17.謎の訪問者
部屋の中がほんのり明るい。カーテンの隙間から日が射しているのがわかる。
「ま、まぶしい。夕べちゃんと閉めたつもりだったのにな……。あれ? ってことは晴れてるのかな? 雨、止んだんだ」
ベッドの中でボソボソと小さくつぶやきながら目覚まし時計を手に取る。
十時か……。
「えっ? じゅ、十時?」
ボーっとしていた頭もいっきにクリアになる。これは大変だ!
「遥、遥。起きて! 大変、十時だよ!」
わたしは慌てて隣でのん気に寝ている遥を揺すぶった。
「……なんだよ、るっせーなあ。今日は講義……昼からだよ。言ってなかったか? おまえもそうなんだろ? まだ大丈夫だよ……んんんっ……」
そういえばそんなこと言ってたっけ。ああ、心臓に悪いよ。全く。
遥はわたしを抱きしめるような格好のまま、再び目を閉じる。
家を十二時過ぎに出れば間に合うから、あと一時間はこうしてても大丈夫かな。
わたしが起きだしてバタバタと動き出すと、遥も寝てはいられないだろう。
洗濯や掃除をしたいのをグッと堪えて、もうしばらくじっとしていることにした。
初夏の陽射しは柔らかく、エアコンの切れた室内は少しむっとして汗ばむけれど心地いい。
わたしも少しウトウトしていたのだろうか? 玄関のベルが鳴ったような気がしたが……。
オートロックなんておしゃれな機能はついていないこのアパートには、家族で住んでいる住人もいて、こうやって朝っぱらからも容赦なくありとあらゆる訪問者達がやってくる。
どうせ何かの勧誘だろうと、そのままにしておいた。
すると今度は、鍵をガチャガチャする音。
「何? ど、泥棒?」
少し身構えて、寝室にしている和室の開けっ放しの襖戸から、斜め位置にある玄関方向を見た。
間もなく玄関の戸が開き外の光がすっとさしこむと、二つの人影が中に入り込む。
「柊……。いないの? もう学校に行っちゃったのかしらね。おじゃまするわよ……」
わたしはむくっと起き上がると、その見覚えのある人物にしばし釘付けになる。
「か、母さん……。お、おばちゃんも!」
向こうもわたしが起き上がったのに気付いたのか、こっちに近付いてくる。
「あら、柊。いるんじゃない! ……まだ寝てたの? 今何時だと思ってるのかしら。ほんとにこの子ったら」
わたしはとっさに夏掛け布団を隣の遥の頭をすっぽり覆うようにかぶせると、こちらに入ってこないように自分から立ち上がって台所の方に向った。
起きたばかりなのでふらつく足元をかばいながらも、どうにか二人の前にたどりついた。
果たしてそんな小細工が通用するのだろうか。
わたしはさりげなく後ろを振り返った。
……見えている。遥の足が。
そうだ……。夏掛け布団はサイズが小さめだったから、足まで届かなかったんだ。
ど、どうしよう……。
「もらってた合鍵使っちゃったわよ。今日ね、綾子さんのご実家に用があって……」
母は気付いてない。良かった……と思ったのもつかの間。
「どうしたの? 柊? どこか具合でも悪い?」
挙動不審なわたしの態度を訝しがるように母が顔を覗き込む。
ベッドが見えないように母の前に立ちははだかるわたしは、どうみても不自然に見えるのだろう。
目だって、合わせられない。
すると綾子おばさんが、わたしの肩越しに視線を泳がせる。
「お、お姉さん……。べ、ベッドに、どなたかいらっしゃるみたいだわ……」
足を見たのだろうか。当然そのサイズは、女性のそれではない。
母が血の気の引いた顔でわたしを見た。
「ベッド? いつの間に買ったの? どなたかいるって……。柊っ! いったい、どういうこと!?」
何かが音を立てて崩れるというのはこういうことを言うんだ。
心の中でガタガタと大きな音を立ててぺしゃんこに崩れるのを、今、わたしは確かに聞いた。
ばれた。
こんな状況でも冷静な意識がどこかに残っていたなんて驚きだ。
しっかり立っている。不思議なくらいぐら付くこともなく、自分の両足でふんばって立ってる。
人間ってすごい。……って何のんきなこと考えてるんだ、わたし。
「あ、あのう……。……ということなんで」
でも目いっぱい動揺している。次の言葉が出てこない。
その時、布団の下で奴が動いた。
そして……。
「あっちぃーっ! 息苦しいじゃねえか……ったく。なんで布団なんか、かけるんだよーーって誰? ……誰かいるのか?」
ベッドの上にがばっと起き上がった上半身に何も身につけていない遥を見て、今度は綾子おばさんが凍りついた。
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