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紅の魔導書
作:遮那王



- 序 章 - 【契約】


禍々しい姿をした“悪魔”がそこにはいた。

深く澄んだワインレッドの瞳に邪悪な光を宿し、形のいい唇を人を嘲るような薄笑の形に歪めている。蝋燭の炎に照らされた褐色の肌は鮮やかに浮かび上がり、背には左右六本、計十二本の翼が漆黒に輝いていた。

“悪魔”は問う。

「望みはなんだ? 富か? 名誉か? ああ、一つ言い忘れていたが、『永遠』『無限』はNGワードだ。例えば『永遠の命』『無限の金』とかな。それ以外なら大抵の願いを叶えてやれる」

「えと、じゃあ……帰れ」

その姿を見て動揺しつつも、そこは遺跡に一人で忍び込んだ盗賊である。物怖じせずに言い放った。

この発言に動揺したのは悪魔の方である。

「なっ……」

と絶句した後、怒りを全面に出して怒鳴る。

「ふざけんな! 呼び出しといて『帰れ』だと!? じゃあなんのために俺を呼び出したんだお前は!」

悪魔の取り乱し様を見て盗賊は確信した。

(こいつ、組みしやすいな)

「別に呼び出そうなんて思ってなかったわよ。でもそうねぇ……強いて言うなら、この本が本物かどうかの確認?」

盗賊の発言に“悪魔”の肩が震え出した。

「……っざっけんな! 確認? この世界にくるために俺がどんくらいの力を使ってると思ってやがる! 契約するまで絶対帰んないからな!」

(やっぱりね。思った通り)

鬼の形相で睨んでくる“悪魔”が彼女にさらに余裕を持たせる。怒っている相手ほど組みしやすい相手はいない。

「はいはい、そんなに怒んない怒んない。とりあえず話くらいは聞いてあげようじゃない。契約を結んだ時のメリットはわかったわ。で、デメリットは?」

「お前が死んだ後、お前の命を頂く。その時餓鬼になるかクリスタルになるかはお前に選択権があるがな」

「クリスタルって? その選択になんの意味があるの?」

「魔力を凝縮させた結晶だ。人間の魂から作る。大体の人間はこっちを選ぶな。餓鬼になっちまえば永遠に餓鬼のままだ。その点クリスタルは、いつかは使い切られ、転生できるからな。ま、俺たちを呼び出しちまった時点で、来世も人間になろうなんて考えは捨てた方がいいがな」

「ふぅん。じゃ、餓鬼ってのは?」

巧みな話術である。質問を重ね、会話の主導権を握っていく。

“悪魔”は既に相手に主導権を握られていることにも気付かず、策にハマったままだ。

「餓鬼ってのは、俺たち悪魔の奴隷だ。千年単位での寿命を持ってる。つまり餓鬼になっちまえば数千年は俺たちの奴隷ってわけだ」

こうやって会話を長引かせ、どうやってこいつを追い返そうか考えている内に、妙案を思いついた。

デメリットはあるが、それも死後の話。生きてる時を楽しめればそれでいい。

「わかったわ。契約してあげる。どうすればいいの?」

盗賊が言うと、“悪魔”はニヤリと笑った。

「こう誓ってから、願いを言うんだ。『我は誓う。彼の悪魔“紅魔”と契約せん』ってな」

「ふぅん」

盗賊は大きく深呼吸し、一拍間を置いて言った。

「我は誓う。彼の悪魔“紅魔”と契約せん。我が命ある限り、我に仕えよ!」

言い放った瞬間、“悪魔”の笑みが引き攣った。

「な、なんだとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!」












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