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もっと、触って ~ある愛のカタチ~

作者:アザとー
 彼女は俺の耳元に唇を寄せて、ねっとりとした声で囁いた。
「もっと、触って」
 その声に誘われて、俺は彼女の唇へと指を這わせる。
 乾燥しきってひきつれた皮膚、腐敗が始まって形の崩れた口角、そして室温よりも低いひんやりと不快な体温……彼女はすでに死んでいるはずの人間だ。
 俺は彼女を殺した後で、少しでも長く美しい姿を留めてやりたいと業務用の冷凍庫を買った。血の気を失って真珠のように白くなった肌に傷などつかぬよう、油紙で丁寧に包んで冷凍庫の中へと確かに寝かせてやったはずである。
 しかし三日前、彼女は急に起き上がり、そして俺に向かって囁いた。
「ねえ、触って」
 憎くて殺したわけではない……激情にかられて絞め殺してしまうほどに大事な女。愛しくて愛しくて、それゆえに許せぬ罪を犯しただけの、かわいそうな女。
 俺は彼女の声に応えて、すぐさまその肌をさすってやった。何日もの間を冷凍されて過ごした彼女の肌は固く、冷たいものだったが、私にとっては馴染みの肌だ。すぐさま彼女の善いトコロを探り当て、劣情のままに肌を擦り付けあった。
 それから三日、俺はロクに物も食わずに彼女を抱き続けている。すっかり解凍された彼女の肢体は少しずつ腐敗菌に侵食され、その毒素はきっと俺の体をもむしばみ始めているはずだ。
 このまま彼女を抱き続ければ俺は確実に死ぬ。だが、やめられるはずがない。俺が少しでもそばを離れようとすると、彼女はせつない声で囁いて俺の手を引くのだ。
「もっと、触って」
 殺してしまうほど愛している女にこれほど強く求められては、もはや理性の箍など役には立たない。俺は荒れ狂う欲情のままに彼女を押し倒し、その体中――冷たい肌の隅々にまで指を這わせる。
 彼女と同じく死を迎えるのなら、それはそれで構わない。そもそも俺には、彼女をこんな体にしてしまった責任がある。二度と俺以外の男に触れられぬよう、腐りかけた冷たい体にしてしまった責任が……。
 生前の彼女は男好きであった。俺という男がありながら、何度も何度も浮気を繰り返し、数知れぬ男に肌を許した。俺が彼女を殺すに至ったのは、これが原因である。
 しかし、今思えば、彼女は寂しかったのだと思う。
 彼女は小さいころに親に捨てられた子で、人肌に執着することが多かった。俺と眠るときも衣服の一切をつけず、俺にも裸でいることを求め、いっそ癒着してしまうのではないかというほど肌を擦り付けることを望んだ。
 それほど強く肌に触れていながら、なおもねだるのだ。
「もっと、触って」
 それほどに人肌を必要とする彼女が、俺が仕事でいない時間を耐えられるわけがなかったのだ。だから、俺の代用となる男を求めた――いや、代用となる肌を求めたに過ぎない。
 俺はもっと早くにこうするべきだったのだ。仕事など投げ出し、一日中を彼女と肌を合わせて、お互いに擦り付けあって……。
 また一つ、彼女がささやいた。
「もっと、もっと、触って」
 俺は彼女の爛れた胸元に唇で触れながら、愛する女の肌を独り占めできる安心と快楽に目を閉じる。
「ねえ、もっと、触って」
 ねだられるがままに、俺は彼女の肌に触れ続けるのだった。

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