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2−4








「――一体、どこから来た?」



 息切れ切れになりながらもそう言った鳴滝は、百武を振り返った。
「どこから?いっやぁー、巽くん。もしかして、僕が瞬間移動したみたいに、
急にパッと現れたとでも思ったのかい?」
 巽くんは結構SFものが好きなんだ、僕もなんだよ。と、わけの分らないことをすっ呆けながら
自分で言って自分で頷く百武に、鳴滝はどう言い返えせばいいのか・・・


 無言で百武を見ていたら、百武はようやく鳴滝の欲しい答えを言い出した。

「瞬間移動もいいけどね、さっきまでベッドで寝てたいたんだ。ほら、冬休みの試合で、
他校の子おもいっきりタックルされただろう?その時の怪我で、時々膝の関節が熱を持つんだ」

 あれからはラグビーもできずに、ずっと病院通いで大変なんだよ。と、無理に笑う百武。

そんな余分なことまで言わなくてもいいのに――しかし、冬休みの試合といえば、
鳴滝が笹川先生に強引に選手として出された試合だ。いや、正式にいえば、十試合のうちの一つだ。
確か、ボールを持った百武がゴールに向かって走っている時、横から変な角度でタックルしてきた敵がいて、
鳴滝と同じ一年なのだろうよほど緊張していて、百武がボールから手を離した後でも、我を忘れて百武を
地面に押し付けていた。

 ――単純に、災難というしかない。





「・・・お大事に」


 ぽつりと鳴滝は、同情を込めてそう言った。
すると、それはもう嬉しかったのか、百武は頬を赤らめ目をウルウルとさせて叫んだ。

「君にそんな・・・そんな気遣う言葉をかけられるとは思わなかった!」


 ――気遣いか?気遣いなのか・・・どっちにしろ、半分は早く話を終らせるために
そう言ったつもりだったが、百武は感激したと泣き出した。
 可愛いといわれる女でも、泣くとうっとうしいのに、百武のような正統派体育系に泣かれると、
うっとうしいを通り越して、撲滅したくなってくる。鳴滝の足がピクリと動いた。

「そ、そんなに喜ばなくたってねぇ?」
 保健室の女医、関口はティッシュ箱を差し出して焦りまじりにそう言った。
 ――なんて、短期な子なの!ぼそりと心の中で呟きながら・・・

 機転を利かした関口の為、百武に何もせず、鳴滝は将棋盤を見た。
すると、そこには鳴滝がつい先ほど几帳面なほど綺麗に並べた駒がゴチャゴチャと左側に歪み、
あろうことか駒が半分以上地面に落ちているではないか!さっきのタックルか!


 百武は箱から取ったティッシュで鼻をかむなり、

「先生、鳴滝くんは本当に冷たいんです」

 本人を指差して、普段は会えなくて滅多に言えないことをベラベラと言い出した。

「笹川先生が声をかけないと、部活にも試合にも来てくれないし。部活に来てもずっとダンマリで、
僕らが近づくと睨みつけてくるんですよ。馴染めないなら、馴染めないって
部長の僕に一言相談してくれればいいのに・・・トドくんとはよく話しているのに、僕には全然なんですよ」

「あら、やっぱり馴染めないのね」


 ――こいつだったのか・・・。
前半は間違っているとは言わない。なんせ、鳴滝は本気で嫌がっているのに、笹井先生に連れ去られるように
部活に誘導され、放り込まれるように顔も知らない部員の中に並べさせられた。
初めてラグビー部員に混じった時は、鳴滝は混乱しきっていて、ストレッチのペアを組んだ三年生に
肩を触れられた瞬間、蹴り飛ばしてしまったぐらいだ。
・・・それから、ほとんどの生徒が鳴滝と普段どうりに話すのをやめてしまったのだが、これは余談だ。

 とにかく、後半は多いに間違っている。部員でもない人間が馴染むことなど、好きでない限りありえない!
それに、トドが勝手に近づいて来るんだ・・・鳴滝はそう説明しようと口を開いた。


 ――だが、啜り泣く百武に話が通じるとは到底思えない。怒る気にもなんだかなれない。
 ハァと、鳴滝は今日何度目になるのかも忘れた溜息を深くついた。



「帰る」


 不機嫌にそう言って立ち上がった鳴滝。関口が、
「将棋はどうするの?」と聞くが、
「見ろ、台無しだ」
 鳴滝は、ぐちゃぐちゃになった将棋盤を顎差した。
それに関口が「元に戻せばいいじゃない」と宥める。しかし、静かな癇癪をおこした鳴滝は
「この勝負は引き分けだ」と言う。

 ――引き止めるのは、止めた方がよさそうね。と判断した関口は何も言い返さずに、
さっさとドアを閉める鳴滝の後ろ姿をじっと見た。


「あー、鳴滝くん!折角会えたのに・・・」

「ああ見えて、繊細なのよ。しばらく放っておきなさい」
 仕方ないわねと、関口は床にしゃがみ込んで、散らばった駒を拾いあげた。










 小さな苛立ちは、すぐに泡のように消えてしまう。大きな苛立ちもそうだ。
一度大きな爆発させさえすれば、何事もなく普段どおりに戻る。昔から、鳴滝の怒りに対する感情は
そんなものだった。
 だが、稲田氏に気について学び、精神身体を研ぎ澄ますために瞑想するようになってからは、
その爆発をわずかだが、抑えられるようになってきた――と、いうのは鳴滝の見解で、本当のところは
喧嘩で発散するよりも、稲田氏との修行で発散する方が多くなっていた。

 しかし、それだけでも大きな一歩だろう。やはり、周防のような激しい同属嫌悪を我慢するのは困難だが、
喧嘩で物を言わせるばかりが能じゃないということだ。

 けれど、最近は稲田氏もおらず、発散する所を失った怒りは、じりじりと体の中で溜まる一方。
鳴滝自身もそれを感じては、必死に「無心になれ」と心に言ってきかせるなど、それなりの努力はしている。
だが、それがいつまでもつかは分からない。血に刻まれたかのような憎悪は、外に出よう躍起なのだから・・・ 



 まだ二月だというのに、誰かが窓を開けて閉めるのを忘れたのだろう、冷たい風が吹き付けて、
廊下を歩いていた鳴滝の顔に、ヒラリと紙のようなもの被さってきた。
 鳴滝はサッと腕で振り払い、薄い紙は地面に向かって叩き落ちた。



「――バトルBゲーム?」


 紙に書かれた文字を声に出した途端、鳴滝はどうしょうもなく血が騒いだ。






周防『フジオユキテル、夕飯忘れた!!弁当分けてくれ!!』
ブンブンブンブンッ
藤尾「英司ぃぃぃ!!!!いいかげんにしろよ、勝手に放送なんか・・・ん?――何、目をキラキラさせてんだ?」
周防「うぉおい!!竹刀持っちゃって、チャンバラすんのか?今からすんのか?」
藤尾「するか!!普通に、体育の授業で剣道をやってただけだ!!」
周防「・・・あぁ、煎餅食いてぇ。キザ先とこ行ってもらってくるから、チャンバラは待てくれ!!」
藤尾「おい、話をきけよ!!」                  

                  in 同時刻 明雲高校放送室前


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