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紅の魔導書
作:遮那王



- 序 章 - 【召喚】


「汝、大いなる名も無き者よ。神に見捨てられし神子に、黒き星と闇の祝福のあらんことを……」

暗い部屋の一角、蝋燭の灯りが揺らめく中、台座に祀られた深紅の魔導書の一文が朗々と読み上げられる。

「……深紅の魔導書、ねぇ。本物かしら」

人影は呟き、辺りを見回す。が、揺らめく蝋燭の炎以外、一切何の気配も感じない。

「あーあ、やっぱりガセネタか。五千ダールも払って損しちゃった。まったく許せないわ! ここまで来るのにどれだけの時間と労力を使ったと思ってんのかしら!? 罠で一張羅はボロボロだし、腕に怪我はするし! 今度あったらあの親爺、ただじゃ済まさないわよ!」

確かに、緑色の刺繍が美しいオレンジのドレスローブはボロの布きれと化し、左の二の腕にはうっすらと血が滲んでいた。

その傷を優しく揉み、溜息と共に魔導書へと手を伸ばす。

「まぁいいわ。平和ボケした貴族でもに高値で売ってあげあしょ」

その血のついた右の人差し指が本に触れた時、蝋燭の炎が激しく揺れだし、一瞬の間を置いて、消えた。

唯一の灯りを失った部屋は暗闇に包まれ、仄かに輝く深紅の魔導書の光を強調する。

「なに、これ……」

「召喚の儀は為された……。契約を望む者よ、汝の願いはなんだ?」

魔導書から、血のように赤い光が一本の筋となって、台座を中心に六芒星を描いてゆく。

「願い……?」

「そうだ」

六芒星の周りに古代文字が次々記され、やがて魔導書の表紙に描かれたそれとまったく同じ物になった時、深紅の閃光が部屋を赤く染めた。

眩む目を無理矢理こじ開けると、そこには自分以外誰もいないはずの部屋に存在するはずのない、二つ目の影が存在していた。

「さぁ、言ってみろ。お前の望みを」

「望みって……何のこと?」

「望みがあるから呼び出したんだろ? 俺を。悪魔を、よ」












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