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想い、描くのは。 〜本当の君が好き〜 作者:剛田
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第9話 魅力的なヒロイン

 なんとなく気まずい空気の中、俺はひたすらにシャープペンを動かしていた。

 まずキャラクターを作ることから始める。まずは主人公。俺の経験を元にするなら、当然俺がモデルだ。平均的な男子高校生。顔もスタイルもパッとしない、地味な設定。
 ヒロインは……髪の長い美少女。描き終わってから、絵を見つめる。まるで緑青、そのものだ。恥ずかしくなって消そうと思い、消しゴムを掴むが、わりとうまく描けたので勿体無い気がした。とりあえず思いとどまる。

 緑青をモデルにしたヒロインはなかなかに魅力的だった。スタイルが良く、ツンとすましているものの、笑うと可愛い。成績優秀で品行方正、才色兼備の高嶺の花。ハイスペックなスーパー美少女ヒロインは割とありきたりな設定かな、という気もするが、ベタとはつまり王道ということだ。
 王道。テンプレでもいいじゃないか。俺は王道が好きだし、描いていて楽しいものを描くのが一番なはずだ。

 一応ヒロインの候補は、他にも考えた。経験に基づき、昔好きだった女の子をモデルにして、小学生だった時に隣の席だった髪を二つ縛りにした目の大きな女の子と、中学生の時に同じクラスだったショートカットの明るい性格の女の子。高校生だったらこんな感じだろうと想像して、描いてみた。

 でも今ひとつピンとこなかった。俺の年齢が上がったからなのか、もう好きじゃないからなのか。
 緑青をモデルにしたヒロインの方が圧倒的に華やかで、異彩を放っていた。

 この俺と緑青がモデルの二人の恋愛を、とりあえず描いてみようと思った。緑青は自分の経験を描けばいいと言ったんだから、緑青自身をヒロインのモデルにしたって文句は言はないはずだ。それに付き合っていることを仮にも認めたんだから、多分大丈夫だろう。

 話は、そうだな。起承転結をしっかり踏まえて、最後にハッピーエンドが基本だろう。
 主人公は高嶺の花であるヒロインに恋をする。なんやかんやあって、二人は両思いになっておしまい。よし、これでいこう。なんやかんやは、追い追い考えるればいい。

 そう思った時だった。なにやら横から視線を感じ、恐る恐る顔を左にずらすと、こちらをじっと見つめる澄んだ双眸と目があった。

「ひっ!」
「……そんなお化けでも見たような反応、ちょっと失礼じゃないかしら」

 緑青は俺の漫画を覗き込んでいたらしい。驚くのも仕方がないだろう。隣で勉強をしていると思っていた相手に、じっと観察されていたなんて思いもよらなかったのだから。

「これ、私かしら」

 白くて細い人差し指が、俺の描いた絵の上に置かれた。その絵は間違いなく、彼女をモデルに描いたヒロインだった。

「あっ! これはっ」

 咄嗟に隠そうとノートの上に手を置こうとするも、それより先に緑青がノートをさっと引っ張り、まんまと奪われてしまった。そして黙って絵を見つめている。緑青の方が俺よりも一枚も二枚も上手なのだと改めて実感した。

 もう開き直ろうと思い、口を開く。

「……確かにそうだけど。でもお前が言ったんだからな! 自分の経験を元にしろって」
「私、こんな風に見えているの?」
「え……」

 こんな風って、どうな風だ? 割とうまく描けたつもりでいたが、何か不満な点でもあるのだろうか。小言の一つや二つは我慢するつもりだが、画力がないと言われるのは少し傷つく。でもそれも一つの意見だ。よし、来るなら来い。

「……なんでもないわ」

 拍子抜けした。どうやら身構える必要はなかったらしい。結局、何が不満だったのかはわからなかったが、本人に言う気がないのならあえて聞くこともないだろう。とりあえずノートを返してもらうため、手のひらを緑青に向ける。

「それ、返してくれ」
「……名前」
「は?」
「お前、なんて呼び方失礼だと思わないの?」

 そういえばさっき、緑青のことをお前と言ってしまった。それが気に食わなかったらしい。

「……緑青さん?」
「何、黒石くん」

 まだ怒っているようだ。笑顔が怖い。それにノートを返すそぶりを見せない。

「……ノートを返してください」
「別に呼び捨てしても、構わないわよ」
「えっ」

 それって苗字ではなく名前を呼んでいいってことか? それはさすがに、いきなりだし……ハードル高すぎないか? 

「冗談よ」

 がくっとよろけた俺を見て、緑青はくすっと笑った。機嫌が直ったらしい。それでも今後なんて呼ぶかはっきりさせておいた方が楽だと思い、確認する。

「……緑青って呼んでもいいか」
「お好きにどうぞ」
「じゃあ、緑青。ノートを返してくれ」

 今度はちゃんと手のひらの上にノートが乗った。

「可愛く描いてくれて嬉しいわ」

 その言葉に俺は目を見開いた。一瞬、時が止まったように感じる。気のせいかもしれないが、緑青の頰が少し色づいているような気がした。ノートを掴む手が微かに震える。

「そりゃ……どーも」

 声すらも少し震えてしまった。
 お世辞でも、嬉しかった。

「もうすぐ夏休みね」

 緑青はそう言いながら、立ち上がり、少し歩いて窓から外を見つめた。

「そうだな」

 この一週間が終われば夏休み。微かに聞こえる蝉の声と、運動部の掛け声、目の前に佇む緑青。何もかもがすごく眩しく、生き生きと息づいている。そんな気がした。
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