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想い、描くのは。 作者:剛田
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第21話 黄瀬と約束

 教室に戻ると黄瀬の周りにわっと三人の女子が押し寄せてきた。俺はそっと女子達から離れる。三人はそれぞれ衣装らしき布や装飾に使うであろう小物をもっている。

「菜乃花おそいよ〜。ねぇこれどうしたらいい?」
「もうこれで完成でいいかなぁ?」
「菜乃花〜失敗しちゃったの。お願い教えて〜」
「まってまって、ひとりずつお願いっ」

 これが人望の差か。
 俺はすごすごと元いたスペースへ戻って作業を再開した。井戸は人一人が隠れるためそこそこ大きくてはならないし、頑丈でないといけないから段ボールを重ねてガムテープで雁字搦めにする。ただそれだと見た目が悪いので厚紙を貼る予定だ。

「……こんなもんか」
「へぇ、黒石うまいな」

 渡辺が俺に声をかけてきた。
 俺は松来と同様に、渡辺のことがちょっと苦手なのだ。高砂は明るく飄々としていて、俺とはタイプが違うけどそれなりに一緒にいて楽しい。それに対し渡辺はキラキラ系とでも言えばいいのだろうか。嫌いではないけれど、一緒にいると疲れる、そんな感じだ。
 なんで話しかけてきたんだよ、と思いつつ作り笑いを浮かべて、そうか? そうでもないだろ、と軽く謙遜しておく。

「すげーうまいって。大道具係、適任だったな」

 うん、そう言われてもあんまり嬉しくない。

「とーまぁ何してんのっ? わっすげぇちゃんと井戸じゃん! 黒石って器用なんだな。つーか真面目?」

 渡辺とよくつるんでいる浅倉省吾(あさくらしょうご)がどこからともなくやってきて、渡辺の肩に手を置いて話しかけてきた。浅倉は渡辺よりももっと苦手だ。明るめの茶髪、片方の耳にピアス穴、ザ・チャラ男といった風貌で、この進学校ではかなり派手な部類の人間。入学して同じクラスになったが、委員長としての仕事以外で話したことはほとんどない。

「お前なぁ、ちょっとは黒石を見習え」

 渡辺が浅倉を小突き、わぁーってるよ、と浅倉がへらへら笑った。じゃ俺たち行くわ、渡辺が俺に言い残し、二人は教室を出て行った。

「な、なんなんだ……」

 一人ぽつんと残された俺はどっと疲れが押し寄せてきて、ため息をついた。その時だった。

「なーに話してたの?」
「ひっ!」

 突然の松来の声に、俺は身を震わし手に持っていたガムテープを落とした。ころころと転がっていくガムテープを慌てて掴む。

「なにその反応。うざ」

 俺の反応がお気に召さなかったらしく、不機嫌な松来は腰に手を当てて、胡座をかいている俺を見下ろしている。目が怖い。
 というか、ここで渡辺について話すのは松来的には気にならないのか? 渡辺が好きなことは秘密なんだろう? と思っていると黄瀬がひょこっとやってきた。

「有里華と黒石くん、なにしてるの?」
「あぁ菜乃花、こいつが渡辺となんか話してて」
「あのな、渡辺は俺の作った井戸を褒めてくれただけで特に会話らしい会話はしていない」
「はぁ? なにそれ。先に言いなよ」

 俺は気を利かせてやったのに……。やっぱり苦手だ。

「ねぇ有里華、さっき渡辺くんが呼んでたよ。廊下の突き当たりの空き教室にいるみたいだから行ってあげたら?」
「えっうそ。行ってくる!」

 むすっとしていた松来は急に花が咲くように笑顔になり、教室をるんるんしながら出て行った。恋する乙女というのはああも変化が激しいものなのか。本当に厄介な女に目をつけられてしまったものだと己の身の上を嘆いていたら黄瀬が俺の横にすっとしゃがんだ。

「黒石くん。今度でいいんだけどさ。準備の後、空いてる日ってある?」
「え……と」

 夏期講習の間、できる範囲で毎日、国語資料準備室へ顔を出すつもりだった。でも緑青が来ない日は行かないつもりだし、俺自身も忙しくなるかもしれない。だからそのまま帰る日も今後増えるだろう。緑青のクラスはかなり気合が入っていると噂で聞いたから、緑青がメールで休みにしようと言う日があるかもしれない。

「あっあのね! 予定があるなら全然いいの!」

 黄瀬は手を前で振りながら、慌ててそう付け加えた。

「いや、まだわからないけど空いた日があったら教えるよ」
「ほ、本当?」
「前もってこの日、って指定できないけど大丈夫か?」
「うん! 大丈夫」

 黄瀬が嬉しそうに手を合わせたので、俺も釣られて頰が緩む。すると黄瀬の顔が俺の耳に近づいた。囁くような声で、緑青さん優先でいいからね、と告げられなんともこそばゆい気持ちになった。
 これ、誰かに見られたら誤解されてしまうような気がする。
 黄瀬の顔が耳から離れたので周りを見渡すが、どうやらほとんどのクラスメイトが渡辺のいる空き教室に出払っていた。残っている数人も作業に没頭しているようで、ほっと胸をなでおろす。

「約束だよ」

 そう言ってにっこりと笑う黄瀬は可愛かった。これは自惚れかもしれないが、黄瀬は俺に対しては演技をするのをやめたんじゃないかなと思う。

「ああ」

 俺の返事を聞くとすくっと立ち上がった黄瀬は、私も空き教室に行くけど黒石くんは? と聞いてきた。

「俺は井戸が完成してからいくよ」
「わかった」

 黄瀬が出ていくのを見送り、作業に集中する。
 もしかしたらさっそくバイト先に案内してくれるのかもしれないなと思うと、残りの作業も頑張れそうな気がした。
 でも一つ問題。黄瀬は勘違いをしている。俺と緑青は一応付き合っていることになっているが、恋愛感情のない契約関係なのだ。まぁあえて言うとややこしいことになってしまうので、追い追い伝えられればいいかなと思う。


・・・・・・・・・


 国語資料準備室の前まで来た俺はすぐにその異変に気がついた。電気がついていないのだ。おかしいな、と思いつつ扉を開けると緑青が机に突っ伏している。

「……緑青?」

 声をかけるが返事がない。どうやら寝ているらしい。起こした方がいいのかもしれないが、もしかしたらもうすぐ目を覚ますかもしれない。

「緑青」

 とりあえずもう一度声をかけるが反応なし。下校時間までまだ時間があるので、そっとしておくことにした。体が冷えるといけないので冷房の温度を少し上げておく。こういう時漫画とかだと自分のブレザーといった上着を肩にかけてやるのが定番なのだが、生憎夏なので上着はない。それにもしあったとして、起きた後に気持ち悪がられるかもしれない。よって何もしないことにした。
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