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想い、描くのは。 作者:剛田
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第25話 期待と不安

 休日の二日間を俺は漫画を描くことに費やした。

 前考えていた話の結末。ヒロインが地味な主人公を好きになる理由が弱い、好きになるきっかけが足りないという緑青の指摘を思い出す。

 いっそ一目惚れという手もある。蓼食う虫も好き好きという言葉もあるように、人の好みは千差万別だから主人公のような普通の特に特徴のない顔を好く人も絶対いるはずだ。それがたまたま才色兼備の美少女だっただけ。俺が読んだ漫画の中にもヒロインが主人公に一目惚れすることから物語が始まる漫画があった。すごく面白かったし、今でもたまに読み返すお気に入りの作品だ。
 でも、それじゃ駄目な気がした。

 俺は、俺が描きたいものを描かないと。そうしないと、いけない気がした。そして俺は一目惚れの話が描きたいとは思わなかった。もっと、違う何かを描きたい。

 かといって、たった31pで男女が出会い、恋に落ちる過程を事細かに描くことは非常に難易度が高い。別に、恋に落ちる必要なんて、ないのかもしれない。

 そうだよ。別に、両思いになる必要なんてないんだ。

 そう思うと、ふっと肩の力が抜けた。俺は思いつくまま、シャープペンを走らせた。

 そして、漫画の下書きであるネームを日曜の夜になんとか完成させることができた。


・・・・・・・・・


 月曜日、俺は少し誇らしい気持ちで登校した。
 早く、緑青に読んでほしい。そして、感想が聞きたい。俺にとっては渾身の作、でもそれが評価されるとは限らない。もしかしたら、駄目出しされるかもしれない。より悪くなった、前の方がマシだと言われるかもしれない。それでも、読んでほしいと思えるだけの自信があった。

 黄瀬のおかげで、頑張ることができた。

 緑青に読んでもらった後、黄瀬にも読んでもらおうかな……やめやめ。黄瀬には完成した原稿を読んでもらおう。ちゃんと原稿用紙に、専用のペンで描いてトーンも貼りつけた、作品を読んでもらいたい。

 すごいと言ってもらえたからには、それに見合うだけのものを見せたい。見栄っ張りかもしれないけど、期待にこたえたい。こんな気持ちはとうに捨てたはずなのに、今になって蘇ってきたのはきっと、黄瀬の期待が重圧ではなく、前に進む光のように俺にとって思えたからだろう。

 講習後の準備は順調に進み、解散する前に渡辺が明日は休みにすることを提案した。久々に午後が休みになると全員が大喜び。余裕が出てきたおかげか、クラスのムードはとても穏やかだ。この調子でいけば、良い文化祭になりそうで嬉しい。

 解散してすぐ、俺は国語資料準備室の鍵を取りに職員室へ向かった。白井と顔合わせるのが少し嫌で足取りが自然と重くなる。いつもよりもだいぶ時間をかけて職員室にたどり着いた俺は失礼します、と言いながら扉を開けた。冷気が廊下へ逃げていく。中へ進んでいくと、少しばかり寒すぎるくらいだった。

 白井の席に、白井の姿はなかった。これ幸いと、白井の机の上のメモ帳に、鍵を借ります。黒石、と書いてから鍵を取った。国語資料準備室に着いた俺は冷房を入れ、いつも通り廊下側の机に座り、ネームの描かれているノートを机の上に置いた。
 早く緑青が来ないかな、とそわそわし、なんだか落ち着かない。何もしないと余計に気持ちが疼くので、宿題をやって待つことにした。

 緑青は30分ほど経っても現れなかった。
 遅い。メールを確認するが、新着なし。きっと準備が忙しいのだろう。少し心配だった。あの紙袋。器用で仕事の早い緑青が、誰かのぶんも仕事を引き受けたんじゃないだろうか。緑青のことだ、きっと誰かに手伝ってほしいなんて言わないで、一人で衣装を作ったんだろう。

 ガラッ

 扉が開く音に顔を上げると、小さく息を切らした緑青と目があった。彼女の頰は淡く紅潮しており、急いでここへ来たことを物語っていた。

「遅く、なったわね」

 緑青はスタスタと室内に入り、俺の横の机に座った。紙袋は、持っていなかった。

 三日ぶり。それなのに、随分と会っていなかったような気がするから不思議だ。

「……走って、きたのか?」

 尋ねた後、俺は体を横にひねって緑青の顔を改めてちゃんと見た。大きな澄んだ瞳に、俺が映っている。その事実に、心臓がドクンと音を立てた。

「走ってはいないわ。校則違反だもの。早歩きよ」
「そう、か」

 あれだけ早く会って漫画を読ませたいと思っていたのに、いざ本人を目の前にすると逃げだしたいなんて。緊張からか、手に汗をかいてしまっているのがわかり、制服のズボンで拭いた。

 今言わないと、タイミングを逃してしまう。そう思い、俺は机の上のノートを掴み、緑青に突き出した。

「これ!」
「……え」
「この前の話、直して描いてみたんだ。読んでくれ」

 緑青は両手で、ノートを受け取った。ノートから手を離した俺は勢いよく立ち上がり、

「読み終わるまで、外にいるから!」

 と言い放ち、国語資料準備室を飛び出した。流石に、目の前で読まれるのは我慢できそうもなかったからだ。扉をピシャリとしめた俺は廊下の窓から、運動場を眺めることにした。ここからは野球部の練習場がよく見える。汗と土にまみれながら、ひたすらにボールを追いかける野球部員は生き生きとしていて眩しかった。

 扉が静かに開く音がして、振り返ると緑青がノートを両手で抱きしめるように持っていた。

「読んだわ」
「……どう、だった?」

 心臓が苦しい。緑青の顔を見ないように、視線を下に移した。表情から、良かったか悪かったか悟るのは、嫌だったからだ。ちゃんと言葉で知りたい。

「中に入って、それから話すわ」
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