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続こんぺいとう
作:大平麻由理



14.深夜のチャイム


 わたしはまだ二十歳の誕生日が来てないからアルコールはご法度。
 やなっぺとよったんは慣れた感じで、堂々と缶チューハイをグビグビやってるけど、法に弱いわたしは、ばっちり決まりを守る良い子でいることに異存はない。
 沢木さんは、アルコールは苦手なんだそうだ。
 お気に入りのミネラルウォーターを目の前の彼女達に負けないくらいグビグビやっている。
 お世話になってる手前、みんなが酔いつぶれた後、ここの片付けは全部わたしが引き受けるつもり。
 そのためにも素面(しらふ)でいることは大切だよね。

 宴もたけなわといったところだろうか、すっかり初対面の二人と打ち解けたわたしは、遥に会いたい気持ちもなんとか押さえ込んで、沢木さんの恋愛談義に聞き入っていた。
 彼女は来るもの拒まずのタイプらしく、中一の時に初めて彼氏が出来てから、先月まででのべ十八人の男性と付き合った経験があるという。
 嘘のような本当の話。
 先月までというのが重要ポイントで、今はフリーだとやけに強調していたが。
 それも一ヶ月以上彼氏がいないのは十二才の時以来初めてのことだというから、これまた恐ろしいとしか形容のしようがない。

 わたしが今まで何人の人と付き合ったかって? それを聞く? 沢木さん。
「ぇええええ! 柊ちゃん、堂野くんとしか付き合ったことないのぉ? うっそぉ。信じらんない……」
 ……だって本当なんだもの。
 生きた化石とも言われかねない、この身持ちのよさ。
 でもね、美人でもなけりゃ、男性に対して気の利いた言葉ひとつかけられないわたしは、あまり恋愛対象として見られないのかもしれない。
 思い出しても、浮いた話といえば中学の時の大河内くらいかな……。
 それだって、告白されたわけではないんだけどね。
 だって、そうなる前に遥に阻止された苦い経験があるのだから。

 そう、大河内大輔。中学の同級生で、元生徒会長。
 彼は中二の時のクラスメイトで、結構お互い気があったりして仲のいい友人だった。
 その彼が東京に出てきているのだ。一浪して隣町の公立大に入学している。
 先日バイトしているファーストフードの店に、客としてわたしの前に姿を現したイケメン大河内。
 もうびっくりしたのなんの。
 向こうもかなり驚いていたけど、その後少しだけ話しをしてお互いの近況を伝え合ってすぐに別れた。
 でもなぜか後ろめたさを感じて、遥にはこのことをまだ言ってない。
 彼はこの春、わたしの行ってる大学も受けたらしいけど、ダメだったので公立大学の教育系の学部に入ったと言っていた。
 あんなに何でも卒なくこなすオールマイティーな大河内大輔でも叶わないことがあるんだ。
 もちろん難関な学部を狙っていたみたいなので、わたしとは比べようがないんだけどね。
 でも、違う大学で良かったと少しホッとしているのも事実だ。

 わたしがたった一人としか付き合ったことがないという話で盛り上がっていると、やなっぺが突然割り込んできて右手を挙げ宣誓を始めた。
「みなさん! 柊で驚いてはなりませぬ! あたしをお忘れではありませんか? 今まで二十年、彼氏いない歴とも重なる二十年生きてまいりましたやなっぺであります! 何を隠そう、今まで彼氏なんぞはいたためしがございませんっ!」
 えええ! うっそおー! と、沢木さんたちが叫ぶのも無理はない。
 やなっぺは男友達が結構多くて、いつも出かける相手は男性なのに、そういえば本命が誰という話は聞いたことがない。
「あんた、誰とも付きおうてなかったんや。男友達はたくさんおるみたいやけどな。高校時代とかも誰もおらへんかったんか?」
 よったんはやなっぺに顔を向けながらも視線はわたしに訴えている。
 それはわたしに、やなっぺの過去をばらせという無言の圧力をかけている目に違いない。
「こらこらよったん。柊に聞こうったって、ない袖は振れないからね。何もおもしろい話はないよ! ないない!」
 やなっぺから先制攻撃されたわたしは、もう何も言うすべがない。
 でも、わたしが二人の板ばさみになってしまったのを感じ取ったやなっぺは、しょうがないなというようにしぶしぶながらも自分から過去を暴露し始めた。
「もう……。あたしの過去話なんて聞いたってちっとも面白くないのに……。よったんにも、沢木にも言ったことないけど、あたしは高校の時の初恋の人に心を全部奪われてしまったのであります。よって、今進行中の恋もなければ今後も恋愛する予定もなしという、お先真っ暗な青春で〜す!」
「へぇー。やなっぺって、意外と純情乙女だったんだぁ。てっきりあたしと同じで、男、とっかえひっかえやってんのかと思ってたぁ。でも、その初恋の人ってなんかぁ、すっごくカッコいい人なんじゃなぁい? ねぇねぇ、柊ちゃんってば。知ってるんでしょ? やなっぺのお相手」
 結局わたしが答えなきゃならないのね。
 やなっぺが自分で言ったことだし、少しくらいばらしてもいいか。
「多分、その……カッコいい人だと思うよ。いや、誤解しないでね。わたしとそのお相手の彼は幼馴染みたいなものだから、あまりカッコいいとかそういう目で見たことないの。性格はさっぱり系かな? スポーツマンで、頭も良くて、中学の体育教師目指して頑張ってる。本当はバスケのプロの選手になりたいみたいだけどね。遥の一番の親友なんだ。で、わたしもやなっぺをずっと応援してるんだけど……。うまくいってくれるといいなって」
 最後の言い回しでよったんも沢木さんも何かを悟ったのか、これ以上深くは尋ねてこなかった。
 一ヶ月だけ藤村と付き合ったのも結局カウントされてないんだ。やなっぺの一方通行だったから?
 藤村は今でも夢美を思っているのだろうか。
 わたしの中学時代の一番の親友だった夢美は、音大の短期大学音楽部で声楽を学んでいる。
 最近夢美と会っていないのではっきりとは断定できないが、夢美が藤村になびくことはまずないだろうと言い切れる。
 高校生の頃、藤村から二度目の告白をされた夢美が、はっきりとそう言っていたから。
 夢美とは正反対の性格ともいえるやなっぺだけど、藤村の心の襞のどこか一部にでも入り込む余地はないのだろうか。
 一途で友達想い、少し誤解を招く恐れのある男性関係をのぞけば、やなっぺこそ藤村にぴったりの相手だと思うのだけど、世の中うまくいかないものだ。
 
 飲んで食べてしゃべり疲れたのかだんだんみんなの元気がなくなってきた。
 時計を見ればもうすぐ深夜の零時だ。
 わたしがここを片付けるからみんなは先に寝ていいよ……とやなっぺ達に言った時だった。

 玄関のチャイムが鳴ったのだ。それもこんな時間に。

 みんなで不思議そうに顔を見合わせると、よったんがすっと立ち上がり、リビングの壁に取り付けてあるインターホンの受話器を静かに取った。







 








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