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想い、描くのは。 〜本当の君が好き〜 作者:剛田
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第33話 憎まれ役

 白井は俺を保健室まで連れて行ってくれた。まだ日差しが強いから少し休んで、もう少し涼しくなってから帰ったほうがいいと言われ、それもそうだと思い従ったのだ。保健の先生がいなかったため、白井が冷たいタオルを頭に乗せるなど、世話を焼いてくれた。

「じゃあ、僕は戻るよ」

 白井がベッドを囲うためのカーテンを閉めながらそう言ったので俺は急いで引き止めた。

「ま、待って、ください」

 折角二人きり。先ほど浮かんだ疑問を解消するには丁度良い機会だった。

「こんなこと、俺が聞くのも変だと思うんですけど、どうして緑青は……先生のことを嫌っているんですか」

 俺の質問に、白井は明らかに動揺していた。

「えっと、……もしかして黒石くん、藍ちゃんからお父さんのこと聞いた?」
「……はい」
「じゃあ、話しても大丈夫かな」

 白井はカーテンを開けて俺のベッドの反対側のベッドに腰をかけた。

「そうだな……まず、僕の話をしよう。僕は、藍ちゃんのお母さんの弟にあたる。つまり、叔父さんだね。僕は五人兄弟の末っ子で……出来損ないだった。上の兄三人はそれはもう優秀でね、一族の覚えもめでたかったよ。それにひきかえ僕は成績もパッとしない、秀でた才能もない、おまけに小さい頃は体が弱くてね。鼻っから見放されていたんだ。僕にとって、緑青の家は居心地が悪かった。だから、僕は養子に出された。引き取ってくれた二人はとても優しかったし、のびのびと暮らすことができて僕としては有難いことだったよ。白井って、苗字なのもそのためなんだ。あの緑青の家で、姉さん……年の離れた姉だけが僕に優しかった。僕も姉のことは慕っていたし、藍ちゃんのお父さんとも気があってね。年が離れていたのもあってか、可愛がってもらったよ」

 白井は懐かしそうに、目を細めた。

「藍ちゃんが生まれてからも、関係は良好だった。でも、目に見えて彼は疲弊していった。僕は見放されていたけれど、彼は期待されていたからね。期待に応えたかったんだろう。それに、自分の評価が家族を守ることをわかっていたんだよ。優しい、人だった。でもそれ以上に繊細な人でもあった。とうとう限界が来てしまったんだろうね。ついには行方をくらましてしまった。僕は、なにもできなかった」

 なにかできる、なんて思うことはあの頃は烏滸がましいとすら思っていたんだよ、と付け加えた白井は、悲しそうに目を伏せてしまった。

「藍ちゃんが僕を嫌う理由はね、お父さんを助けられなかったこともあるけど、僕だけが知っていたからなんだ。彼が漫画を描くことを。唯一僕だけが、知っていた。彼が漫画が好きなことを、将来の夢は漫画家になることだったことをね。でも、諦めたこと。……言うべきだったのかもしれないけど、口止めされていたからね。ほら、男同士の友情、秘密みたいな。そういうの。でも、秘密を藍ちゃんは見つけてしまった。あのノート達を。僕に見せてきて、それを見た僕の表情から、悟ってしまったんだよ。僕はずっと前からこのことを知っていたんだな、って。どうして教えてくれなかったんだと詰られて、泣かれてしまった。あれ以来、僕を見ても知らんぷり。謝るにも、どう謝ったらいいのか、わからなかった。何を言っても、言い訳にしかならないからね」

 これが僕が嫌われている理由だよ、と白井は眉を下げて言った。俺は返す言葉を見つけられず、ただ黙っていることしかできなかった。

「……僕がここの高校に赴任したのと、藍ちゃんがここに入学したのは本当に偶然だった。また無視をされると思っていたのに、入学してしばらく経ったある日突然相談してきたんだよ。放課後自由に使える教室を貸して欲しいって。どういう風の吹き回しかと思ったけど、黒石くん。君が藍ちゃんを動かしたんだよね?」

 白井が柔らかく微笑んだ。

「藍ちゃんはそれから随分変わったよ。まぁ、相変わらず僕は嫌われたままだけど。……憎まれ役でもいいんだ。それで藍ちゃんが救われるなら。……でも、人を憎むのは、辛い、哀しいことだからね。……君と出会ってくれて本当に良かったよ。黒石晃くん。僕、言ったよね似ているって。それは、勿論藍ちゃんのお父さんに似ているという意味だよ」

 俺は思い出していた。似ているね、と白井に言われた日を。白井も緑青と同じで、俺に彼を重ねていたのか。

「そんなに……似てますか?」

 俺の質問に、白井はうーん、と少し考えてから口を開いた。

「どうだろう。あの時は、似ていると思ったけれど、今はそんなに似ていないかもしれないと思うんだよ。でも、うーん、どうだろう」

 曖昧な返答に、拍子抜けしてしまう。でも、そうだよな。俺は彼じゃないし、似ていても似ていなくとも、別の人間だ。だから、そんなことは気にすることはないんだろう。

「すみません。引き止めてしまって」

 頭を下げると、白井は手をひらひら振りながら軽やかな笑みを浮かべて言った。

「いいよいいよ。いつか、話す時が来るって思ってたから」
「……話してくれて、ありがとうございました」
「黒石くん」

 白井の目が、俺を真っ直ぐにとらえた。ごくり、と俺は唾を飲み込んだ。

「君は……」

 そう言いかけて、白井は口籠もった。俺はなんだろうと首を傾げて見守ったが、

「いや、これは言わない方がいいね。何でもない。お大事にね」

 とはぐらかされてしまった。白井が保健室から去ったので、俺はベッドに倒れ込んだ。シーツの冷たさが心地よかった。また一つ、緑青について知ってしまった。
 彼女に会うのは、次はいつになるだろう。今日でしばらく学校へは来ない。だから、会いたかったから外で会うしかないのだ。

 ぐるぐるとした思考に気分が悪くなった俺は、考えるのをやめて意識を手放した。
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