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続こんぺいとう
作:大平麻由理



3.もしかして、素人さん?


 読者モデル……。やっぱりあの話、本当だったんだ。

 お店というのは遥の祖父母がやっている朝日万葉堂という和菓子屋のこと。
 昨年の暮れに伝統菓子協会の主催で、全国の協会加盟店の売上と知名度を上げるためのプロジェクトの一環として、ホームページを立ち上げたのだった。
 それぞれの加盟店が工夫を凝らしページを飾る。
 その中で使われた朝日万葉堂の写真が協会のイメージポスターとして全国の加盟店に配られたのがそもそものきっかけ。
 ポスターのモデルを遥が引き受けたが最後、話がどんどんエスカレートして、今、この騒ぎになっているのだ。

 もちろん遥はこの話をホイホイと気安く引き受けたわけではない。
 店頭での撮影が決まった時、インターネットやマスコミを使っての宣伝など、全く馴染みのない彼の祖父が、状況説明の通訳のため遥に立ち会いを求めたのがことの始まりだった。
 店舗の制服である和服を着た店員と商品を写すだけだったはずが、カメラマンの目に遥が止まるや否や事態がとんでもない方向に勝手に進み始めてしまったのだ。

 あれは確か、去年の十月の終わり頃だったと思う。
 遥は、サークルの先輩に無理やり休みを願い出てどうにか時間を作り出し、しぶしぶながらも二人して店の暖簾をくぐった。
 遥の姿を見るや否やおじいさんもおばあさんもそれはそれは大喜びで、始終満面の笑みを浮かべている。
 自分達よりもずっと大きい孫に向って、抱きしめんばかりの大騒ぎになった。
 遥の母親である綾子おばさんはこの人たちの一人娘。
 すなわち孫は、遥と妹の希美香、弟の(すぐる)の三人しかいないことになる。
 とりわけ、初めての孫である遥がかわいくて仕方ないのだろう。おじいさんの顔はゆるみっぱなしだった。
 撮影の間はもちろんのこと、どんな時でも、ずっとおじいさんは遥のそばから離れない。
 ホームページはどうやったら見れるのか? に始まって、パソコンは日本語の説明があるのか? 誰でもただで見れるのか? パソコンとテレビはどうちがうのか? そもそもインターネットとは何なのか……などなど初歩的な質問が次々飛び出す始末。

 パソコンに対してまだ不信感を拭いきれないでいる祖父に対して、ことこまかに質問に答える遥は、ますますめんどくさそうに不機嫌な様子を募らせていく。
 そんなやりとりを、撮影現場で続けている時、カメラマンは遥に目を付けたのだった。
「そこの君? もしかしてどこかプロダクションに所属してる?」
「へ? プロダクション?」
 なんのことだかさっぱりわからない遥は、ますますだるそうに顔をしかめる。
「えっ! もしかして素人さん?」
 カメラマンもなぜか素っ頓狂な声を出して驚いている。
「俺この人の孫ですが……じいさんに頼まれて立ち会ってるだけですけど……」
 横にいる社長である彼の祖父と遥を見比べながら、納得したようにカメラマンがうなずく。
「ほーっ! こちらの跡取りさんですか……。素人さんなら事務所通さなくてもいいし話は早いよ。それにしてもカッコいいなぁ、君。ちょっとここに立ってみて……」
 その時のんきに新作の和菓子を食べながら高みの見物をしていたわたしも、急な話の展開に、何度あんこがのどにつまりそうになったことか。
 当日たまたま着ていた、自前の古びた感じのところどころ穴の開いたダメージジーンズに、洗いざらしのシャツのままカメラの前に立たされた遥は、カメラマンとそのアシスタントに乞われるままポーズを取り、店の中だけで飽き足りず、街中にまで出ていくつかのショットを撮られたのだ。
 今まで何度も頼まれても、店のアルバイトを断り、何一つ朝日万葉堂にかかわってこなかった遥が、なんと店の宣伝のためのモデルをやっている。
 二つ返事で孫をにわかモデルとしてカメラマンに差し出したおじいさんは、にこにことさも満足そうに撮影を眺めている。
 喜んでいる祖父を前に、さすがに遥も事を荒立てるわけにも行かず、成り行きに目をつぶらざるを得なかったのだろう。

 そして出来上がった写真は、言葉にならないほど心を打つものだった。
 カレンダーサイズの大きなポスターとホームページのトップに使われたその写真が、今後の遥の運命を大きく変えるきっかけになってしまうなどと、その時誰が予測しただろうか。

 









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