4−1 坂ノ浦学園高校幽霊卓球部 佐野壮輔遊泳!?
4、坂ノ浦学園高校幽霊卓球部 佐野壮輔遊泳!?
坂の裏手にあるから「坂ノ浦」という、見た目そのままの名がついた、
新築の学校、坂ノ浦学園高校では、今日もいつもと何ら変らない、
メリハリがない一日がはじまろうとしていた。
新学期というのに、二三年になったばかりの生徒達はダラダラとやる気なく登校し、
新入生に限っては、緊張のせいだいなのだろうか、無口な生徒が多く、
やたらに新しい友達を作ろうとはしなかった。
――なんてやる気のない学校だろうか……。
全校集会の間ですら終始、若さを感じられないほど体育館はしんと静まり返っていた。
誰かと喋って注意されるのも、かったるいのだ。口の代わりに携帯を密に片手打ち、
立ったまま上手に居眠り、口の中に放り込んだ飴を誰にも気づかれずに舐め続ける。
とても平凡だけれど、とてもやる気がない。不良や派手な生徒はいないが、
これからがとても心配になってくる。
――そんな平凡で、先が思いやられる学校の、真新しいプレートに2―Cと書かれた教室――出席番号五番の短髪の爽やか少年川口満は、一人、即興で作った音痴なうたを歌いながら、箒をバッドに見立てて振り。ある種の無駄なやる気を全身から醸し出していた。
「カァー!昨日の試合はよかったわ。あの、盗塁は上手かったぁ」
また箒を一振りして、川口は感嘆の声をあげた。すると、
「いつから、野球バカになったんだよ?」
と、狐のような細い長い目を潤ませ、同級生の山田悠世は、後ろに仰け反り、後ろある無人の机に頭をのせた。――大きく伸びをしているのだ。大袈裟な伸びだ。
山田はそんな川口を見て、「昨日から」と、不気味に腰を振って答えた。
「――いやなぁ、妹が野球ファンでな。野球のDVDをゴールデンタイムに見てて、
なかなか変えよらんから、一緒に見てたら、ついはまってもうたんやぉ。
野球もやっぱりいいわぁ」
箒を何度も勢いよく振って、川口は「球場まで観にいこうかな」と、遠目にぼやく。――そして、伸びを終えた山田といえば、目の端を擦り言った。
「お前って、影響されやすい奴だな」
――こないだ、スノーボートが好きだ」とか言ってなかったかと、山田。けれど、川口は「そうやったかなぁ?」と、とぼけるように首を傾げた。
「スノーボートは金がかかるし、あれは冬だけやろ?――けど、野球はこれからがシーズンやし、山田も観たらはまんぞ?」
と、開き直り。――今度、妹のDVD貸そうか?と言うが、
山田は「はまんねぇから――、いらねぇ」言い訳をするでもなく適当に言って、二度目の大きな伸びをし出した。山田はまったく野球に興味がないようだ。
無気力に机にうなだれて、今度も大きな欠伸をする。典型的な坂ノ浦学園生だ。
しかし、川口は駄々を捏ねるように、
「観たら絶対、はまるって!」と、尚も強引に言い勧めてきかず――、だが、川口と同じく、山田も頑なに興味がないと言って聞かなかった。
それこそ、「なんでやねん」と川口がいくら突っ込んでも、山田は「なんでもやねん」とぎこちない関西弁を返すだけ。少しも観る気はないと言い切った。はっきり言って、勧めても一向に意味がないだろうに――。
けれど、川口の「観ろ」と、山田の「一人で観とけ」は長く交互に続き、二人の言い合いは、いつしか漫才のような心持ち感じのいいテンポを持ち始めた頃――、
「どうでもいいけど――俺さ、思うんだけど。お前ら、逆じゃねぇ?」
いい感じのテンポを持った二人にそう言ったのは、これまた二人の同級生、佐野荘輔。
少しばかりが顔の可愛らしい、頭は今時珍しい、ふんわりとした金髪の生徒だった。
川口と山田は、佐野を見て言った。
「「何が?」」
――声が揃っことに、山田はハッとし、「ゲッ、ハモった」と心底絶望的な顔をして、一方の川口は、それを気にするでもなく、「逆って、なんやぁ?」と、佐野に聞いた。
「――キャラ?」
語尾を疑問系にして答えた佐野。川口は同じく、語尾を疑問系にして、聞いた。
「キャラ?」
佐野はこくこく頷いて、両目尻を人差指でクイッと横に引っ張った。川口も山田も、佐野の意味不明な行動に首を傾げて、佐野に注目した。キャラと目を引っ張ることにどういう関係があるのかと……そしたら、佐野は言った。
「俺のイメージでは、関西弁を喋る人は目が細いんだよ」
だから、逆だよな?と二人に同意を求める。――が、今度は純粋に二人は声揃え、
「「知るか!」」と、佐野に突っ込んだ。
――確かに、「知るか」だ。勝手な思い込みも甚だしが――、
当の、突っ込まれた佐野と言えば、ケラケラと面白がって笑っている。
どうやら、二人に突っ込まれることが分っていたようで、どうも、無邪気にからかっていたようだ。二人は続けて佐野に向かって叫んだ。
「「それで終わりかい!」」
今、この学校では漫才なのかさえ危うい、お笑いブームなのだろうか……。
――いや、そんなことよりも、これがひどく不安になってくる学校の始まりだ。どこにでもあるような始まりだ。気なんて張らずとも勝手にダラダラ話は進んでゆくだろう。自由きままに進んでゆくだろう。
皆様、ぐれぐれもお手柔らかに……
川口「――はい、佐野ちゃん!」
佐野「何でしょう?川口くん」
川口「ぼく、――実は……
授業があまりに暇で……暇で……
山田の昼飯食っちゃたんです。
代わりに怒られてくれ!」
佐野「……はい、サイナラ、サイナラ、サイナラ!」
次回、平凡な日々のはじまり、はじまり!?
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