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想い、描くのは。 作者:剛田
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第26話 批評

 漫画のネーム内容はこうだ。

 主人公は高校の文化祭でお化け屋敷の脅かし役をやっていて、ヒロインであるハイスペックな美少女はそのお化け屋敷に入ってくる。
 主人公が思いっきり怖がらせると、ヒロインは腰を抜かし、挙句の果てにはわんわん泣き出してしまう。慌てて自分の被っていた布でヒロインを覆い隠し、出口まで誘導する。なんでも、ヒロインはお化けが大の苦手なんだとか。
 ヒロインは完璧な自分じゃないと、みんなは受け入れてくれないと思っていて、目の腫れが引くまで主人公と行動することにする。

 ここまでの内容は、前回見せたプロットと同じだ。

 顔をお面で隠したヒロインは想像していたよりもずっと親しみやすく、主人公は元々ヒロインに憧れていたこともあり、すとんと恋に落ちてしまう。

 それはなぜかって?

 ヒロインが、自分の弱点を知られた主人公には自然体で接することができたからだ。

 そのことにヒロイン自身も気づく。一緒にいて、疲れないし楽しいと思うのだ。ずっと完璧であることを演じてきたヒロインにとって、それは初めての経験だった。もっと一緒にいたい、まだ文化祭が終わってほしくないとヒロインは思う。
 でも、この気持ちは恋なのかというと、よくわからない。

 そして文化祭のメインイベント・告白大会で主人公はヒロインに告白する。
「好きです。付き合ってください」
「……ごめんなさい」

 ヒロインはこの気持ちが恋なのか、わからないゆえに断る。でも、主人公のことをもっと知りたい、一緒にいたいという気持ちがあるから、

「友達、からでもいいですか?」

 と尋ねるのだ。
 主人公が大喜びして、ヒロインがその姿を見てくすっと笑う。

 おしまい。

 完璧な両思いではないし、付き合うわけではない。ハグどころかキスもしない。でもきっと、この二人は上手くいくだろうと匂わせるラスト。これが、俺の考えついた結末だった。


・・・・・・・・・


 緑青が読み終わったと俺を呼んだので、国語資料準備室に入り、椅子の向きを変えて、お互いに向かい合うように座った。

「よく、まとまっていたと思うわ」

 ハッキリとした、凛とした声。まっすぐに俺の目を見ながら緑青は微笑んだ。

「ヒロインの女の子の心情が、表情から伝わってきて納得のいくラストになっているわ」

 じんわりと、暖かなものが胸に広がっていく。感想を語る緑青は穏やかで、ふんわりと柔らかな笑みを浮かべていた。それが、すごく嬉しい。

「これを、原稿用紙に描きなさい」
「……いいと思うか?」
「少なくとも私はそう思うわ」
「……よし」

 頑張ろう。なんだか、心が澄み渡っていくようだ。人に認められるのって、こんなにも気持ちの良いものだったんだな。懐かしくも苦い、蓋をしていた思い出が蘇る。認められて舞い上がって、結果井の中の蛙だった俺は突き落とされたけど、今俺は再び絵を、漫画を描いて、心が満たされている。

 結局俺は、どう足掻いたって認められたいって思いを捨てることはできないんだな、と思い知る。

 でもきっと、それでいいんだって、俺が認めてあげることが大事だったんだな。
 欲張りで、意地っ張りで、情けない。どうしようもない嫌な部分だけどそれも俺の一部なんだから、俺が否定しちゃ駄目だったんだな。

「黒石くん、泣いてるの……?」
「え……?」

 頰を流れるあたたかな水の感触。俺、泣いてるのか?

「あ、違っ……これは……」

 きっと、安堵からの涙だ。あの時とは違う、悔しくて悲しくてどうしようもない怒りからの涙じゃない。

 下を向き、慌てて手で涙を拭った。緑青に見られてしまったことが恥ずかしい。まさか泣いてしまうだなんて。

「これ、使って」

 緑青が水色のタオルハンカチを差し出したので、有り難くお借りした。ふんわりと、いい匂いがする。柔軟剤の香りだろうか。

「……悪いな。洗って返す」
「別に、今返してもらっても構わないけれど」
「えっ」
「でもそうね、また必要になるかもしれないし、持っていた方がいいわね。明日返してくれる?」

 動揺した俺を落ち着かせるような、優しい声音だった。もしかしたら、また揶揄われたのかもしれないな。もう、慣れたけど。

「読めて、嬉しかったわ。頑張ったのね」
「……」

 その一言に、うっかりまた泣きそうになってしまった。全く、今日の俺は涙腺が緩すぎて困る。

「でも黒石くん、一つだけ指摘させてもらっていいかしら。この漫画、登場人物に名前がないのだけれど」
「あっ!」

 感動もつかの間。うっかりしていた。話作りに夢中になるあまり、主人公とヒロインの名前を考えるのを忘れていた。

「……その様子だと、まだ考えていないみたいね」
「忘れてたんだよ」

 名前か、かなり重要なものを失念していた自分に呆れる。

 緑青は小さく何か独り言のように呟いてから、立ち上がった。それはとても小さな声だったので聞き取ることはできなかった。

「今日はもう帰りましょう。明日、名前について話し合うわよ。だからあなたに宿題。名前の候補をいくつか考えてくること。いいわね?」
「は、はい!」

 返事をして、俺も立ち上がった。
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