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続こんぺいとう
作:大平麻由理



6.こんなに好きなのに


 同じ大学にいながら、偶然でしか会えないなんて、もう世も末なのかもしれない。
 仮にも婚約までした恋人同士だというのに、この心もとなさはなんだろう。
 彼も同じ思いなんだろうか……。
 だからこそ、一緒に住もうと言ってくれたのかもしれない。

 毎晩のようにわたしのアパートで一緒に食事して、ビデオを見て、それだけで十分幸せだったのはこの騒動になる前までのこと。
 遥のサークル活動が忙しくなり、それに合わせるようにわたしのバイトも増やした。
 まるでいたちごっこのようにすれ違いに拍車が掛かる。
 おまけに、ポスターのモデルを引き受けてからは、ますますわたしから遠ざかっていくようで、なんだか手の届かない他人のように思えて仕方ない。
 今夜、彼の部屋に行こうと決めたら最後、これしきのレポートで足踏みしてるわけにはいかない。
 わたしは、頭と手を総動員して瞬く間にレポートを仕上げて大学に向った。

 遥は大学入学後、すぐに学内の演劇サークルに入った。
 と言っても役者希望ではなく、演出の方に興味があったんだけどね。
 まだ新米の遥が演出させてもらえることはほとんどなくて、使い走りや大道具などの裏方、チケットの集計などが今のところの彼の主な役割だ。
 何度か遥にくっついてサークルを覗いてみたけれど、先輩に気を使いながら、いろいろ奔走している彼を見ていられなくて、いつの間にか劇団とも疎遠になってしまった。

 遥はわたしのことを、おもしろい文を書くと言って団員に紹介していたので、時々同じ学部のひとつ年上の里中先輩から、脚本やってみない? と入団の誘いを受けていた。
 里中先輩は、チケットを売り出したら即完売という、メジャーなプロの劇団からも誘いがくるほど演技にも定評のある、女優志望のとてもきれいな人。
 でもわたしはバイトを理由にずっと里中先輩の誘いを断り続けている。
 劇団を優先すると、バイトとの両立は難しくなる。
 すると、たちまち日々の生活が苦しくなるし、学校自体も続けられなくなってしまうからだ。
 書くことを活かせる場としては大いに魅力を感じているのだけど、学業との両立もかなり大変そうだし、そもそもあんまり華やかな世界は得意でないので、つい尻ごみしてしまうと言うのが真の理由なのかもしれない。

 遥は今夜何時ごろ帰ってくるのだろうか?
 午後の講義もうわのそらで過ごし、夕方五時からの近所の小学生相手の家庭教師を七時に終わらせると、遥のマンションへ向った。
 夕飯の材料を買い込んだスーパーの袋をぶら下げて。

 今までにも何度も訪れた彼のマンションは、わたしのアパートよりは少し新しいが、彼も親への負担をなるべく軽くしたかったのだろう。
 四畳半くらいのワンルームで、小さなユニットバスが辛うじて付いているだけのシンプルなここを選んだのだった。
 けれども、夜にわたしからここを尋ねるのは初めての経験。
 わたし達は一応、付き合いの長さだけは誰にも負けない自信があるけど、男と女としての関係はまだまだで自慢できるようなものは何もない。
 一度一線を越えそうになった時、わたしが頑なに拒んでからは、彼もそれ以上は求めてこなくなった。
 だからと言って、彼が嫌いなわけでも、憎いわけでもない。
 その証拠に、時々胸が張り裂けそうなほど彼が恋しくなり、彼を思って泣き明かすこともあるくらいなのだから。
 最近あまり会えないからかもしれないけど、声が聞きたくて深夜に何度電話をかけようと思ったかしれない。
 声を聞くときっとまた泣いてしまう。
 すると彼はすぐにでもわたしのところに来てくれるだろう。
 でも、その後わたしは、また前のように彼を拒んでしまうのだ。多分。

 こんなに好きなのに、好きで好きでたまらないのに、次の一歩が踏み出せない。
 親にも隠して遥と付き合っていることが、心の重荷になっているのだろうか。
 それとも、いつの日か遥がわたしから離れて行くのではないかと想像だにしたくない一抹の不安が、時折脳裏をよぎるからなのか。
 でも……。今夜なら、そんな臆病な自分から抜け出すことができるかもしれない……。

 わたしは遥のマンションを見上げながら、手の中にある彼の部屋の鍵を、もう一度きつく握り締めた。





 








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