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少年少女はすぐに死ぬ 作者:七森吐息

第一章 少年少女は死にたがり

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2 はみ出し者は叩かれます


 人はいつだって何かに縛られているんだ。

 ルールに規則。習慣からモラル、エチケット、法に掟に決まり事お約束……などなど、とにかく言い出したら切りがないそれらが明に暗に僕らの首に鎖を巻いては逃げないように杭を打つ。
 常識通りに生きなさい。
 規律をちゃんと守りましょう。
 お天道様に恥じない生き方をしてください。
 道徳が口を揃えて歌いだす。ハウス、マイペット。我が主は世界さま。
 我が主のお庭はとっても広いので居心地も最高。快眠快適な我が主の膝の上。
 そんな世界さまに逆らう者など誰もいない……という訳にもいかず、例外だってある。
 例えば……極端すぎる例として、人を殺す異常人格者。常軌を逸した犯罪者。性格破綻の無法者。自分の世界に閉じこもる社会不適合者など。
 普通に生きることが出来ない彼らは世界からはみ出してしまう。
 そうして世界に目を付けられてしまうんだ。
 確かに悪いことは魅力的。だけどほとんどの人間は悪に触れようとするも踏みとどまる。知っているからだ。歳をとるにつれて、我が主のお庭のルールを。
逆らいたいなら何も大きくはみ出す必要はない。たった少しでいい。そうすれば、きっといじめられるから。無視されてしまうだろう。いないモノにされてしまうんだ。
世界ははみ出し者を許しはしないし、とても冷たい。
そして大きく。さらにはみ出せば、次は誹謗中傷の雨あられ。ネット社会の集中砲火。人間は残酷だから、その気になればいくらだって傷つけられる。
世界さまはとっても短気……怒らせたら大変なのです。
――違うから嫌い。――違うから叩く。――違うから怖い。
だから、世界から嫌われたくないから、僕らはルールを守っている。
学校に通うし、悪いことも出来るだけしない。
非常識なんか大嫌い。日々を真面目に過ごしていきたい。
 ――僕は世界さまの犬。だからね、先生。
「帰ってもいいですか? ばーちゃんが危篤だって病院から連絡が……」
「あほ。帰すわけないでしょーが。よくもまあ、これだけの言い訳を……長いし、壮大すぎるわ」
 このはみ出し者、と先生が僕の頭をこづいた。ダメらしい。仕方なく僕は席に着く。
 目の前に配られる答案用紙。筆記用具を忘れたと嘘を吐くと、鉛筆を投げつけられた。
「危ないじゃないですか」
「お礼は……って、ん? 皆森、あんた今日の授業どうやってノート取っていたのよ?」
「取ってないですよ。ずっと寝てましたから」
「あほ!」
今度の拳骨は普通に痛かった。唇を尖らせると、先生の三白眼がぎろりと光った。
まいったなぁ。帰りたいのに帰れない。
 問題の発起は夏休み明けの中間テスト。とある事情で欠席したツケが今まさに僕の首を絞めていた。放課後、教室には先生と僕の二人っきり。シチュエーションはあっても内容はただの追試。望んでもいない再試。それも五教科……。
「最悪だー。何で今日に限って」
 懇願するような視線を送ると、先生はインテリ教師風に眼鏡の弦を持ち上げ、僕を鼻で笑った。体育教師のくせに。
「まずは英語ね。早く帰りたいからちゃっちゃと終わらせなさいよ」
「ちゃっちゃとって……」
「制限時間は十五分」
「この鬼先生……」
 鉛筆を強く握りしめながら、時計の針に目を向ける。四時半、か……急がなきゃ。
 僕は問題にざっと目を通して、取りかかる。静かに。黙々と。
「……出来ました」
「十七分ね。遅いじゃない」
「僕、先生のこと嫌いだなあ」
溜め息を吐かれた……。信じらんない、この教師。死ねばいいのに、こんな人。
「じゃ、次は理科よ。頑張んなさい」
 言葉とは裏腹に先生の顔は実に面倒くさそうだ。配られた用紙を見ると、至る所に落書きがほどこされていた。
内容はやたら美形なクマとシカが抱き合って愛を叫んでいた……。
 僕が舌打ちを鳴らすと、先生は僕のおでこを指で弾いた。理不尽な気がしてならない。
「……古南先生。どうして今日なんでしょう? こんな時期に生徒を残らせるなんてひどいじゃないですか」
「なによ。テスト受けないとあんたの成績がつけられないじゃない」
 ……今日僕の成績をつけるのか。絶対つけないだろ。なら明日でもいいじゃないか!
「このあと大事な用があるのに……。遅れたら先生のせいだ」
「こんな時期に出歩くなんてどうかしてるわよ」
「こんな時期に残す方がどうかしてますよ」
 僕は投げやりに名前を書いて、紙の上に字を走らせた。
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