君に伝えておきたい話があるんだ。
たいした物語じゃないんだ。
この先、生きていく上でも、
重要ではないかもしれないし、
君の何かを、変えられる話でも
ないかもしれない。
それにちょとだけ、
残酷かもしれない。
だけど、話をしておきたいんだ。
君より、少しだけ、
長生きした僕の、話。
大切なものを
無くしてきただけの、
僕の後悔の、話。
だけど勘違いしないでほしい。
この物語は、教訓とか戒めとか
そんなものでは、ないんだ。
僕の話を最後まで聞いてくれたら、
すぐにでも、忘れ去ってもいい
物語なんだ。
僕が僕の話をする。
君がただ聞いてくれる。
それだけで、僕は
充分なんだ。
それだけで、僕はまた
無駄な重い荷物を背負って
歩いていける。
だから、君の重い荷物も
僕が背負っていける。
歩いていける。
僕に、君のすべての苦痛を
投げつけてもいい。
僕の話を最後まで聞いてくれたら、
すぐにでも、忘れ去ってもいい。
一緒に君の辛さも忘れさってほしい。
悲しさも、忘れてほしい。
すこしだけでも、いいんだ。
君は、忘れていいんだ。
君に話したい物語が、
あるんだ。
★
南の方に大きな島があります。
その島には幾つかの王国があり、王様たちがいました。
資源が豊かな島なので大きな国どうし、力が強い王様たちの土地の奪い合い、戦争が絶えません。
だけど大きな島の南の端にある小さな国は戦争に巻き込まれる事無く、平和で豊です。
小さな国を守る天使を王様が飼っていたからです。
何故、人間が住んでいる場所に天使がいたのかと云うと、神様に嫌われたから、神様に地上に落とされたのです。
戦いの神様に仕えていた天使は悪魔達との戦いではいつも先頭に立って戦っていました。
とても強い天使です。
そして悪魔が許せません。悪魔の存在事態が理解できない天使です。
天使は神様に言いました。
「僕達天使と神様の力をすべて合わせれば悪魔など消し去れます、一気に攻め込みましょう」
神様は言いました。
「攻め込んだらいけません」
神様が何故そんな事を言うのか天使には理解できません。
それでも、天使は悪魔が人間界や天国に攻め入ろうとしたら、神様の命令で守りに行きます。
必要以上に悪魔達を追いかけ滅ぼそうとすると、戦いの神様に止められ悔しい思いをしてしまい苛立っていきました。
疑問だらけで天使は困り果てます。
再び神様と悪魔の戦いが始まり天使は神様の云い付けを守らずに、
逃げ帰る悪魔達を追って悪の世界へ行きます。
悪魔界で天使はたった一人で半分近い悪魔を滅ぼしますが、
自分も沢山の傷を負って戦えなくなり、神の国へなんとか逃げ帰りました。
悪魔のどす黒い返り血と自分の血で純白の天使の羽は真っ黒になっていました。
悪魔と見間違える程です。
怪我をしていた天使は、一人ではなかなか歩け無いのですが、
仲間だった天使たちは怖がり避けてしまいます。
神様の元へなんとか歩いていき、言います。
「今なら悪魔たちの数は減っていますから簡単に滅ぼせます」
しかし神様はとてもとても悲しい目で
「あなたの心は今、その羽と同じですね」
と言って、沢山の光の輪で天使をグルグルに巻いてしまい動けなくしました。
「あなたの羽は永遠に黒いままです、そんなあなたはここに居る資格はありません、地上で暮しなさい」
天使は突き飛ばされ地上へ落下していきました。
光の輪が体の自由を奪っていたのでそのまま地上に激突です。
激突した衝撃で光りの輪は一つだけ残りました。
天使なので死にませんが気を失ってしまいます。
それを地上から見ていた大きな島の南の端にあった小さな国の王様に仕える魔術師が天使を拾い城に運び、人間でも天使を操れるように体に魔法の刺青をします。
とても不気味な黒い模様が気絶している間に入れられました。
王様が呪文を唱えると体が炎で焼かれるような痛みが全身に走る仕組みです。
これで天使は王様のモノになります。天使一人で小さな国を守るのです。
人間の命令を聞く事になった以上に辛い現実も知ります。
それは地上に激突した衝撃で天使は空を飛べなくなっていたのです。
不気味な姿、飛べない羽、人間の好いなり、悲しい日々。
小さな国の王様は周りの大きな国に脅える事は無くなりました。
だからと言って大きな国を攻める事はしません。
自分の国が無事なら良かったのです。
これで小さな国だけの平和は守られ、周りの大きな国だけが戦争をしていきます。
やがて、天使の役目もなくなり、天使は牢屋の番人をさせられます。
山のような岩石に太い鎖で繋がれ、罪人が逃げないように見張りをする日々をすごしていました。
戦いの天使ですから太い鎖なんて千切れます。山のような岩石も簡単に粉々にできますが、
それをやると町中に広まった王様の呪文を、誰かが唱えるのでただ黙って鎖に繋がれました。
じっと座っていた天使にも一つだけ楽しみがあります。
それは、小さな国の綺麗な山と海が大好きで、小さな国に住み付いた妖精がいたからです。
妖精は日が昇ると同じに山にある一番大きな木から目覚めて、午前中に山々を飛びまわり、
正午に海へ行き、波の上を踊るように飛びます。
そのおかげで山はいつでも緑におおわれて、作物はスクスクと育ち、家畜も病気など一切せずに、海には沢山の魚で埋め尽くされ、小さな国の豊さの源を作っていました。
妖精は女の子の姿をしていてモンシロ蝶々のような羽です、羽は上半分は山の緑、
下半分は海の緑色をして半透明でキラキラと光っています。
天使が座っている牢屋の前から空は良く見えません。
建物と建物の間からちょっとだけ見えるだけです。
その隙間のような空を正午と夕方に妖精が楽しく飛ぶ姿が伺えます。
ほんの十数秒位です。
天使は一日一日をその十数秒の楽しい時間の為だけに生きます。
いつものように海の上をとびまっていた妖精は、
足を怪我して溺れかかっている子供を見つけます。
しかし大人達が助けようとしていたので祈るようにその様子を見守っていました。
だけど魚が沢山いる海ですからその日は魚を狙ってサメの集団が入り江まで進入しきていました。
血の匂いを嗅ぎ付けたサメの集団は狙いを怪我をした子供にかえます。
大人たちはそれに気付き全員逃げてしました。
子供は一人ぼっちです。
慌てて妖精は子供救おうとしますが、体が小さい妖精はサメと戦えません。
妖精は自分の足を自分で傷つけサメを引き付ける為のおとりになります。
それを見ていた子供のお父さんも自分の足を傷つけ海に飛び込みました。
サメの集団は二手に分かれ、子供が助かる確率が上がります。
その隙に子供のお母さんがなんとか救出に成功しました。
お父さんも無事です。
だけど一匹のサメが妖精の大事な羽に噛み付き、綺麗な羽を破いてします。
人々は妖精に心から感謝しました。
妖精は優しく笑って傷ついた羽を労わりながら飛び立ちますが、真っ直ぐ飛べません。
少し飛んでは休み、少し飛んでは休み、なんとか住家がある大きな木まで辿り付きました。
次の日、妖精は飛ぶことができず、傷を癒す為眠ります。
天使は寂しくなり、妖精が心配でたまりません。だけど動けない。
動かない・・。
妖精は二度と飛べなくなったわけではありません。
羽は再生するので心配する必要はなく、完全に治るまでたったの一週間かかるだけでした。
妖精が飛べない一週間、ほんの少しだけ作物が育たなくなり、
海の魚も減ります。天気も悪くなりました。
王様のお気に入りの庭園も大雨で無くってしまいました。
それで怒った王様は魔術師に命令します。
「妖精も自由に操れる方法を探せ」と。
魔術師は考え、方法を発見そます。
「天使の羽で長い糸を作りましょう、糸を妖精の首に巻き操りましょう、
妖精は天使の羽でできた糸を切る事は出来ないはずです」
天使は羽の三分のニ抜かれてしまい、今まで以上にみすぼらしくなってしまいました。
魔術師たちは作られた黒い羽の黒い糸を持ち、妖精が眠る大きな木へ行き、首に巻きます。
そうやって妖精も王様の物になってしまいました。
王様は犬の散歩のように妖精を連れて周り、都合が良いように妖精を使います。
用が無い時は天使の目の前にある石で作った牢屋に閉じ込め、
黒い糸を天使の小指に結び、逃げないように見張らせました。
大好きな場所を好きなように飛べない妖精は、石の牢屋で涙を流し悲しみます。
天使が食べ物を与えても食べません。話しかけても応えてくれません。
目の前に妖精がいるのに天使は全然嬉しくない。
たった十数秒、楽しく空を飛ぶ妖精の姿が大好きだったからです。
日に日に弱っていく妖精を見た魔術師は、栄養がありそうな食べ物をぐちゃぐちゃに混ぜて、
一口で飲み込める固まりを作り無理やり飲ませます。
妖精は一段と無口なり、顔の表情も曇っていきました。
天使はいろいろと考え思い付きます。
砂浜にある小指の先ほどの石。
耳に添えると海の音がする”儚石”
山の奥、渓流に洗われた水晶に似た石。
覗くと青い空が見える特別な”青水晶”
天使は二つの石を妖精にプレゼントしようと考えつきました。
だけど、太い鎖は切れない、切れるけど、切れない。
二つの石は昼間だけしか海の音はしないし空の色も見えない。
それに、他の場所に移動させた石は一度夜がくるとその力を失う。
天使は山のような岩石を背負って、夜の間中砂浜で儚石を探す。
日が昇る前やっと一個を手に入れ、妖精がいる石の牢屋に投げ込む。
儚石は妖精の手に触れられる事なく、夜をむかえ石の命を終える。
山へ行き同じに青水晶を探し、石の牢屋へ投げ込む。
触られる事なく夕陽がきて暗くなり、青水晶もただの水晶に変わる。
その夜も天使はまた砂浜へ行く、多くの砂をかき分け、かき分け、一つの儚石を探す、
牢屋へ投げ込む。
次の夜山へ行き、大きな岩石と太い鎖を背負い川を上りながら石を探し
石の檻へ投げ込む。
何日も何日も繰り返しました。海と山を一日置き、交互に通います。
天使が歩いた海への道、山への道には数え切れない沢山の足跡が出来あがっていました。
人間たちは陰で言いました。
「なんて無駄な事をしてるんだ」
天使は思っていました。
「きっと儚石と青水晶が二つ同時に揃えば喜んでくれる」
石の牢屋には死んでしまった儚石と青水晶だけが積まれていきました。
どんなに頑張っても、今の天使では一晩に二個の石を集めるのは不可能です。
天使の背中や足には、岩石でボロボロに傷がつきました。
羽もすっかり擦り切れて二本の、羽のような骨格が残っているだけです。
良く見れば何枚か黒い部分は残っています。
悪魔の血の黒です。
天使はとうとう石の牢屋前にへたり込み泣き出しました。
自分の気持ちが伝わらないからではありません。
石を二つ揃えられない事と、どうすれば妖精に笑顔が戻るのか分からないからです。
止められない涙を流している時に天使は思いました、感じました。
それは、自分に黒い刺青をして羽で糸を作った魔術師や思い通りに操った王様、
知らないフリをする人々、皆を恨んでいた自分がどうでもよいと思い、
逆に皆を許せる気持ちになっていく感じがしていた事。
そして地上に追放した神様に感謝をしました。
感謝することができました。
今はただ恋をしてしまった妖精だけを想えるこの状況に感謝しました。
でも涙は止まりません。
その時、檻の中から白くか細い手が、傷まみれの天使の腕に優しくのります、妖精の手です。
妖精は儚い笑みを浮かべ言いました。
「そんなに沢山の涙を流させてしまった私を許して下さい」
妖精は美しい羽を大きく広げました。
天使がその日にとって来た儚石に、妖精は耳を近づけ瞼を閉じ聞き入ります。
とても幸せそうな顔です。
天使は立ち上り鎖を引き千切り、いとも簡単に山のような岩石を叩き割りました。
体が軽くなった天使は風のような速さで山へ駆けて行き、青水晶を探しだし妖精の元へ帰ってきて、始めて手渡しました。
とても、とても、優しい目で妖精は青水晶をのぞき込み言いました。
「ありがとう」
天使は石の牢屋を砕き、妖精の体に巻き付いていた黒い糸を千切り捨て
妖精を逃がしました。
その時天使は自分の指を切ってしまい、黒い糸は一瞬で赤く変わりました。
天使の事を心配した妖精は、なかなか飛び立とうとしないので、
天使は死に絶え山積みになっていた儚石と青水晶を妖精にぶつからない程度に投げます。
「僕は大丈夫、僕は大丈夫」と言いながら石を投げます。
妖精はなんとか飛び立ち、小さな国を去りました
「もっと早くこうやっていれば良かったんだね」
妖精が見えなくなるくらい遠くに行った事を確認した天使は、
自分の体中の皮膚を剥がしました。
天使は筋肉や脂肪、血管が丸見えの体になります。例えようのない激痛です。
そよ風が吹くだけでも体が痛いのです。
でも王様の命令は聞かなくても良いのです。
天使が手放せない王様は城の地下室に監禁しました。
周りの大きな国々に知られたら攻めこまれるので、人目につかないようにしたのです。
環境は前より悪くなった天使ですが気持ちは晴れやかでした。
何処かで自分が恋した妖精が楽しく踊り飛びまわっていると想像するだけで幸せだったのです。
気付いたのです。
何かを、誰かを、恨んだり、憎んだり、怒ったり、
そんな事を少しでも心に持っていたら幸せなんて思えない、
純粋に好きだと想えれば何処にいたってどんな環境だって平気でいられる。
思い出だけでも生きていけると。
閉ざされた地下室で、妖精が最後に聞いた儚石と最後に覗いた青水晶を大切に、
大事に握り締めていた天使でした。
妖精がいなくなってしまった小さな国は大きな国に攻めこまれるまでも無く、
作物がとれなくなり、魚たちも消え、寂びれていきます。
人々は小さな国を捨て、王様も居られなくなり隣の国へ財産の金銀、宝石を持ち、
逃げこみます。
誰一人として消えてしまった、薄暗い城の地下室に天使は残されました。
長い長い年月をかけ城は風化して、崩れ落ち、地下室は土の中になり
城跡には木々が成長して、小さな国自体が大きな森へと生まれ変わりました。
地下室には針の穴ほどの隙間が地上へ繋がっていて
そこから入りこむ一筋の光で天使は昼と夜の区別をつけます。
死に絶えていた最後に触れた儚石と青水晶は長い間地下室にいたので、そこが存在場所だと認識して再び蘇えり、天使に海の音と空の色を思い出させます。
ほんの小さな穴から射し込む、一筋の光に照らされる二つの石は妖精との儚い夢のようです。
何度か人間が滅び、何度か人類が誕生しました。
その度にこの森は人の手で壊されそうになりますが、不思議な力が働き人々は破壊を諦めます。
南の島は大きな大きな大陸に変わっていました。
人の想像を遥かに越えた時の流れの中で天使は小さな石の音を聞き、色を覗いています。
何一つ変わらない幸せの中にいます。
そして地下室にあの妖精が現れました。
良く見ると羽は天使の羽でした。頭には光りの輪が輝いてします。
妖精は天使になり、神様に頼んだのです。
傷ついた天使がまた元の天使に戻れるように、長い間祈っていたのです。
やっと神様の許しをもらい、連れ戻しにきました。
しかし天使はそんな事より再会できた喜びで胸がいっぱいでした。
「僕は神様の元に戻れなくてもいいです、あなたの腕に抱かれ、あなたと共にたった一度、大空を飛べるだけでいいです、妖精だったあなたに会った頃からの僕の夢です」
天使になった妖精は天使を抱えて大空を飛びました。
皮膚が無い天使には、触れられた場所には激痛が走ります。
太陽の直射日光も同様でした。爽やかな風すらもそうです。
だけど、最高の幸福です。天使は幸福です。
どんな物にも替えられない優しさに包まれ天使は激痛の中ではなく、
幸福の中で死にました。
両手に大切に握っていた、儚石と青水晶は天使の手から離れ、深い深い海へ沈み、静かに底へ底へと落ちていきました。
天使になった妖精はまた神様に頼みます。
「永遠に二人を結んで下さい」
神様は言いました
「それならば、あなたたちを人間にします、永遠に生まれかわり、永遠に出会えさせましょう。赤い糸で結びましょう」
儚石と空が見える青水晶は大昔に消え去りました、でも
天使と妖精、どちらかが、君なのかもしれない。
おわり
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