二章の3 俺と八本足のにょろ
闇色のネックレス……
私が私に課した重り。
私の魔力を抑え、私を世界から守るための鎧。
さぁ――解き放とうか。
もう一人の私を……
ネックレスを外すと、漆黒の翼が姿を表す。
瞳は紅蓮に。
髪にはどくろの髪飾り。
スリットの入ったワインレッドのドレスを纏う。
黒薔薇の大鎌を担げば。
誇り高き魔王の出来上がり。
「…………わらわは偉大なる大魔王エィリア・リタ・ヴェルア、そなたのような奴にわらわの姿を見せてやる事を感謝するがよいぞ」
『ふん……魔王か。 取り巻きは呼ばなくていいのか?』
「いらぬ。 下僕を減らしたくはないからな」
『では、戯れもここまでだ。 参る』
「久々にわらわを楽しませてみよ」
私の倍はありそうなタコの足が海流を乱しながら不規則な動きでこちらに向かってくる。
水中でとどまる事も難しいため、乱れた海流にそのまま乗ることにする。
上に下に右、左もはやどっちが上かもわからない。
木の葉のように流されながら、あらゆる方向から向かってくる足を避け、切り裂きかわす。
黄色に光る大きな目玉は、私の動きを観察しながら追っている。
『避けるだけでは勝てぬぞ』
僅かに嘲笑が含まれている。
……不愉快。
「あら、切りつけてもいいのかしら? 私の鎌は魔物切りよ?」
『切れるものならきってみるがいい』
完全に嘲りが含まれる。
実に不愉快だわ。
とりあえず、迫り来る足に鎌を滑らせる。
が……歯が立たない。
『フ、ハハハハハ』
あぁウザ。
……やっぱり毒流してやろうかしら。
でも、なかなかの好敵手とみた。
せいぜい足掻くがいいわ。
「我、八百万の魔を束ねる物なり――――その悪しき御霊をここに召喚せん……現れよ悪鬼」
私の呼び掛けに現れたのは、私が有する中でも最弱の鬼。
まずは様子見と行こうか。
『なんだこいつは』
現れた小鬼に対して、(人型なら)眉間にシワを寄せるような声音が呟かれる。
《魔王様お呼びいただきまして光栄でございます》
「うむ、わらわの為にそなたの最善を尽くせ。」
《もちろんでございます》
私の前で頭を下げる小鬼は基本的にはイタズラ程度の害を及ぼす事しかできない。
悪鬼の仕事は、相手を怒らせる事。
小さな体を活かしてタコの足を掻い潜った小鬼は、黄色の眼孔の前を右に左にふらふらと動き回りながら、思い付く限りの悪態を叫んでいる。
それにつられて、タコの足の動きも荒々しくなっていく。
散々喚いた小鬼は、また足を掻い潜り私の元に戻ってきた。
《魔王様……》
「わかっておる。そなたの最善じゃな、良い働きであった。 そなたの部族に褒美を与えておこう」
《ありがたき幸せにございます》
さて、現れた時同様突然消えた悪鬼。
『なんなんだ!?』
タコの動きが上がった。
もう面倒だわ。
アレに殺らせよ……
「我、八百万の魔を束ねる物なり――――その悪しき御霊をここに召喚せん……ガシャ」
呼び掛けに現れたのはもちろん、私の忠実なる(?)秘書である白骨イケメンガシャ。
ちなみに、私の希望により人型だ。
理想の王子様ルックってやつ。
「魔王様!? いきなり何ですか……ってかまだ西の空が明るい頃に悪鬼を召喚しましたね? 彼らは弱い部族なんですからそんな時間に呼び出しちゃいけませんよ!」
あ――うざ。
「うるさい、アレ倒すのっさっさと殺ってきて?」
私の言葉にわざとらしく溜め息を吐き、やれやれ……なんて呟いている。
「いいじゃない、領土拡大よ? 海の中にも下僕いたほうがいいじゃない!」
「わかりましたよ、アレ殺していいんですか?」
「ダメ、領主がいるから」
「まったく……わがままな魔王様ですねぇ、んじゃいってきまーす!」
荒れ狂う波など全く関係ないらしい。
ちなみに、私はずーっと揺れている。
そろそろいろんな所の筋を痛めて来たので、シールドを張った。
ま、最初からやっとけば良かったんだけどね。
『何だまた家来を使うのか?』
「それで最後よ、ソイツが殺られたら私が出るわ」
『ならば早く終わらせようか』
「嘗めないでくださいませ?」
ガシャの手にある魔力玉は……げ!?
雷?
それはまずいんじゃ……。
「サンダーボール……てぃ!」
投げた先はタコの口。
体内で放電した所で結果は変わらない気がする。
「……放電」
――バリバリバリバリッ!!!!
一瞬早く、タコとガシャをふくめた円状にシールドを張った。
発光が半端ない。
サングラス、サングラスっと♪
タコ入りシールドを空へ上げる。
陸に上がった何とかだな(笑)
私も上へ、翼を使って上がる……空へ。
日も沈んで暗くなった空に、アレは明る過ぎるのでもっと高くまで上げる。
ついでに私も上へ。
カイト他、船員などにこの姿を見せるわけにはいかないので一瞬のうちに、高くまで飛んだ。
板状にシールドを張り(一辺100Mの正方形)、タコ入りシールドを解除する。
ちなみに、私のシールドは張ったままだ。
放電したやつに感電なんてしたくないし。
案の定、一瞬の雷音の後……瀕死のタコとゲホゲホ咳き込むガシャが出てきた。
「魔王様、何で私までふくめたシールドを張ったんですか?? おかげでめっちゃ眩しかったんですけど?」
眩しかっただけって言うのがまずおかしいって。
「わらわがシールドを張らなくてはならなくなったのはお前のせいであろう?」
「そうですけどぉ……」
王子様スマイル+苦笑=ウザイ骸骨。
「ま、これで今日のわらわの仕事は終わりだ。 今夜は帰らぬのでよろしく」
「了解しました、行ってらっしゃいませ」
静かに頭を下げたガシャをに一度頷き、ペンダントをかける。
翼は消え、髪飾りもドレスもかわる。
ただのリタの出来上がり。
「そのタコなつくまで城の池に入れといて」
「めんどくさいです」
「やれ」
「はい」
さて、私は船に向かって紐なしバンジーを開始。
甲板に降り立つと、カイトとルカが待っていた。
「おかえりなさい、お姉様」
「ありがとう、リタ」
いつもの微笑みを浮かべるルカと、ヨレヨレなカイト……相変わらず丈夫な奴。
「ただいま、あーーお腹空いた! 夜ご飯にしましょ」
「はいっ! 船長さんに航海の再開を伝えてきますね」
ルカがパタパタと走り去った。
「リタ……いや、いいか。 早く中に入ろうぜ? 濡れたままじゃ寒いだろ」
今なんか言いかけてたような気がしたけど……。
まぁいいか。
ってか別に寒くないけどね。
「そうね、行きましょ?」
でも……『リタ』の生活も悪くないわね。
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