挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
少年少女はすぐに死ぬ 作者:七森吐息

第一章 少年少女は死にたがり

7/53

7 琥珀色の瞳


 僕は死んだ。僕は死んだ。僕は死んだ。よし。とりあえず三回念じてから目を開ける。
そこはいつも通りの光景が広がっていた。
黒と赤。今にも落ちてきそうな大きな赤い三日月といつ来ても黒い、夜の背景。
――ここには何もない。
あるのは大きな扉と一列に並んでゆらゆらと歩き続ける人間の群れだけ。
そしてこの世界唯一の住人は……今のところ見当たらない。また後で出てくるだろう。
とりあえず……締めよう。
「おはようございます」呟いて、僕はゆっくりと身体を起こした。
 軽く伸びをしてから、僕もいつものように扉へ向かって歩き出す。
僕は列には並ばない。どうせ誰も怒らないから。
 しばらく歩くと先頭の集団が見えてきた。四十代ぐらいの薄毛のおじさんが扉の前に足を進める。僕はおじさんの後ろに割り込んで、その様子を眺める。僕の後ろの目の尖ったお姉さんは当然のように何も言わない。
おじさんが扉に手を触れると、扉は「ギギギ……」とオンボロくさい音を立てながら左右に開いた。当たりだ。中はまばゆい幸福の光であふれ希望の音が鳴り響いていた。
――福音。それが羨ましくて、僕は下唇を噛んだ。
おじさんが光の中へ消えると扉はばたんと閉じてしまう。さて、次は僕の番だ。
ぎゅっと目を瞑り、僕は心の中で一心に念じながら扉に向かって手を伸ばした。
僕は死んだ。だから開いて。
扉は――やっぱり開かない。ただの建造物のように絶望的にそこにあるだけだ。
あぁ、わかっていたさ。いつものことだし。
……でも少しぐらい期待してもいいじゃないか。くっそう。
扉を叩く。また叩く。痛い。けどもう一回。未練がましく何度も何度もノックをし続けていたら――正面から声がした。
「ひさしぶりだね、皆森弓名。今日はどうやってここに来たのかな?」
僕はふらふらとした足取りで扉の後ろ側へ回り込む。
そこにはいたのは小さな女の子だった。
年齢は十歳ぐらい。真っ白な髪のおかっぱ頭に琥珀色の大きな瞳。黒いポンチョをワンピースのように着こなして、ぺたぺたと足音を立てながらこっちへやって来る。
――天使や妖精。
そんな表現がぴったり当てはまる美少女は無邪気に笑いながら僕の返事を待っている。
僕はいつものように彼女の頭を撫でながら返事をする。
「ひさしぶりだね、コハク。見ての通り、殺されて来たんだよ」
 これもいつもの光景。ここはこの世とあの世の中間地点。
死後の世界はあるらしい。
 希望の類は一切ないけどね。


「皆森弓名はいつも約束を守ってくれない。悪い子だよ」
「悪い子言うな。コハクの約束が無茶なんだ」
「何が無茶なんだよー。ぼくは最低でも一カ月に一度は会いに来てって言ってるだけじゃないか!」
「君に会いに行くってことは一カ月に一回、屋上からダイブしろってことなんだけど」
「愛の為にダイブしなよ。はあ、昔は毎日会いに来てくれたのに。成長って怖いねー」
「あのときはちょっと異常だったんだ。……ていうか簡単に言ってくれるけど、死ぬのってすごく痛いんだよ。上手く死ぬのにもそれなりの技術が……」
「むぅー、痛みには慣れているくせに……。それで三カ月も会いに来てくれないだなんて皆森弓名は冷たいなー。だいたいこんな可愛い彼女を放置するなんてどうかしてるよ。きみがそんな態度ならぼくだって浮気しちゃうぜ」
「君って僕の彼女なの? 僕が彼氏?」
「そうだよ! いいだろ、別に。ぼくだって恋したいんだよ! ダメ? ダメなのっ?」
「いや、いいけどさ……うん、そうだね。僕が悪かったよ」
「わかればいいんだよ。きみが素直だとぼくも嬉しいね」
「それは良かったけど……でもね、コハク。扉が……」
「あーん? 扉? 今、扉って言ったのかい? まったくさー、きみは扉とぼく、どっちが大事なんだよ? ああ……知っているよ。皆森弓名は扉の方が大事なんだよね。ぼくはきみに会いたくて仕方がないのに。あんまりだよ……皆森弓名なんか嫌いだ」
「コハク?」
「…………」
「おーい、コハクさん?」
「…………」
「やれやれ……悪かったよ。反省してます。あと僕はコハクに会いたくて仕方がない。コハクがいないと生きていけないんだ。だから僕を許してください」
「……本当かい? なら約束ちゃんと守ってくれる?」
「一カ月に一度、会いに行くよ」
「ダメ。一週間に一度は来てくれないとイヤだよ」
「えっ!? そ、それはちょっと……」
「やっぱり、ぼくのことなんかどうでもいいんだね」
「うっ……はぁ。わかったよ。約束する。だから僕のこと許してくれますか?」
「ふふ、仕方ないなあ。許してあげる! やっぱりぼくは皆森弓名のこと大好きだなあ」
 コハクの笑顔がぱっと輝く。この笑顔の為に僕は一週間に一度死ななければならない。まったく理不尽極まりない。こんなの僕とコハクじゃなきゃとても成立しない。
 ああ、一週間後、僕はどうやって死のうかなあ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ