毎日来てもしゃーねぇし、別にいいんじゃねぇか?」
衣装をダンボールに無理やり押し込んで言う山田に、川口は人差し指を立てて、
「しぃ。一年に聞こえるやろ。幽霊でもいいから、
一年確保せないと……部費減らされる」
とやたらに掃除する一年に目を配った。そして、「あぁ、そうだった」と山田は棒読みで頷くも、――狭い空き教室だ。一年全員にその話が筒抜けだったのは、驚くべきことではまったくなかった。
お飾り卓球部への一年生の高感度は大きく下がる一方。そんな事すら知る由もない、完全幽霊部員と化した男佐野は、その頃――
「荘輔、何してんのよ?辞書なんか持って」
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