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2−8





「皆も知っての通り、葛岡も参戦している町の大年間行事――」







「バトルBゲームですよね?」

活きのいい一年が叫んだ。それに、笹井先生は笑いながら言った。
「ハハハ!そうだ、気が早い奴だな! ――そう、そのバトルBゲームに、
我がラグビー部全員が観覧可能になった」

ヒューと誰かがすかした口笛を吹き、わいわいと部員達が一斉に隣と騒ぎ始めた。
ゲームの内容すら知らない――百武もトドだって知らない、部員ばかりなのに、
彼らのアドレナリンが騒ぐのだろう!どうどうと、笹井先生。

「まだ、話は終ってない。最後まで聞け!」
と、騒ぐ部員達に渇を入れた。



「ゲームの参加者は追々決まっていくだろう、他の部でも何人か決まり、
うちも何人か候補にあげて、決まったものもいる」



「誰なんですか、先生!」
トドが待ちきれないと声をあげた。
「それは、四月まで待ってもらわないとな!なんせ、町をあげて大イベントだ。
時間が掛かる。――だが、大将をもう決まっている」

部員たちは笹井先生の言葉を聞いて、ぞわぞわとする。なんたって、大将だ。
ゲームにはなくてはならない重要な存在、それが誰なのか
気にならない人間はいないだろう
――トドは息を飲んだ。







「鳴滝!
 お前は葛岡の大将になってもらうことに、会議で決まった」








「――は?」思わず、出た疑問の音。






「鳴滝が大将!」


 口々に「――俺、トド先輩かと思った」、 「鳴滝か、――だと思った」と初めから分っていたように言う部員たち。
 その隣では、百武が口を開けて石化したトドの背をドンドン叩きながら、
「まぁまぁ、落ち込まないで」と言っている。


――奴らは何を言っているんだ。と鳴滝は思うが、
笹井先生は部員達にそれ以上有無を言わせないと、首に垂らした笛をピーと吹いた。

「以上だ、すぐに練習に戻れ!」


部員達は喧しい笛の音に体を震わせ、「はい!」と声をあげ、
さっとグラウンドに広がって行った。
 とろとろと歩くトドの後ろ姿はひどく惨めだ・・・







「――昨日の、あれは、俺を騙すつもりだったのか?」

笛を手にしながらグラウンドを見渡す笹井先生に、拳を震わせ
――バトルBゲームの幹部だと思わせからかったのか、と鳴滝は問うたのだ。


「ハハハ!何の事だ?」

 余裕のある顔でシラを切る。――くそっ、きっと笹井先生はわざと紙を飛ばし、
鳴滝がゲームに関心を持つようにわざと仕向けたのだ。
あのわざとらしい行動も、演技だったということなのか・・・馬鹿ばかしい!!


「大将の件は、昨日会議で決まったことだ。俺が決めたわけじゃない。
そうだ、 ――葛岡は代々、選手決めは四校の内で最も早いと有名なんだ。
知っていたか?」


「知るか!」
不満たっぷりにそっけなくそう言った鳴滝。よほど、納得できないらしい。
――だが、それもそうか。何の前触れもなく、決められたのだ。
好き好まない人間にとって、冷静でいられる方が不思議だ。



「今日、担当の者が正式な手続きをしに行った――だから、
どう足掻いてもお前が大将。
変更は法的な要因がない限り、不可能!諦めろ!」

今更、何をしたって遅いと言う笹井先生。
鳴滝は奥歯をギリギリと噛み締めた。




「――お前のじいさんもゲームに出たんだろ?
これも何かの運命かも知れんぞ」




「なぜ、それを――?」

鳴滝は眉を顰めた。津幡のじいさんのことなど、笹井先生に話した覚えはない。
――一体、笹井先生は鳴滝の何を知っているというのだ。


「まぁ、しっかり頼むぞ。――おい、そこ!」

 取っ組み合って喧嘩するラグビー部員を引き剥がしに、
笹井先生は笛を吹きながら走って行った。――あの男、
見た目とは裏腹に、相当頭も切れるらしい。
熱血馬鹿と思い込んでいて、鳴滝は罠にまんまと引っ掛かってしまった。






悔しさと、ある種の猛烈な感情が静かな心に彫り浮ぶ。
――灰色と少しの白に覆われた空、
音も無く肌に冷たい感触がして、鳴滝は天を見上げた。 

「――雨か、」

さっきまで天気だったというのに、見えない早さで、
水滴がぽつぽつと落下してくる。
それは誰にも止めることができない。そう、誰もできはしない。
















――あの日、


俺はある人物に会いに行っていた。何よりも誰よりも、重要で大事な人に……


 けれど、あれは本当に笑える冗談だった。



 肇を蹴り倒し、 拷問のように問い詰めてやっと吐かせた居場所を手に握り、
喧嘩の後付けのように襲ってきた輩を根こそぎなぎ払った。
そして、誰の血かも分らず血まみれで、傷だらけで、
それでもやっとの思いでたどり着いた先は、――ただの、冷たい雨下。 





黄色い傘を持ったガキが、俺に言った。


「お洋服、真っ赤だよ」

びしょびしょに濡れても、落ちなかった血に汚れた服を指差して、
切れた顔を指差して、染まった手足を指差して、――ガキが言った。

「僕の傘に入る?」

俺は、思わず手を伸ばそうとしてしまった。黄色い傘の下に、
無垢な笑顔を向けるガキ。 陽の光のような黄色足元に、
――俺もそこに立ちたいと無意識に足を動かそうとしてしまった。
小さな身体に縋ろうとしてしまった――



「――駄目よ、学ちゃん」

 はっとする声に、俺は手を足を止めた。いや、足が勝手に止まったんだ。
母親が俺を蔑むように見たから。――それから、
母親は子供を俺から遠ざけるようと、引っ張っていった。
俺は、そんな親子を見つめた。ガキは俺を見たまま足早に、母親に言うとおりに動かしていた。黄色い傘だけが虚ろに揺れていた。


 
 親子がいなくなり、ふらりとビルの間にへこたれるように腰掛けて、
俺はあの人に会えなかったことを悔やんだ。
――すぐ傍まで行ったのに、あの人の姿すらも見ずに、
ただ、ガラスに映った血まみれの自分が初めて怖いと思った――





それからいつのことか、
偶然に出会い連れて行かれた医院で、
稲田の師匠に宛がわれたタオルを頭にかけ、 大怪我を追って運ばれてきた血まみれの男が、廊下に座っていた俺の前を横切っていった。
そして、一時間して処置室から出てきた男の足には、真っ白な包帯が巻かれていた。


あんなに血まみれだったのに、男を痛みながらも純潔な白に包まれ、
血の見る陰もない。
当たり前といえば、当たり前。血は普通は止まるものだ。
流れっぱなしなわけがない。 けれど、俺は暴力で血に染める事を知っていても、
この手で血を止める術を知らなかった。


人を蹴るこを知っていても、助けることを知らなかった。 





「ありがとう」と怪我を負った男が言った、――その時、俺は・・・
ヤクザではなく、この人のようになれたら、
躊躇することなく、あの人に会いに行くことができるだろうか
――と、夢にもないことを思った。






冗談はもうこりごりだ。馬鹿みたいに嘲笑うのも、こりごりだ。
 少なくとも、俺は黄色い傘の子供のようにはなれない。
分っている。



――だが、浅はかだと罵られても、
この一抹の願いが叶うなら
俺はどうなってもかまわない。







バトルBゲーム、
――勝てば極楽。負ければ地獄。



「いいだろう、受けてやろうじゃないか」







まんまと罠に嵌った、
葛岡高校仮・ラグビー部 鳴滝巽!!
ゲームまでまだまだ先は長いが、南の大将は決まった。
後が決まるのも、あと僅か!!とにかく、話は進んでいく・・・


                                         第二話 完結!!

まったくもって、お粗末様です。

http://89lux.tirirenge.com/


次回、第三話 

東「アン・ドゥ・トろワ。アン・ドゥ・トろワ♪」
百武「あぁー!!
僕も、あんな風に優雅になれたならなー」
?「フィリップ!!フェンシングしている
場合じゃないわ!!早く生徒会に・・・」
トド「あぁー!!葛岡も、共学だったらなー」


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