紅の魔導書(4/13)縦書き表示RDF


紅の魔導書
作:遮那王



- 断 章 - 【悲嘆】


地獄の最下層、コキュートス。

そこは悪魔の本拠であり、神々の牢獄でもある。

その中に流れる一筋の川。名を“嘆きの川”という。

神々を裏切った者が永遠の氷漬けにされるその川で、一際目立つ仰々しい氷像がある。

背の十二枚の翼は朽ち、深紅の瞳は光を失い、美しかったであろう面影を残す顔を憤怒の形相で歪めている。

それが、かつて神にもっとも愛された天使の、なれの果てだった。

名をルシファー。神のもっとも愛した二人の神子の片割れ。“エル”の位を剥奪され、この地に封印された“明けの明星”の異名を持ったかつての最高位天使。

その氷像を眺める、二人の悪魔がいた。

吸い込まれそうな漆黒の瞳がルシファーを見つめる。

「……我が父にして偉大なる魔族の王、サタンよ。準備は整いつつあります。復活の時は、間もなく……」

声の主は黙祷を捧げるように軽く目をつむり、踵をかえした。

「ルシアはどうした?」

「人間との契約の最中です」

紅魔とは対照的な、氷のように蒼い瞳が答える。

「ふん。人間とはつくづく愚かなものよ。神の愛もわからず我らと契約するような愚物どもごときのために、我らがこの地に堕とされたとはな」

「その愚物のおかげで神々に復讐ができるのです。よいではありませんか」

蒼い瞳がそう返すと、漆黒の瞳はニヤッと厭らしい笑みを浮かべた。

「レミア、ルシアを頼んだぞ。あいつは魔王の寄り代だ。その時がくるまで、絶対に殺すな」

「は」

レミアと呼ばれた蒼い瞳の悪魔は短く応え、川辺から姿を消した。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう