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想い、描くのは。 〜本当の君が好き〜 作者:剛田
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第10話 違い

 夏休み前最後の委員会が昼休みに開かれ、夏休み中に文化祭の準備をすることが決まった。文化祭実行委員は既に決まっているので、クラス委員長である俺と黄瀬はそのサポートをすれば良い。文化祭実行委員はクラスの中心人物、渡辺斗真(わたなべとうま)松来有里華(まつらいゆりか)の二人。二人とも率先してクラスを引っ張っていく行動力とリーダーシップを発揮するタイプなので、スケジュールや指揮はお任せするつもりだ。

 この二人がクラス委員長をやれば良かったのに、と思ったこともあるが、クラス委員長は目立たない仕事が多い上に召集がかかることも多く、言ってしまえばかなり面倒臭い役だ。誰もやりたがらない。
 どうせやるなら体育祭の応援団や文化祭実行委員といった、短期で目立つ役割の方が良くて、一年間大して目立つこともなく仕事量も多いクラス委員長なんて誰かに押し付けたいと思うのは当たり前だと思う。

 そんな役を引き受ければ、クラス全員から一目置かれ、感謝される。打算的な考えで、俺は委員長になった。後悔はしていない。内申に少なからずプラスになるし、肩書きがある方が何かと便利なのだ。勿論、俺みたいな偽善者もいれば、みんなの役に立ちたいとか責任の大きい仕事をしたいという善意でクラス委員長になった者もいるだろう。
 そう思うと、自分はつくづく嫌な人間なのだと自覚してしまう。でも、それでも俺は平穏な生活を送るためならできることはしようと、そう誓ったのだ。

 俺のクラスは文化祭でお化け屋敷をすることに七月の時点で決まっていた。そしてその準備は夏期講習の後にやろう、ということがホームルームの時間に決定してしまったのだ。これでは緑青との約束が果たせない。

 でもそれはきっと緑青も同じで、一度約束は白紙にすべきだろう。そう思い、俺は国語資料準備室へ向かった。

 緑青はいつも通り、二つある内、窓側の方の木の机に着席し、勉強をしていた。扉を開けた俺に気づいて、顔を上げる。

「遅かったわね」
「ホームルームが長引いたんだよ」
「それなら、仕方ないわね」

 納得したのか、目線を下げ問題集のページをめくった。きっと暇さえあれば常に勉強しているのだろう。俺は隣の机に座って、鞄からいつも通りノートと筆箱を取り出す。

「文化祭についての話だった。緑青のクラスは、何をやるんだ?」
「喫茶店よ」
「へぇ」

 緑青が接客をするのかと思うと、少し見て見たい気がした。だが、大勢の男が緑青のクラスである特別進学クラスに押し寄せるのを想像して、見るのは無理そうだなと諦める。

「黒石くんのクラスは何をやるの?」
「お化け屋敷」
「そう」

 興味のなさそうな返事に、少しがっかりした。もう少し興味を持ってくれたっていいのに。

「それでだな、文化祭の準備を夏期講習の後にやることになったんだ。だから夏休みの間、ここにはそんなに来れないと思う」

 今度は俺の言葉に緑青が反応した。問題集に向けていた視線を俺に向け、少し動揺した気がする。気のせいかもしれないが。

「そうね。……私も、そうなってしまうと思う」
「……だろうな」

 緑青のクラスはまだ決まっていないようだが、俺たちのクラスと同じように夏期講習の後に準備をする可能性が高い。部活動を優先している生徒が参加しやすい時間帯は午後だし。

「……こんなに本格的に文化祭の準備をやるなんて、思わなかったわ。文化祭は10月なのに」
「まぁ、そういう学校だしな」

 俺たちの通う高校は県下トップクラスの進学校だ。文武両道を目標に掲げ、勉学、部活動だけでなく体育祭、文化祭にも全力で取り組むことを良しとし、もはや伝統になっている。

 緑青は問題集を閉じて、俺をじっと見つめて口を開いた。

「時間を見つけて、会える時に会いましょう」
「……でも」
「だって私たち、付き合ってるんだもの」

 その言葉に、頷くことができない。改めて実感する。俺と緑青の違いを。
 唇を軽く噛み、それから言葉を紡ぐ。

「外で会うのは、ちょっと……」
「何か問題でも?」
「……クラスの女子に見られた。俺と緑青が一緒にいるのを見かけたって言われたんだよ」
「…………」
「だからもう」
「公言してしまいましょう」

 緑青ははっきりと、なんの迷いもなくそう言い放ち、俺は言葉を失った。

「そうしたら、堂々と一緒に居られるじゃない。そのために告白したのだから」

 澄んだ緑青の双眸には確固たる意志のようなものがある。咄嗟に目を合わせていられなくなり、俺は顔を背けた。

「……それは困る。俺と緑青では釣り合わないし、それに周りからなんて言われるか……」

 自分で言って、自分で凹むなんて世話ないな。自分がどんどん嫌になる。

「言いたい人には言わせておけばいいじゃない」
「……俺には、無理だ」

 なんのために、いままで。積み上げてきたものを手放すなんて絶対にできない。初デートは単なる羽目を外したに過ぎない、俺はあの時どうかしていた。そうに違いない。

「……わからないわ」

 緑青の独り言のような呟きに、はっきりと確信してしまう。わかり合えるわけがない。そんなこと、はじめからわかっていたじゃないか。

 住む世界が違う。置かれている立場が違う。性質が違う。俺は、普通がいい。普通でいたい。
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