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2−7






「どうぞ」
 水道から顔をあげた鳴滝に、狩野が真っ白なタオルを差し出した。
水が滴りながら、顎を滑り落ちてゆく。鳴滝はそれをタオルを受け、顔全体を拭き取る。


「――聞いたのか?」
 タオルまで用意して、俺が部活に通うことになったことを――と、
ぽつりと狩野に聞くと、狩野は頷いて、
「はい、岸辺さんに聞きました」

 左手に持っていた黄色いスポーツドリンクを差し出した。
 どうりで――、タオルと引き換えにドリンクを手にした鳴滝は、
「そうか、悪いな」と水道の淵に腰を下ろし、一気にドリンクを飲み始めた。


「いいえ。――俺はこれぐらいしかできませんけど」

 岸辺さんに言われたものを届けるぐらいしか……、と融通が利かないことを
悔やむかのように言い、他に何かいりますか?と狩野。
 鳴滝は容器を振って言った。


「これで十分だ」





「そこにいるのは――鳴滝くんと、狩野くんかな?」
 舌を回して大袈裟に大股で歩いてきたのは、重森邦人。
鳴滝たちと同学年の柔道部員だ。片方の耳に開いたピアスとオレンジの頭は、
そのやたらとそれぞれのパーツが大きく細長い顔立ちには、少し不似合いにも見える。
そして、彼が着る黄色い柔道着、――いや、体中から湯気が立っていた。

「重森」
 狩野が――何の用だ、
と嫌そうに眉を顰めた。すると、重森は腹を叩いて馬鹿笑いし始めた。
「何って、――何?別に用なんてないね。俺は顔を洗いにきただけだから」

 青いオリンピックのロゴの入ったバスタオルを振って、
重森は鳴滝の横に立ち、蛇口を捻った。ビシャビシャと豪快に顔を洗う重森、
水が飛び散り、隣に座る鳴滝の白いジャージを濡らした。


「――重森、やめろ!巽さんにかかるだろ」

 狩野が叫んだ。――だが、重森はまるで聞こえていないかのように、
存分に顔を洗っている。鳴滝は仕方なく、腰をあげて水道から離れた。
 ――この男もまた、癖のある男だ。
 顔を洗い終わった重森は、蛇口をキュッキュと閉めて、
バスタオルで顔を拭きながら鳴滝をちらりと見上げた。
「結構、ジャージも似合うじゃん」

「重森」

「ラグビー部に無理やり入れられているって聞いたけど……そうでもなかったんだ?」
 鳴滝はぽつりと言う。
「――約束だからな」

「約束守るタイプだったんだ?」
 意外だねと、重森は笑う。重森は鳴滝を馬鹿にしているのだろうか。
すかさず狩野は汗だくの柔道着の首袖を捻り上げた。
 そして、ひどく低い声で狩野は言った。
「重森、あまり調子に乗るなよ……」

 冗談を言っていい人じゃない――毒々しいオーラを放ち、狩野は本気だった。
だが、血の気の多い柔道部重森もやられてばかりではなかった。狩野の腕を
掴み半回転して、大きく狩野を地面へと投げた。――一本背負いだ。
 あっという間に地面に這いつくばった狩野は、背中をひどく打ったのだろう、
すぐには起き上がれずに、浅く息をしながら重森を見た。

「分っているよ。鳴滝くんは、正真正銘の若。――でも、本人が怒ってないんだし、いいじゃない?」


 自分のことでつっかかった狩野を助けもせずに、
ただ二人を傍観していた鳴滝を見て、重森がそう言った。
狩野も追って鳴滝を見た。男前の顔には何の感情も浮んでいない。
――大して気にしていないらしい。
 鳴滝は何も言わず無言のまま、石段に腰掛けた。

「喧嘩はまた今度ね。先輩らに見つかったら、ヤバイから」
 袋叩きにされるから、と狩野に手を指し伸ばした重森。
この手を取るのは気が乗らないが、鳴滝の手前だ、
狩野は仕方がなく手を借りることにした。

「――そういやぁ、ラグビー部からは鳴滝くんが出るんだ?」
 石段に座る鳴滝に、重森は何気なく聞いた。
「何にだ?」
 ――何のことを言っているんだと、鳴滝。重森は「まだ決まってないのか」と訳の分らないことを言って、片手をあげた。
「俺、出ることになったから。もし、鳴滝くんが出ることになったら、よろしくね」
「――何のことだ?」
 まるで分らないと鳴滝が言うと、「何を今更、BBGに決まってんじゃん」と重森は嘲笑う。
「重森!」
 狩野が食って掛かったが、重森は宥めるように手を振る。
「はいはい。――あ、もう十分過ぎてんじゃん。じゃあ、俺は部活あるから」
 ――これだから体育系は困る。まったく葛岡高校にはまともに話をできる奴はどんなにいるのだろう……
 柔道着を整え、陽気に唄なんか歌いながら走っていく重森を見ながら鳴滝は溜息をついた。


 








グラウンドに戻ると、笹井先生が腰に手を当て、百武とトドの前に立ち、豪快に笑っていた。

「ハハハ!調子はどうだ?」
 寒いが天気もいいし、ラグビーはさぞやりやすいだろうと言う笹井先生。

「今日はすごく順調です、先生!」
「そうなんですよ、先生!」

 鳴滝くんも来ているし、と尊敬したキラキラした目で、そう言う百武とトド。
すると、笹井先生は「ハハハ!そうか、そうか!」と嬉しそうに頷き、辺りを見回した。

休憩時間が終わり、50人近いラグビー部たちは整列して、部長、部副部長の前に立ち。 そして、遅れて戻ってきた鳴滝は、その列には入らず、
広々としたグラウンドの中央に立っていた。


「おい、鳴滝!部員たちはちゃんと整列しているんだ。お前もこっちに来て整列しろ」
 笹井先生が大声でそう言うが、鳴滝はぽつりと言った。

「――遠慮する」



「何が遠慮だ!」

 次に怒鳴ったのはトド。「ちゃんと整列しろ」とラグビー部員の列を指差して言った。
「――約束は守っている。だが、整列は約束の内に入っていない」
 と、鳴滝。頑として動こうとしない。トドはキィッとムキになって言い返そうとする。けれど、百武が間に割って入ってトドに言った。
「まぁまぁ、こうして来てくれるだけでも大した進歩だよ」
 自分から来るなんて、初めてじゃないか!と百武。トドは鳴滝が約束を守ってラグビー部に来たことは、男として当然の事で、どうして、部長(副部長)である自分の言う言葉を聞けないのか、信じられなかったのだ。
「……けどな、」
「百武の言う通りだ、和久井!」
 何か言いかけたトドの背中をドンと叩いた笹井先生、そう肩に力を入れすぎるなと言って、ラグビー部員達に向き合った。



「鳴滝、お前はそのままでいい。――皆もそのままで、まずは俺の話を聞いてくれ」




次回、
周防英司「いやぁー、カップラーメンは
     ストーブで作るにかぎる!!」
奥村順一「だな。どうせなら、鉄板持ってきて、
     焼肉食いてぇーけど」
周防英司「おぉ、それもいいですな!!
     家に鉄板あったっけ?」 
奥村順一「俺に聞くなよ。キザ先生に聞いたら?」
斉藤先生「お、お前らー!!
     学校をどこだと思ってるんだーー!!」

 

     なんと、次回で第二話が終るー!?


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