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2−1 葛岡高校仮ラグビー部 鳴滝巽改心!?
2、葛岡高校仮ラグビー部 鳴滝巽 改心!?






 ――あの日、
 ドシャ降りの雨は、何を洗い流そうとしているのだろう。
飛び散った血で視界を奪われても、雨は何も落さなかった。



そう、何も、何もなにも・・・嫌な記憶しかない。今も、昔も。
ずっと、ずっと ――血まみれだ。





『出て行け』『わしはなぁ、ヤクザなんて怖ない』『愛している』『生まれてこなければ』
『化け物!』『血が好きなんか?』『いやぁあああああああああああ』





「ぎゃぁああああああああああああ」



突然夢の中で重なった悲鳴は、妙に近く、耳にすぐ傍で聞こえる。
眠っていた鳴滝はハッと、ベッドの上から飛び起きた。
「・・・なんだ?」

「ぎゃぁあ!出た!出た!」
 隣で稲田氏の孫娘杏里が、カーテンを掴んで床を指差している。
鳴滝は目を細めて床を見るが、そこには何もいない。

「何が出たんだ?」
「あれよ!あの黒いの!!」
 杏里はほの暗い机の隅を指して、泣き叫んだ。
 鳴滝は「あぁ」と、一息をつく。泣き喚くほどのおっかない黒い物なんて、だいたいは黒い物体しかいない。
――一応、ここは医院で清潔なはずだが、あっちの方は、場所はおかまいなしだ。

 くだらない理由で起こされたな、と思いながら鳴滝は緑のスリッパに足を滑らせる。
「巽くん?」
 ポロポロと泣く杏里。普段は男に劣らないほど男らしい度胸の持ち主だが、さすがに弱点はあるらしい。
「殺虫剤持ってくる」
 鳴滝はぼそっとそう言い。杏里が指差した机を素通りして、廊下に出た。

「えぇ!ちょっと一人にしないでよぉ」
 杏里の声だけが鳴滝の背を追った。





  ――今日は日曜。
 当然のように病院は休みで、廊下にある待合所はがらんとしている。

 平日とあまり変らない気もするが、そんな事を言えば、稲田氏に追い出されるにきまっている。
なんたって、大病院の院長をやっていた稲田氏が、善意で親友が譲り受けた病院だ。金が目当じゃない。
 ぺタぺタとスリッパを鳴らせ、鳴滝は待合所を通り越し、廊下の先へに向かう。


 この小さな医院のどこに何があるのかなんて、物覚えのいい鳴滝はことの一ヶ月でだいたいを把握し、
一年でもう馴染み。稲田氏以上に、医院のことをよく分かっていた。
 鳴滝は壁から飛び出た二つの取手を掴み開いて、中から殺虫スプレーを探す。
暗い押入れの中は隅々まで綺麗に整理整頓されていた。
鳴滝が今朝、週一回にやっている掃除をし終えたばかりだからだ。
 さっさとスプレーと見つけた鳴滝は、扉を閉め、部屋に戻る。





「ぎゃぁあ!英司、そっち行った!」

「うぉおおお!こらぁ、俺様から逃げられると思うなよ!死ね!」


 赤いジャージ姿の周防が、木のバッドを片手に無闇に地面を叩き、隣では杏里が叫びながら指示している。

――いつの間に来たんだ。


 さっき、間違いなく鳴滝は廊下にいた。
医院の入り口は、廊下の押入れとは反対側にあり、誰かが入ってきたら一発で分かる。
「・・・足が速いからか?」
 鳴滝は質素に呟いた。 



 めちゃくちゃな周防の攻撃と、うるさい杏里から逃げてきた黒い物体を鳴滝はスプレーで秒殺。
 周防と杏里は思わず、声をそろえた。 



「「あっ」」


 シューッという音と、白い煙が物体を包む。



 「お前たち、馬鹿だろう」
 スプレーを噴き切った鳴滝は、鼻でフッと粋に笑う。
さすが、いい男だ、嫌味も男前。

――もしも、杏里の趣味が普通なら、周防じゃなく鳴滝に落ちていただろう。
しかし、杏里はただものではない。なんたって、稲田氏の孫だ・・・
 とりあえず、物体が絶えて安心したのか、杏里は回転椅子に腰掛けた。

 周防はスルッスルのデコに皺を寄せて叫んだ。
「お、お前!俺の敵をよくもぉおおおお!!覚悟しろよぉ、ナルオカかぁああ!」
 バッドを振り上げた周防。杏里は机にあった鉄の器を周防の顔面に向け投げた。
――しかし、当然、周防は杏里の投げた器をひょいっと避ける。

「何にすんだ、杏里!」
「それはこっちの台詞よ!あれを殺してくれた巽くんに、感謝するなら分かるけど・・・・
あんた、何してんのよ!」

「決まってるだろ、これで殴るんだよ!」
 バッドを杏里に見せ付けた。木だから光るはずがないのに、光っているように見える。



「そんなので殴ったら、死ぬでしょう!」



「死んでいいんだよ、ナルオカなんて!」


 ほっとけよブスと喚く周防に、
杏里はすっと立ち上がり、周防の襟を掴んで引寄せた。






「われぇ、あたしに何て言ったぁ?」





 杏里のドスの効いた声は、かわいらしさの微塵もない。ギュウギュウと襟を締める。

「うっ・・・この男女、俺に喧嘩売ってんのかよ!」
 女相手でも負けるつもりはない、と強気に言い張るのはいいが、
杏里はもうすでにカチーンときてしまった。

――乙女に向かって、男女ですって!!


杏里は顔をゆらりと、鳴滝に向けた。
「ウフフ、巽くん。もう、帰った方がいいわよ。あたし、もう手加減できなくなりそうだから・・・
地獄を見たいなら、いてもいいけど」
 静電気で逆立った髪が風で揺れているだけなのだが、まるでこれが杏里の恐怖だといわんばかりに、
ごわごわとゆれている。
 グロスがのる唇の口角が最大限に持ちあがる。

「・・・」  
 杏里の極上の笑みに悪寒を感じた鳴滝は、スプレーとその場に置き無言で走り去るように医院を後にした。









 




 黒いベンツの前には若い男が一人。
20代前半といった所だろう、茶色髪に緑の原色シャツと黒いスーツが悪さを着飾っている。
いつもの運転手である舎弟渋川が、先日、稲田氏から受けた蹴りで全治二ヶ月の足の骨折。
そのため、代行に起用されたのが岸辺龍平。ヤクザ歴三年だ。


「若!どうしたんですか?」

 珍しく真っ青な顔をして医院から出てきた鳴滝に、岸辺は慌てて声をかける。
――しかし、鳴滝は気だるさそうに「・・・何でもない、さっさと開けろ」と言うもんだから、
これ以上は何も聞けず、言われた通りに後部座席の扉を開けた。

 鳴滝は黙ったまま乗り込む。


・・・ほんとうに、色っぽい。ではなく、岸辺は前の扉を開けて、稲田医院を振り返る。
 ガチャンドカンと、騒音が外にまで聞こえてくる。

 ――あんなちっぽけな医院に、なぜ、若はこだわるんだろう。とぼんやりと岸辺は思う。


 日本有数の広域暴力団津幡組、その傘下でいちにを争うのは鳴滝一家。
鳴滝巽は高校生にして一家の若頭で、次期組長。

噂では、津幡総長が直々に会いに来るほど、えらく気に入られているとか
・・・生まれた時から、ヤクザとしての人生は、何一つ申し分がないほど恵まれているはずだ。なのに、鳴滝はまったく見向きもしようとはしていない。

医院に、何の価値があるっているんだ・・・




「おいっ」

「あっ、はい」
 鳴滝にせかされ、岸辺は急いで車に乗り込み、運転座席のシートベルトを掴んだ。 







*次回、岸辺「いやぁ〜渋川さんの代わりに登場なんて、おいしい思いしちゃってすいません!!笑」
渋川「〜〜〜〜見舞いはシュークリームもってこいよ泣」
岸辺「もちろんです!!笑」



明かされる・・・・鳴滝一家!?((学校はどうしたんだ?))




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