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想い、描くのは。 作者:剛田
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第6話 俺と黄瀬

 初デート、と呼んでいいのかよくわからない緑青との外出を終え、日曜日はいつも通り平凡に遅くまで寝て、勉強をしつつ、漫画を描いて過ごした。

 そしてあっという間に月曜日。

 早く目が覚めたので、いつもより早めに家を出た俺は靴箱で黄瀬とばったり出くわした。黄瀬は俺を見て、にこやかに微笑んだ。

「おはよう、黒石くん。早いね!」
「おはよう。黄瀬もな」
「なんか目が覚めちゃって! せっかくだから早めに行って予習でもしようかな〜って思ったんだ」
「今日数学小テストあるもんな」
「そうなの。私数学一番苦手だからやんなっちゃう。はやく夏休み来ないかなぁ」
「あれ、黄瀬は夏期講習受けないのか?」
「……受けます!」
「だと思った」
「夏休みも勉強漬けなんてやだよ〜」

 黄瀬と話すのは楽しい。俺がクラスで唯一気兼ねなく話ができる女子は彼女だけだった。委員会が同じで話す機会が多いためか、黄瀬も俺に積極的に話しかけてくれる。

「あ、そうだ。私、黄瀬くんに聞きたいことがあったんだ」
「なんだ?」

 黄瀬は少し俯いて、それから俺の顔を覗き込むように見つめて、口を開いた。

「あのね、私……見ちゃったんだ」

 神妙な面持ちで黄瀬が俺に顔を近づける。ちょっと近い。それに、嫌な予感がする。首筋を汗がじんわりと伝い、蝉の声がやけにうるさく聞こえる。

「黒石くんが、緑青さんと一緒に歩いてるところ」

 予感的中。体温が著しく下がった気がする。誰にも見られないで二人で出掛けるなんて、不可能だったのだ。変装はなんの意味もなかったというのか……。無慈悲。

「……」

 何か言わなくてはと思い、口を開くも何を言ったら良いのかわからない。黄瀬は黙って俺が何か言うのを待っている様子だ。
 どうする? 偶然ばったり出くわしたから、一緒に買い物をすることになったんだ、と誤魔化せばいいのだろうか。でも、それはかなり不自然だろう。入学してまだ四ヶ月経っていないし、クラスも別、接点なんて呼び出されるまで一切なかった俺と緑青が、買い物? ありえない。とはいえ本当の理由である、ついこの前付き合うことになったから、なんて口が裂けても言えない。弱った。

「……ごめんねっ」

 黄瀬が手を合わせて頭を下げた。そして顔を上げると面食らっている俺をまっすぐに見つめる。

「詮索するなんて野暮だよね! ちょっと気になっちゃって……」

 黄瀬は申し訳なさそうに首を垂れる。気になるのは無理もない。俺と緑青というアンバランスな組み合わせを見て、不思議に思うのは当たり前だ。黄瀬は悪くない。

「いや、別に隠すことじゃないんだ」

 あえて嘘をつく。隠すことじゃない訳がない。できることなら隠し通したかった。

「緑青に俺が落としたノートを拾ってもらって、そのお礼に……」

 正確には、何故か俺の極秘漫画ノートを緑青が持っていて、それを俺に返す代わりに付き合えという契約を交わしたのだが。それも一方的に。俺はどちらかというと被害者だ。

「なるほど。だからご飯を奢ったんだね」

 セーフ。ファーストフード店に入るところを見られていたんだな。勝手に解釈してもらえてありがたい。てっきり文房具屋に向かうところを見られたと予想していたので、買い物とか余計なことを言わなくてよかったと胸をなでおろす。因みに昼食は普通に割り勘。お互いに自分の分は自分で払ったが、一先ずそういうことにしておこう。

「でも意外。緑青さんもハンバーガー食べるんだね。なんか親近感湧いちゃったな」
「……だな」

 それどころかケチャップを頰につけて気づかないというちょっとマヌケな一面も知ってしまった。

「すっきりした! 本当にごめんね。根掘り葉掘り聞いちゃって……」
「謝らなくていい」
「……黒石くんは優しいね」

 そう、小さく呟くと黄瀬は私職員室に寄るから先に教室行ってね! と言い残し、早足で去って行った。

 遠ざかる黄瀬の背中を見つめながら、俺は思うのだ。

 黄瀬は俺に似ていると。姿形がではなく、本質が。
黄瀬は人当たりが良く、真面目で、気がきく。それを演じている。

 そんな気がするのだ。そして俺も、演じている。

 だからなんとなく、黄瀬といると楽だった。人に好かれる人間になろうと、真面目に勉強して、面倒な役を引き受けて、それでも目立たないようにうまく日常を送っている。
 黄瀬は男子の間で可愛いと評判だが、決して派手な見た目ではないし、男子とよく話すほうではない。制服も着崩すことはなく、鞄も指定のものを使っている。女子の反感を買わないように、気を配っているのだろう。それがあたかも自然体、という風に感じさせることができるから、きっと俺よりもずっと世渡り上手なんだろう。似ているなんて表現はもしかしたら間違っているのかもしれない。

 俺ももっと上手く、普通に、枠からはみ出さずに、それがあたかも当たり前のように日常を送れるようになりたい。だからこそ、緑青の存在は俺にとって危険なのだ。頭の中ではわかっているのに、放課後を少なからず楽しみにしている自分にため息をつきたくなる。

 教室にたどり着くと、一番乗りだったので、教室の窓を開けておく。花瓶の水を変え、チョークの補充をしておく。そうしている間に、黄瀬が教室に日誌を持ってやってきた。

 学校での1日が始まる。
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