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続こんぺいとう
作:大平麻由理



10.愉快な仲間たち


 その夜はちょっとした歓迎パーティーが開かれた。もちろん、歓迎されてるのはわたし。
 ここにいる理由が理由なだけに、ちょっと後ろめたくもあるのだけど、女四人の空間が妙に新鮮で心地いい。
 背中に張り付く誰かの気配を除いては……。

 一階の吹き抜けのリビングは、同居人みんなの社交の場となっていてここで食事をしたり、テレビを見たりする。
 で、わたしの背中の後方にヒリヒリと感じる冷たい視線。
 そこにはあろうことか、遥がモデルを務めた例のポスターがドカッと貼ってあるのだ。
 騒ぎの渦中話を聞きつけたやなっぺが、同居人に自分の友人を自慢したいからと、わたしのところに二枚あったうちの一枚を強奪するように持って帰った、貴重な一枚だったりする。
 そこにいるわけのない遥の強烈な視線を背中に感じつつも、丸一日何も食べてなかったわたしは、やなっぺ特製たらこパスタで空腹を満たし心身ともに落ち着きを取り戻しつつあった。
「このカレシがねぇ……。その女の先輩とは、なんでもないんちゃう? きっと先輩にからまれて逃げられへんかっただけやと思うで。心配いらんな!」
 関西弁でポスターを見ながらそう言ってくれるのは、よったんと呼ばれている背の高い和風美人。
 油絵が専門で裸婦のデッサンが得意なんだそうだ。
 モデルと画伯の道ならぬ恋の修羅場も何度か目撃したと言うこの人。
 恋愛のハウツーは誰よりも詳しく、デッサンで培った人間観察力で、一瞬にして人物の深層まで見抜く力は相当な物である、とはやなっぺの弁。
 さっきの彼女の発言は、かなり信憑性があるとこれまたやなっぺが太鼓判を押してくれた。
 確かに遥が以前から里中先輩と恋愛関係にあったという可能性は、ほぼ零パーセントに近いとは思う。
 だって、先輩にはちゃんと彼氏がいると聞いていたから……。
 でも、たとえそのような感情がなくとも、家に連れ帰るのはNGだ。
 しかも深夜に……。

 サークルでは彼がみんなからハルと呼ばれてかわいがられているのは知っていた。
 だからと言って、彼の部屋にまで入ってきて、すがるような甘い声で寝言を発する先輩が、遥に対して特別な感情がないと言い切れるだろうか?
 あんなにきれいな人に甘えられて、遥も悪い気はしないに決まってる。
 そして、あまりにもお似合いな二人に、わたしなんかが入り込む余地は全くないようにさえ思えてしまう。
「で、柊……。さっきから携帯鳴りっ放しだけど、ずっと彼のこと無視するの? 」
「……次鳴ったら出るよ。でもここにいることは言わないから。やなっぺ、そしてよったんさん、沢木さん。ご迷惑おかけしますが、あと二、三日でいいのでわたしをここにかくまってください……お願いします。すみません……」
 わたしは、みんなに向って頭を下げてお願いした。
 もう少しだけ時間をもらえば、解決の糸口が見つかるような気がしたから。
「ぁあ〜ん、そぉんなことしないでぇ……。早く顔上げてよぉー。あたしもよったんも、やなっぺにはすんごくお世話になってんのぉ。ひいらぎちゃんはやなっぺのお友達なんだから、あたしたちのお友達でもあるわけ。ねぇ?」
 これ以上のピカピカの黄色は見たことないだろうと思われるくらい、明るく染めた髪を、カーラーでくるくるにして両サイドに垂らし、一度に一瓶使ってしまったの? っていうくらいどっさり付いたマスカラの重そうなまつげをシバシバさせながら、沢木さんというオトメなかわいらしい人が、わたしを友達だと言ってくれる。
 前にやなっぺから聞いていたこの沢木さん。
 なぜか沢木さんというのがあだ名で本名は別にきちんとあるらしい。
 人は見かけによらないとは良く言ったもので、この一見今どきギャルのような沢木さんは、実は日本画科のホープで、もうすでに大きな賞をいくつかとっているツワモノだったりもする。
「ほぉ〜んと、遥くんっていい男だわぁ〜。もてるのも無理ないしぃ。けどさぁ、男なんて星の数ほどいるんだし、また探せばいいのよぉ。ねっ? 」
 ねっ? って沢木さん……。あなたならいくらでもお相手を見つけられるだろうけど、今まで十九年生きてきてこれといって浮いた話がないわたしは、結局のところ遥しかいないんです!
 もてるのは無理ない……とか言わないでください!
 彼女のややブリブリした上目遣いに気おされそうになりながらも、わたしは意識を持ち直し沢木さんに曖昧に微笑む。
「ちょっと、沢木! あんたと柊を一緒にしないの! 柊はね、ずっと堂野一筋なんだよ。中学生の時からずーーっと! だから今回のことはちょっとお灸を据える程度に奴を懲らしめて、なんとか二人を仲直りさせたいと思ってる」
 や、やなっぺ……。素敵なフォローありがとう……。
 なんとか仲直りできるよう、わたしも精一杯努力してみる……ね。
 次はきっとわたしがやなっぺを助けるから。と言ってもこれだけはどうしようもない悲しい現実があるんだ。
 やなっぺは、藤村が好きだった。……いや多分今でも好きだと思う。
 高校の時彼女は、大胆にも何度も藤村に告白して断られる、を繰り返していた。
 彼女のさっぱりした性格のせいか、二人はその後もぎくしゃくすることもなく、普段は仲良し四人組で楽しく過ごせていた……と思うのだが。

 ある時突然、二人は付き合い始めたのだけど、その年のクリスマスに、たった一ヶ月で敢え無く破局を迎える結末に。
 藤村が幼馴染の夢美に二度目の告白をしてだめだったあと、落ち込んでいる彼を慰めたやなっぺといいムードになったと思いきや、やはり夢美を忘れることのできない彼に彼女の堪忍袋の緒が切れたというのが、破局の原因らしい。
 実らぬ恋にけじめをつけるためにも故郷を離れ、東京で新しいスタートを切ったやなっぺ。
 かたや、将来まで誓い合った相手とのささいないざこざで、こうやってみんなを巻き込んで大騒ぎをしているわたし。
 自分の人間としての器の小ささに、いい加減げんなりしてしまう。
「中学生の時からずっと……ってえらい長い付き合いやな。あんたら倦怠期ちゃうか? 長い付き合いの間にはいろんなことがあるしな……。あんたももうちょっと、自分自身に気ぃつこた方がええで! そんなありきたりな地味な格好しとらんと、パァーっと派手にいってみ?!」
 「そうそう! そうしな、柊。あいつもこっちに来てから目が肥えてきただろうから、よったんや沢木にアドバイスしてもらって、ここいらでちょっと変身してみなよ」
  変身って……○○ライダーでもあるまいし。
 そういえば遥の弟のすぐるが、○○ライダーキック! なんて言いながらわたしにまとわりついて来たっけ? 
 今、こんなこと思い出している場合ではないんですが……。












ネット小説ランキングPG12恋愛部門、昨日(2007年11月22日)、初めて1位になりました。
みなさん、本当にありがとうございました。







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