僕は大学2年生。今から1年前、僕はとある選択に迫られていた。僕の学校では1年生の後期になると、言語の選択必修というものがある。選べる言語は4つある内の1つ。中国語に韓国語にロシア語、そして英語。
―どうする…?
正直なところ、僕はどの言語にも興味がなかった。入学する際、いや、受験する前に普通は大学の特色などを調べるものだろう。だが、僕は違っていた。格好良く言うなら、つまり
「ノーマーク」だった。まさかこの大学が言語に力点を置いている大学だったなんて…やられたぜ、畜生。
余談だが、僕の通う大学は国際何とか、という名の学校だ。
とにかく僕は悩んでいた。
―無難に英語か…?
いや、でも未知なる挑戦というのもありな気がする。しかし今後の為にもここは慎重に決断しなければ…
ふっふっふ、こんなこともあろうと、とっておきのアイテムを用意した。なんて準備が良いのだろう。ドラ○もんも脱帽間違いなし!
その名も
「あみだくじ」
。
僕は長い長い道のりを辿った。その結果ロシア語と共に歩むことを誓った。
―ふむふむ、ロシア語か…ヨーロピアンな香りがするなぁ…日本人は欧的なものに弱いからな〜
僕は一人勘違いし、浮かれていた。
だが、授業初日、教室で驚愕の事実を知ることになる。
―こ、これは!
僕は目を見張った。農村部の過疎化を一瞬にして思い出させるような光景が飛び込んできた。もともと小さい教室なのに広い…。
隣りの教室では、おそらく韓国語であろうクラスが、数十人でわいわいやっている。何かくやしい…。
これは負け惜しみではないけど、人数少ない方がお得感があると思わないか?
しかし数日後、そんなことも言ってられない程に事態は深刻化した。
1人…そしてまた1人、教室から姿を消していく学生。何かのホラー映画のような出来事がその教室では起きていた。
「このクラスは呪われている」
そんな噂があったとか、なかったとか。とりあえず
「そして誰もいなくなった」
というのは避けることができた。
ロシア恐るべし!
しかし、担当の先生は驚異的な少人数にも関わらず、熱心に指導してくれた。良い先生だ…。最初はそう思った。
クラスに激震が走ったのは、とある日の授業のことだ。その日は何かが違っていた。いつものようにロシア語で
「こんにちは」
と言いながら教室に入ってくる先生の腕には見慣れぬ黒い物体があった。
僕らも同じようにロシア語で
「こんにちは」
と返すが、その黒い物体に視線は釘付けだった。
―何かする気だ!!
その黒い物体の正体はテープレコーダーだ。言語の勉強なんだから読み書き、聴く話すは避けて通れないことはわかっている。僕らはそんなことで驚いたりはしない。
だが、迂闊だった。僕らは大変なことを忘れていたのだ。
テープレコーダーの特殊能力“録音”というものをね。油断大敵だ。
「今日は皆さんの発音をチェックする為に、録音します」
―何ィーーッ!?
僕は激しく動揺した。手順はこうだ。 一人ずつ前に出てきて、マイクを持って、まず名前を名乗る。そしてテキストを暗唱。これが意外と恥ずかしいのだ。僕は心の準備が必要だった。
「準備はいいですか」
―え、早っ。ちょっ、待っ…―
先生は天使のような笑顔で僕をせかす。どうやら僕に時間を与えてくれる気はないようだ。ふ、世の中そんなに甘くないってことか。先生が録音ボタンを押す。教室は静けさのためか、妙な緊張感が漂っている。
―やばい…緊張してきた。やっとの思いで絞り出した声は、緊張で上ずり震えていた。なんとも情けない…。しかし言い切った…僕の使命は果たされたのだ…。脱力感と達成感。僕はほっと一息ついた。その時だった。
「あれ、すみません。違うボタンを押していました。今のは録音されてないですね。もう一回やって下さい」
はい?声にならない悲鳴。ちゃんと確認しなきゃ〜!!僕は2度も恥ずかしい録音タイムを頂戴することになった。そして地獄はその後も続く。
「全員録音しましたね。では聞いてみましょう」
人はこれを公開処刑と呼ぶ。
生の声を聞かせるのも恥ずかしいが、機械を通した声はもっと恥ずかしいことを僕は知っている。
ぽちっ。
まず初めに僕の声がスピーカーから流れてくる。自分で聞いてもひどいと思う。被害妄想による幻聴かもしれないが、微かに後ろから笑い声が聞こえた。軽くへこむ。早く自分の部分が終わってほしい…そればかりを祈っていた。ダメ出しなら甘んじて受けよう。
やはり僕の暗唱はぼろぼろだった。先生から色々チェックが入る。恥ずかしさのあまりその声もあまり耳に入らない。
「ではもう一回聞いてみましょう」
追い討ち。
―もうやめてくれぇ!!
「では次の人」
僕は燃え尽きた。次の人も同じような目にあった。でも、それがいけなかった。
「ではもう一回」
巻き戻しのボタンを押す先生。ぽちっとな。
―…あれ、先生?ちょっと長すぎじゃない?
僕は嫌な予感がした。再生ボタンを押す。ぎこちないロシア語が流れてくる。
「…シュカ スルーシャエット」
それが何か悟った瞬間、僕は悪夢に戻った。
―僕の声だ!!
先生、巻き戻しすぎだよ。もう少しで発狂するところだった。
そんな公開処刑は、必ず週一回やってきて、僕らを苦しめた。これぞ愛の鞭。人はこうして大きくなるんだね。
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