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少年少女はすぐに死ぬ 作者:七森吐息

第一章 少年少女は死にたがり

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5 僕の秘密


 その後、動けなくなってしまった僕は銀華さんの家が星ノ海公園の通り道にあるということもあり、自転車で二人乗りをして送ってもらえることになった。
 銀華さんの家まで。
 銀華さんは公園まで送ると言ってくれたけど、僕が遠慮した。歩けないこともないので、まあ大丈夫だろう。近いらしいし、それに銀華さんを巻き込みたくもないからね。
「みーさん。足、痛くないですか?」
「どっちかっていうと、お尻の方が痛いですね」
 本当に。二人乗りの後ろって結構つらい。あと銀華さんの髪が地味に僕の顔をぺちぺちと攻撃してくる。うっ。目に入った。涙目の僕とは対照的にもう泣いていない銀華さんは何故かご機嫌だった。どこかはしゃいでいるようさえ見える。
 そういえば、銀華さんはさっきまで眠っていたそうだけど、寝ぐせが全然ついてないな。綺麗に梳かされた髪を見つめて、僕は少し羨ましくなる。同じように学校で睡眠を取っていた僕の頭は中々の寝ぐせ具合だった。気にしないけど。
「みーさんはこれから星を観測しに行くのですよね?」
「ええ、不本意ながら、っ」銀華さんの髪が口に入った。
「あの、あのですね……その……よかったら私もついて行っても……」
 銀華さんはそこで黙ってしまった。もしかしたら星に興味があるのかも。けど、
「すいません。一人で来てほしいって言われているので」
「来てほしい……むむっ。男の子ですか? 女の子ですかっ? その方とはいったいどうゆう関係なんですかっ!?」
 銀華さんの目と言葉がなぜか鋭くなる。怖い怖い……どうしてそんなに必死に?
「お、女の子だと思うんですけど……その、何の関係性もない、ただの無関係だと思いますよ……顔も知りませんし、昨日電話で誘われまして」
「……あやしい。あやしいです。それって大丈夫なのですか? 私、心配です……」
「…………」
本当は僕も行きたくないんだけど……あんなことを言われたら仕方がない。

『七年前のこと憶えていますか? わたしはあなたの秘密を知っています』
「……………」
『警戒しないでくださいよ。これはただのデートのお誘いですから』
「……………」
『一緒に星でも見ませんか? 明日は良い天気になるそうですから、きっと綺麗ですよー。おや、今テンション上がりましたね?』
「……………」
『明日の七時、星ノ海公園で待ってます。皆森弓名くん。来てくれると信じていますよ』
「……………あなた、誰ですか?」電話はもう切れていた。
 七年前の関係者は、僕以外みんな死んでいる。僕を残してみんな殺されたんだ。
 だから、誰だか知らないけど僕の秘密を知っているなら無視できない。
会って……会って? 僕はどうするんだろう。どうしたいのかな。
自分のことなのにさっぱり分からない。
 僕の心は欠落していて。僕の身体に中身はなくて。皆森弓名は……秘密主義。
 僕は……僕の秘密を知った人間をどうするんだろう……殺しちゃったらどうしよう?

「……まあ大丈夫ですよ。何とかなります」言いきかせよう、自分自身にも。
 銀華さんはまだ不安げな目で僕を見ている。おっと。前を見ないと危ないですよ。
ちゃんと走ってくれないとお尻が痛むので、僕は少し話を変えてみる。
「それよりも銀華さん。今度、映画でも観に行きませんか? ベタベタに甘いやつを」
 冗談のつもりだったのに。銀華さんは何故か顔を赤らめると嬉しそうに頷いた。そして自転車の速度がぐんぐん上がっていく。意外な反応……。
うーん、断られると思ったんだけどなあ。
学校から自転車を走らせて、三十分。銀華さんの家に到着した。
 煉瓦色の屋根に白い外壁の立派な一軒家。ガレージに車はなし。
銀華さんの話だと両親は海外で共働きとのことで、ほとんど中学生の弟さんとの二人暮らしのようなものらしい。
 銀華さんと話すとよく話題に上がる弟さん、泉金花くんは玄関の前に座っていた。
可愛くてやんちゃな姉思いの弟と聞いていた僕は実物を見て少し驚いた。
銀華さんと同じぐらいの低身長。顔も可愛らしく銀華さんによく似ていた。女の子と言われればまず疑う者はいないだろう。ただ、やんちゃの度合いが…………問題かな。
金花くんはムラのあるくすんだ金髪を時代錯誤も甚だしいリーゼントにしていた。おまけに学ラン。尖りたい年頃なのはわかるけど君にはまったく似合っていないよ。
残念な少年。そんな彼が泣きべそをかきながら体育座りをしている。
とてもシュールな絵だった。
 金花くんは僕たちに気付くと、全速力で駆け寄ってきた。
「姉ちゃん遅いじゃねえか! オレ心配してたんだぞ!」
 銀華さんは泣きじゃくる不良少年に遅くなった理由を言いきかせていた。どうやら見た目は色々残念だけど中身は銀華さんが頑張ったみたいだ。いい子っぽい。
そんなことを考えていたら金花くんと目が合った。獣じみた目に変わる。
「姉ちゃん、そこの遭遇したら親指隠されそうな顔した奴は誰だよ?」
 ……初対面の年下の子に霊柩車扱いされた。別に怒ってないよ。金花くん、親指隠しちゃったけど僕は全然怒ってない。彼はまだ若いからね。ここは年上としてちゃんと対応しなきゃいけないよね。
 僕はカチカチの笑顔で手を振った。友好的なつもりだったのに金花くんは急に殺気だった雰囲気を醸しだす。まるで怒った猫みたいだ。フーッ!
おそらく金花くん、勘違いしているんだろうなあ。……面白い。
からかってみようかな、と僕は最上級の笑顔を作る。多分できてないけど。
「そんな怖い顔しないで、仲良くしようよ。僕は君の未来のお兄さんになるんだから」
 僕の言葉に銀華さんはすぐさま反応した。口元を手で覆い真っ赤な顔で僕を見る。金花くんは額に青筋を作りながら拳を握りしめていた。どっちも怖いよ。
「なんてね、可愛い嘘。僕はただの後輩だよ。訳あって、お姉さんには後ろに乗せてきてもらったんだ。君の思うような関係じゃないから安心していいよ」
「じゃあさっさと消えろよ! そんな死んだような目で姉ちゃんを見んじゃねえッ!」
 金花くんはいらだたしげに舌打ちを漏らすと、僕に背を向けて歩きだす。いい子じゃなくてシスコンだったようだ。そして銀華さんはどうしてか肩を落としていた。ちょっと涙目。弟の将来のことでも憂いているのかな。

それから家に上がらせてもらい僕はお茶をご馳走になった。
正直言って、時間は全くなかったんだけど。腫れ上がった足の手当てもしてもらったので、断るわけにもいかなかった。
ただ、お茶が熱い。そして飲む度に銀華さんがおかわりを注いでくれた。一杯でよかったのに、銀華さんの嬉しそうな顔を見ると「もういいです」が言えない僕だった。
お茶をずずーっと啜る。隣では金花くんが物凄い形相で僕を睨んでいた。
僕は気にせずお茶を啜る。ふふっ、これが大人の対応さ。
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