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真紅の薔薇を貴女へ

作者:くろた
備忘録からサルベージ
灰髪、灰青目、大剣を背に負う大男。
薔薇色の髪、深紅の目の美しい女の姿をした妖魔が出会ったのは凶暴な魔物が徘徊する深い森の中であった。

人と魔、ひと時も目を逸らせない状況で先に口を開いたのは大男の方であった。
「あんた…すげぇ美人だな。」
どこか呆けたように妖魔を見つめつつ、なぜか距離を縮めようとする大男に妖魔は警戒して後ずさる。
「そのような戯言で妾を謀る気かえ?」
妖魔から返事が返ってくるとは思っていなかったのか、大男が目をまん丸にして驚き、すぐに満面の笑みを浮かべる。
「あんた、人の言葉が分かるのか!?すげぇな。俺は今まで数えきれない程の魔物を切ってきたが、人の言葉を話す魔物なんて初めてだ。」
ニコニコと笑みを浮かべたまま、更に距離を縮めようとする大男に、妖魔は手からスルリと茨の鞭を出し大男へと勢いよく振り上げた。
「近寄るな。妾が獣共と同じだと?虫唾が走りおるわ。だいたいの妖魔は人の言葉なんぞ理解しておる。たわけめ。」
バシリッ、と大きな音を立てて大男の足元の土がえぐられるが、鞭を振るわれたことに気が付いてないかのように無造作に大男は妖魔への距離を縮めようと歩み寄る。
「あんた、声も綺麗なんだな。なぁ?名前とかあんの?俺、ノルド。エルディオスって国知ってる?この国のずっと北にあるんだが、そこのガラハって村から来たんだ。」
妖魔は警戒し離れようと後ずさるが、ノルドはズカズカと近づいてくる。
「近寄るなと言ったであろう?この薄汚い下郎め。そなたのことなぞどうでもよいわ。とりあえず近寄るなっ。」
再度振り上げた鞭をノルドへ振るうが、ヒョイヒョイと軽やかにかわすノルドにイライラしたように妖魔が叫ぶ。
「なぁなぁ、名前なんてぇの?」
しつこく名を訊ねるノルドに妖魔は顔をしかめ、
「うるさい、耳が腐る。」
そう言い残し、踵を返して森の奥へ歩み去った。

次の日からノルドは薔薇色の髪の妖魔に会いに連日森へと通いつめた。
通いつめるうちに妖魔の住む洞を発見したノルドは、酒や菓子、服に花、装飾品などを手に妖魔へ会いに行くのが常となり、ひと月経ち、ふた月が経ち、森にハラハラと粉雪が舞い始めた頃になると、妖魔の住まいの近くにテントを張り住み着いてしまった。
最初は警戒し、近づけまいとしていた妖魔であったがノルドのしつこさと気安さに根負けしてしまい、火を熾し野兎を焼くノルドの向いに座り、会話をするようになるまでなった。
「おぬし、なぜにこのような場所で野宿などするのだ。人の身には危険であろう?寒いしの。」
「あ~…えっとな、あんたに贈り物しようと色々買ってたら金なくなっちゃて。実は財布スッカラカンで宿とれないんだわ。」
ハハッと笑いながら頭を掻いたノルドが答えると、妖魔は心底呆れたようにため息をひとつ吐く。
「あほぅであろう、おぬし。」
こんがりと焼けた兎の肉を食べさせようとするノルドと、頑なに固辞する妖魔の語らいは深夜まで続いた。

ハラハラと降る粉雪がトストスと音を立てて降りつもる雪へと変わった頃、町に買い物へと出かけていたノルドが大慌てで帰ってきた。
「リーゼ、リーゼっ、荷物まとめろ。領主の兵がやってくる。この森、焼き払ってリーゼのこと捕まえるって、たくさんの兵集めてる。アウラウネ種は冬は弱くなるからって。逃げるぞリーゼっ。」
大慌てでテントをたたみ始めたノルドに、リーゼと呼ばれた本名をリーザローゼという妖魔は不思議そうに問いかける。
「なぜに領主が妾を捕まえる?妾は町に行ったこともなければ森を出たこともないぞ?領主が妾のことを知るはずがあるまいに。」
「あ~…ごめん。たぶん、じゃなくて、確実に俺のせい。リーゼの絵姿、絵師に頼んだんだ。それ見て色ボケ領主が欲しくなったんだと思う。リーゼすげぇ美人だし。」
手早くテントをたたんだノルドは散らばった食器や荷物を大雑把に袋に詰めこむ。
「お、おぬし、本当にあほうであろうっ。絵姿なぞ、いつの間にっ、妾の許可もなくして絵姿なぞ作りおってからにっ。」
怒り心頭でノルドを叱りつけるリーザローゼに、
「まぁまぁまぁまぁ、怒るのわかってたから言わなかったの!ごめんね。だから逃げるよリーゼ。荷物どれ?早くまとめないと。」
と、ずかずかとリーザローゼの住む洞へと入り込み、リーザローゼの荷物を漁りはじめた。
「荷物なぞ、おぬしから貰うた物以外ないわっ。」
怒りで顔を真っ赤にしたリーザローゼの発した一言に、一瞬動きが止まったノルドであったが、すぐにニヤニヤと頬を緩ませながら「どーこー?」とリーザローゼの少ない荷物をひっくり返し始めた。
「勝手に妾の荷物を漁るなーーっ」
リーザローゼの怒声が森にしばらくの間響いたのは言うまでもない。


遠い夕闇の空に黒くたなびく煙を見ながらリーザローゼは口を開く。
「おろかなものじゃのぅ。あの森は魔物もたいそう居とったが、恵みも豊富にあったであろうに。この冬を乗り越えることが出来ぬ人も出るであろうな。」
「優しいなぁリーゼは。」
パキパキと乾いた小枝を折りながら焚き火の準備を始めたノルドにリーザローゼは枝を手渡しながら問いかける。
「優しいのはおぬしであろう?わざわざ妾を連れて逃げるとは。分かっておるのかえ?妾は人ではないのだぞ?」
「そんなの最初っから分かってるって。でもさ、その人でないリーザはなんで人間の俺を最初に殺さなかった?威嚇だけで全然当てる気なかったよな?」
袋の中から鍋を取り出したノルドは踏まれてない綺麗な雪をすくって鍋に入れ、手際よく熾された火で温める。
「殺意なき者を殺してどうする。弱いものイジメであろう。相手が妾を殺そうとするならば、もちろんそれ相当の対応するがの。妾も生きたいからのぅ。」
くつくつと気泡をあげる鍋に手を伸ばし、リーザローゼは手の内からパラパラと細かく砕いた葉を落とす。
植物の妖魔である彼女は自由自在に植物を操る他、様々な効用の植物を生み出すことも出来る。
鍋に落とされた葉から琥珀色のエキスが滲み出し、芳醇な芳香が辺りへと漂う。
「つくづく変わってるよなリーゼ。そういえばアウラウネ種は冬になると眠るって聞いたが?どっかの国のアウラウネ種の妖魔が討ち取られたって聞いたぞ。」
ノルドが最近のお気に入りでもあるそのお茶を葉を入れないよう注意しながら、袋から取り出した2つのコップに注ぎ入れ、1つをリーザローゼへと手渡す。
「おぬしに変わり者呼ばれとうないわ。しかし、妖魔が人に討たれるとは余程のことだのぅ。あぁ、冬で寝たと言うたな。そやつは休眠するタイプの種だったのであろうよ。休眠するタイプは活動期は爆発的な力を振るうがのぅ、休眠すると己の身を守ることすらままならなくなるでな、キチンとした隠れ家が必要になるのじゃ。」
お茶をすすりながらノルドからの問いに答えるリーザローゼにノルドは更に問いを重ねる。
「だいたい妖魔と魔物って何が違うんだ。てか、リーゼは冬に寝ない種なのか?」
「妖魔と魔物は共に魔から産み出され魔を産みしモノのことだの。魔物は獣と同様ぞ。あれらには大した知恵も力もない。妖魔は人と似た姿をしておることが多い、というか人と似ていれば似ている程、力が強いのぅ。あぁ、それと妾は休眠する種ではない。冬はちと治りが遅くなる程度じゃな。ところで
、これから先どうするのじゃ。あの森には戻れんのじゃろう?」
薄明かりは過ぎ去り、闇の帳が降りた雪原の片隅で熾された火は雪の白にほのかな橙の色をまぶして2人を温めてくれる。
「俺さぁ、夢があるんだ。この世界の果てを見たいって夢。でさ、リーゼ一緒に見に行かねぇか?」
パチパチと小さく火が爆ぜる。
しばらく無言で火を見つめていたリーザローゼであったが、やがてあーとか、うーとか唸りはじめ、火によってもたらされた橙以上に顔を赤く染め、ノルドへと言った。
「ノルド・・・おぬし、妾に花をくれたであろう?真っ赤な薔薇の花じゃ。花はのぅ、実をつける為に咲くのじゃ。んでな?妾はそれを受け取ったであろう?…だから…その、そういうことじゃ。」
なにやら可愛らしく葛藤しているリーザローゼをマジマジと見ながらノルドが口をひらく。
「え?なに?リーゼさん?意味わかんねっすけど・・・。」
次の瞬間、リーザローゼの渾身のパンチがノルドを襲うことになる。



ノルドが無防備になるであろう冬の間、リーザローゼを守る為に森に居をうつしたこと、
アウラウネ種では花の受け取り、特に己の大元である植物の花の受け取りは求婚を受け入れることと同意であることを知るのはもう少し先の話。

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