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想い、描くのは。 作者:剛田
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第14話 夏休み

 夏休みが始まった。とはいえ、夏期講習と文化祭の準備で学校へ行かなくてはならない。夏期講習は自由参加ではあるものの、参加しない生徒は少ない。部活動をしていない生徒はほぼ全員参加、俺もその一人だ。

 講習自体は、授業を聞くのとなんら変わりない。真面目にノートを取り、教師の発言を適度にメモし、例題を解く。宿題のプリントを渡されて、今日の講習は終わった。


・・・・・・・・・


 お昼を食べた後は文化祭の準備だ。
 お化け屋敷の背景を作る大道具係になった俺は、ダンボールで柳の木を作っている。それが完成したら今度は幽霊が出てくる井戸を作ることになっている。なんでも、典型的な古き良き日本のお化け屋敷を作るらしい。

 係決めが希望制だったおかげで、俺は脅かし役にならなくて済んだ。俺は暗闇があまり好きではないし、人を脅かす才能が自分にあるとは思えなかったので、大道具係で確定した時はホッと胸をなでおろした。
 そういえば高砂は部活があるからって言って、幽霊役になったんだよな。

 因みに黄瀬は俺と同じ大道具係だが、当日は受付もするらしい。可愛い女子を受付に置いて、客引きをするという魂胆だろう。まぁ厳つい男子が受付にいるより優しそうな女の子がいる方が、老若男女問わず受けがいいに違いない。

「黒石くん! これ、少し貰っていってもいい? 使いたいって子がいるんだ」

 黄瀬のことを考えていたらご本人が登場した。折りたたまれた段ボールが重ねられてできた山を指差している。

「いいぞ。あ、そうだ新しいガムテープついでに持ってきてもらってもいいか? もう終わりそうなんだ」
「はーい」

 返事をしながら段ボールを四個ほど持つと、黄瀬は去って行った。

「菜乃花ー! こっちに来てー!」
「わーっ待って」

 大忙し。やっぱり黄瀬は人気者だなと思う。黄瀬は俺よりもずっとクラスの信用を勝ち得ているし、振る舞いがとても自然だ。それに比べ俺はとてもぎこちない。

 黙々とダンボール同士を残りわずかなガムテープで固定していると、教室の後ろの方から声が聞こえて来た。

「えーこの量嘘でしょ? 無理だって」
「はぁ? こっちだって人手足りないんだけど」
「衣装係の人数、少なすぎじゃん?」
「それなー」
「あっ! 着る人が自分で作ればよくない?」
「ちょ、縫うとか無理。部活あるし」

  どうやら揉めているらしい。後ろを振り向くとちょうど渡辺と松来が止めに入ったところだった。初日から揉め事とは、先が思いやられる。

「お待たせ〜。はいっガムテープ」

 上からにゅっとガムテープを持った手が現れた。反射的にそれを受け取り、お礼を言う。

「さ、さんきゅ」

 どういたしまして、と言いながら黄瀬は俺の隣にしゃがんだ。

「うわー、黒石くん器用だねぇ」
「そ、そうか?」
「すごいよ。なんか本物感でてるよ!」

 黄瀬は俺の作り途中の柳の木を見て感心している。褒められることは素直に嬉しい。昔も今も全然変わっていない自分にひっそりと苦笑する。

「さーて、私もこれ早く作らなきゃ」

 黄瀬は手に持っていた袋から大きな黒い布取り出し、ハサミで裁断しはじめた。出入り口に垂らして光を遮断するための暖簾を作るのだという。

 完成まで、先が遠い。この調子で間に合うのだろうか。

「お化け屋敷を迷路っぽくするのはすごく面白そうなんだけど、ちょっと大変だよね」

 小声で黄瀬が俺に話しかけて来た。俺も小声で返す。

「そうだな。けっこう本格的なものを作るみたいだし、人手が足りないよな」
「うん。今、衣装作りで揉めてるみたいなんだ」
「聞こえた。衣装って、市販の買えばいいのにな」
「確かにその方が楽だけど……でも経費そんなに沢山ある訳じゃないし、布も余っちゃうと勿体ないからね……」
「……そうだな」

 既製品は安いものも探せばあるかもしれないが、既に布を買ってしまったらしい。無駄にするのは忍びないってことか。難儀だな。

 それからしばらくして、手をパンと合わせる音が聞こえて、俺と黄瀬は顔を上げた。

「初日だし、今日はここまで! 明日も頑張ろうね」
「部活ある奴は無理しないでいいからな!」

 松来と渡辺が場を締めくくり、今日の準備は終了した。


・・・・・・・・・


「よう。お疲れ」

 もしかしたらいるかな、と思い国語資料準備室に出向くと期待通り緑青が机に座って本を読んでいた。

「……今日は来ないと聞いていたのだけれど」
「ちょっと早く終わったからさ。緑青んとこはどうなんだ? 今日活動あったんだろう?」
「役割分担、衣装と外装について決めて解散だったわ」
「へぇ……緑青は何の役をやるんだ?」
「私は接客だけど」
「……そうだと思った」
「頼まれて、特に断る理由もなかったから」

 今年の売り上げトップは緑青のクラスで決まりだな。出来たら接客する姿を拝みたいものだ。多分無理だろうけど。

「そうだ、漫画の方は調子どう?」
「まぁ、ぼちぼち?」

 俺は鞄からプロット用のノートを取り出し、緑青に差し出すした。一応、話の流れだけでもと思い書いてみたのだ。内容は以下の通りである。

 主人公は高校の文化祭でお化け屋敷の脅かし役をやっていて、ヒロインであるハイスペック美少女はそのお化け屋敷に入ってくる。
 主人公が思いっきり怖がらせると、ヒロインは腰を抜かし挙句の果てには泣き出してしまう。慌てて自分の被っていた布でヒロインを隠し、出口まで誘導する。なんでも、ヒロインはお化けが大の苦手なんだとか。
 ヒロインは完璧な自分じゃないと、みんなは受け入れてくれないと思っていて、目の腫れが引くまで主人公と行動することにする。顔をお面で隠したヒロインは想像していたよりもずっと親しみやすく、主人公は元々ヒロインに憧れていたこともあり、すとんと恋に落ちてしまう。そして文化祭のメインイベント・告白大会で告白することにするのだがーー。

 と、まぁあらすじはこんな感じだ。

 緑青は読み終えたのか、ノートから顔を離して口を開いた。

「そうね……悪くはない、と思うわ」
「そ、そうか?!」
「でも、ヒロインはいつ主人公を好きになるのかしら」

 うぐっ……そうなのだ。その理由がまだ決まっていない。というか、思いつかない。

「主人公に告白されてヒロインがそれを受け入れるのはちょっと、展開が早すぎる気がするわ」
「ゔっ」
「知り合って1日も経っていないんだもの」
「それは……文化祭マジック? 吊り橋効果的な……?」
「吊り橋効果を狙うなら、もっと命の危機に瀕するくらいのトラブルが起こらないと」
「……」
「とりあえず、これはお返しするわね」

 ノートを返され、自分でも読み返す。
 大きなトラブルねぇ……。
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