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少年少女はすぐに死ぬ 作者:七森吐息

第一章 少年少女は死にたがり

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9 繋がる、僕と彼女の世界


 そしていつものように僕は目を覚ます。
 目は見えるし、耳も聞こえる。声は出せるし、痛いところもどこもない。
僕の身体はアフターケアに関しては気が利いている。制服は穴だらけの赤まみれだけど身体の方は傷一つ残っていない。一度死ねば全回復。服も治ってくれれば便利だけどそこまで求めるわけにはいかないだろう。それは化物が過ぎる。
……しかし今回の僕は制服だった。少し後悔。
でもまあこれもいつも通り。
ただ一つ違うのは僕が可愛い女の子に膝枕されていることだけだった。
僕は今、困惑している。開いた目を再び閉じて、冷や汗を垂らしていた。
 な、何でこんなことに。僕って見るに堪えない凄惨な死体だったはずだよね?
もしかして死体愛好家ってやつなのかなぁ? 
 薄目を開けると、そんな風変わりな彼女は大粒の涙を流して泣いていた。
……もしかして僕の為に泣いてくれているのかな。知らない人間の為に……不気味。
 そんな自分勝手に失礼な想像をしていたら女の子と目が合った。涙で光る大きな目をぼんやりと見開いて僕を見つめている。……気まずい。ていうか僕の秘密ばれた? 
いやいや大丈夫。
人間は死んだら生き返らない。これは絶対的な真理であり、世界共通の常識なんだ。
だから、少し脅かせばきっと怖がって帰ってくれるはず。そう、ユーレイだ。ちょっとした噂になるかもしれないけど……まあいい。
 僕は怨めしそうな表情を作り、赤にまみれた両手で女の子の細い首を掴んだ。
軽く力を入れ、彼女の首を赤色で汚す。僕の心もちょっと汚れた。
あーあ、傷は回復しても良心は回復しない。むしろすり減っていくばかりだ。
 そして赤まみれの幽鬼じみた人間に首を絞められる、そんな状況でも彼女は表情を全く変えずに僕を凝視し続けていた。どうやら恐怖は感じていないらしい。
まるで僕みたいだなと思った。彼女は笑わないけど。
 これ以上やっても意味はないかなぁ……。
僕は女の子の首からそっと手を離した。彼女は口に手を当てて、こほんと咳をする。
そして、まるで何もなかったかのように口を開いた。
「あなたはどうして生きているの?」
 その瞬間、僕の世界の時間が止まった。
この声……電話の人間? でも雰囲気が、いや、そんなことよりも今なんて言った?
背筋がブワっとざわつき、耳鳴りがリンリンと始まる。
声が出ない、のに。僕は、何かを叫びたくて仕方がなくなる。
――僕はその言葉に身に覚えがあった。
立ち上がり、泰然と座っている彼女を見つめ観察する。
全体的にゆるい服装。Tシャツワンピースにカーディガンを羽織り、腰には大きなベルトが巻かれている。足元にはハイカットのスニーカー。
ワンピースとカーディガンはどちらもロング丈で何故か袖口が異様に広い。
頭には鍔の大きなキャスケットを被り、ボーイッシュで可愛らしい格好。
でも服装とは裏腹に、彼女の容姿はあまりにも儚い。
触れれば簡単に折れてしまいそうな華奢な身体。腰の位置を優に超える長い黒髪。涙を溜めながらも無表情な顔は造り物のように整っていて、どこか現実感に欠けている。
――人形みたいだ。とても綺麗な人形。でもすぐに壊れてしまいそうな、泡にでもなって消えてしまいそうな、そんな印象を受けてしまう。
そしてもう一つ。彼女の傍らに転がっている黒い物体に僕の目は強く惹かれる。
――銃だ。少女の手にはあまりにも似合わない真っ黒な銃が無造作に置かれている。
死体愛好家で、泣いていて、人形みたいな、銃を持った女の子。
なんだこれ? 何なんだよこの子……。何ッ…………!?
「君は……?」
似ている――あの子に……? いや、そんなことはありえない。
だって彼女はあのとき死んだ。僕はこの目で見たんだ。
きっとこれは他人のそら似に決まっている。
そう思った。そう思いこんだ。でも僕の心がそれを否定する。掻きむしって否定する。
その声を、その顔を、その目を……僕は知っている? 君は本当にあの子なの――?
「名前を訊いてもいいかな?」
 訊いてはいけなかった。この世に未練を残さない為に。
僕が生きたいなどと思わない為に。
わかっていたのに――わかっているのに、僕の口は自然と動き、言葉を紡ぐ。
 彼女は自分の首に付いた僕の赤を舐める。味わうように。慈しむように。
そして赤い指を指揮棒のようにくるくると回しながら僕の質問に平然と答える。
「わたしはてがみ。あなたは弓名。やっと会えた。わたしの世界へようこそ」
 女の子は真っ赤な花のように微笑み、両手を僕に向かって広げる。
その瞬間、僕と彼女の世界が繋がった。彼女の名前はてがみ。

「お弁当を作ってきたの。弓名、一杯食べて」

 彼女は七年前、赤い家の赤い部屋で一緒に死んだ。
僕の大好きだった女の子。

 僕も君に聞きたいな…………君もどうして生きているの?
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