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少年少女はすぐに死ぬ 作者:七森吐息

第一章 少年少女は死にたがり

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3 こんな時期に……と怒られて


 ――こんな時期とは別に季節のこととかの話ではない。もっと悪い話だ。
 実は今現在、僕の住んでいる町では三人の人間が死んでいたりする。
事故じゃない。自殺でもない。では何か? ヒントは顔がグチャグチャになっていること。……そう、答えは他殺。それも連続殺人事件。
大衆、そしてメディアが大層お気に召すような異常な事件。
キーワードは『殺人鬼』。出来上がるのは悪意に彩られた趣味の悪い惨殺死体。
被害者は何故かみんな殺された後に顔をめった刺しにされていた。
原型なんか全くわからないくらい。目も鼻も口も本当についていたのか、そもそも本当に人間だったのかと疑問に思うくらい滅茶苦茶に破壊されていた。可哀そうに。遺族の身にもなってあげればいいのに。
他人事のように僕は語る。けど他人事では済まないのだ。
この通り魔が完全に標的を選んでいるせいだ。
獲物にされてしまったのは全員うちの高校の生徒だったのだ。A組の永崎さんを皮切りに一年生の女の子が既に二人殺されている。
おかげで生徒も保護者も怯えに怯え、どのクラスも出席率が軒並み低下中なのだ。
「犯人が捕まらないと学校に行けないー」なんて苦情もでているそうだけど、学校に解決できる筈もない。それは警察の仕事だから。
 そんなわけで、僕らは今の時期に外に出ると死臭の漂う顔なしの死体になってしまう危険に満ち満ちているのだ。
 ああ、僕らの未来はお先真っ暗。怖がりな僕も学校を休んでもいいでしょうか?
 ……まあ無理な話だろうけど。昨日計算してみたら、出席日数のストックがもうほとんど残っていなかった。僕だって留年したくはないのだ。
「出来た。次ください」
「早っ。まだ十五分経ってないわよ。本当にちゃんとやったの?」
 先生が怪訝な目で僕を見る。僕はびっちり埋まった用紙を目の前に突き出してやった。
「なにその中途半端なドヤ顔……うざ」
 辛辣な言葉と引き換えに答案をもらう。ええ、どうせ僕は表情を作るのが苦手ですよ。
 次は社会……実は一番苦手だったりする。面倒だし、適当に書いちゃおうかな。
 僕が問題に集中し始めると、先生は今まで読んでいた本をぱたりと閉じた。
漫画だった。別にいいけど。
「そういえば、さっき言ってた大事な用って何なの?」
「…………」
「あたしを無視するなんていい度胸してんじゃない、皆森ぃ」
「先生、僕テスト中なんですけど……」
「別にいいじゃない。どうせあんたまた良い点とるんでしょ? だったら話し相手くらいなりなさいよ」
 暇ならさっきの漫画の続きでも読んでいればいいのに……。
「先生、問三の答えは?」
「ああ、それはBの…………減点。このあほ。マイナスにしてやるんだから」
 鼻の穴を膨らませて先生が僕を睨んだ。「面白い顔ですね」と指摘したら叩かれた。また減点らしい。もういい、社会は捨てることにしよう。
「人と会うんですよ。デートみたいなモノらしいです」
 僕の言葉に先生は目を丸くした。なぜ息を呑む?
「何ですか? その失礼な顔は」
「皆森みたいな人間に相手がいることに驚いたのよ。あんた可愛い顔しているけど中身が変じゃない。へぇ~。物好きっているもんねぇ」
 失礼な顔からは失礼な言葉しか生まれない。さすが先生。勉強になりました。
「でもね皆森、それ行っちゃ駄目よ」
 消しゴムが落ちた。拾ってくれた先生の目は三白眼に変わっていた。真剣な目だった。
「外は危ないの。許可できないわ。あんたは大人しく家で電話でもして脳内デートを楽しみなさい」
 社会を渡して国語をもらうと、僕は意味もなく噛みついてみた。言い訳も添えてみて。
「先生にそんな権限ありませんよ。校外だし。だいたい被害者はみんな可愛らしい女の子じゃないですか。法則的に僕はたぶん大丈夫ですよ」
 先生の顔に怒りが差す。どうでもいいけど、この先生は怒った顔が一番綺麗だと思う。
「……次は違うかもしれないでしょーが」
「なら女装しますか」
「それじゃ意味ないじゃない」
「もう! じゃあ先生が決めてくださいよ!」
「……はぁ、もういいわ。好きにしなさいよ」
 許可をもらった。お礼を言うと、先生が「ただし……」と付け加えてきた。
「デートコースは教えなさい。絶対よ」
「先生、ストーキングするつもりですか? 訴えて勝ちますよ」
「なんでそうなるの……これは念の為よ。大体あんたの恋路なんて欠片も興味ないわ。それにあたしもこの学校の女の子なの。危ないじゃない」
「先生もう女の子って歳じゃないでしょう。だって今年で――」
「黙れ! 殺すぞ!」
 ……怖っ。殺人鬼も真っ青な顔だった。職務質問されたら一発で犯人にされそうだ。
 また手が出そうな雰囲気になってきたので、僕は大人しく白状することに。
「映画館ですよ。そうですね、甘ーいラブストーリーを観に行くんです」
「嘘ね。皆森がそんな定番なデートを思いつくわけないじゃない。それにもし観るなら主人公やヒロインが不幸になったり死んだりする暗い話に決まってるわ。あー暗い奴」
「確かに好きですけど……。デートでそんな映画絶対やだ。病んじゃうじゃないですか」
「いいじゃない。バットエンドしか認めないって顔してんだから」
 本当に失礼な先生。だけどすごく鋭い。僕は早々に観念して大人しく白状することに。
 ……のつもりだったのにまた嘘が出た。先生のデコピンはとても痛かった。
映画館ほどじゃないけれどこれも定番だ。
公園で待ち合わせて一緒に星を見るだけ。
ただ問題があるとすれば、その公園――星ノ海公園の周囲には民家がない。全く。だから万が一襲われたとしても助けは期待できない。
とまあ問題といってもその程度のことなんだけどね。別に僕には要らないし。
僕の告白が終わった途端、先生がとても大きな息を吐いた。
「やっぱり、あんた映画館へ行きなさい。これは命令よ」
「先生。言葉はオブラートに包まないとPTAが出てきますよ?」
「ほほう。あたしの言うことが聞けないのかしら? 皆森弓名二年生」
 先生が額に青筋を浮かべながら、にやりと不気味に微笑んだ。
「遅刻早退欠席。全てにおいてあんたが学年トップよ」
 最後の数学を前にして、ボキンと鉛筆の芯が折れた。
「……何だか誇らしいですね」
「そうね。あんたが進級できなくてあたしも胸が熱くなるわ」
 どうも僕の計算と大きな誤差が生じたらしい。留年したくない僕は何とかしてもらえるように必死に頭を下げ、映画館に行くことを声高らかに宣言した。
「分かればいいのよ。この不良債権」
 冷たい言葉も理不尽な命令も、全部受け止めましょう。単位とは何より尊いのだから。
 ……まあ、この場だけの嘘だけど。映画館なんて行かない。あっちの指定だから仕方ないんだ。本当は僕だって行きたくはないんですよ、先生。
 それから先生の小言に耐え、耐え耐え……ようやく終わった。本当に疲れた。もう家に帰ってすぐに布団に飛びこみたい気分だった。
 僕が達成感に浸っていると、先生は僕の答案用紙を乱雑にバックの中に押し込んだ。クシャクシャになったそれがゴミと間違えられないか、すごく不安になった。
「……じゃあ……僕は帰りますから」
 のろのろと帰り支度を始めると先生がコツコツと靴を鳴らして僕の隣の席に腰掛けた。
「一ついいかしら」
「何でしょうか?」
「さっきの話――弱いはみ出し者は世界からいじめられてしまう。なら強ければ……強いはみ出し者なら一体どうなるのかしらね?」
 先生は首を傾げる。僕は立ち上がると、小さく先生を見た。耳鳴りがする。
「どうなるんでしょうね……。適当に考えたことなんで僕には分かりません」
 先生が笑い声を上げる。僕は笑わない。
 笑い声が止み、教室が静寂に包まれた。
 夕焼けに染まる教室で僕は足音を、先生は声を作りだす。
「ねぇ、皆森。あんたじゃないわよね……?」
「……違いますよ」
 何のことか尋ねずに僕は答えて、教室を後にした。耳鳴りはまだ止まない。
 
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