遠距離恋愛なんて絶対無理。
そんなんするくらいだったら別れたほうがまし。
そう思ってた。
『え・・・今なんて?』
『ごめん・・・高校県外にすることにしたんだ』
『なんでっ?だって高校も一緒にって・・・・』
『どうしても向こうでバスケしたいんだ』
中学3年の冬、彼はあたしに突然そう言った。
それはあまりに突然のことで、頭の中は真っ白だった。
『じゃあ・・・じゃああたしたち離れちゃうの・・・?』
夜、道のライトアップを頼りに明るさを求める。
風が吹くたび髪の毛がなびく。
『・・・俺は奈津のこと好きだよ。だけど奈津がどうしても遠恋が無理だって言うんなら・・・』
『わっ別れない!別れないよっ!!あたし頑張るっ・・・・』
和也のこと好きだから別れるなんて嫌だった。
だけど、やっぱり悲しまずにはいられない。
かすかに落ちるあたしの涙を見て、和也が言う。
『ごめん・・・ごめんな、奈津』
そう言う彼の体はかすかに震えていた。
それは真冬の真夜中の寒さのせいか、それとも・・・・
****************************************************
「奈津ー携帯なんか見てなにしてんのー?」
「んー・・・」
高校に入学してからもう何ヶ月経ったんだろ。
今は10月。
少し寒くなってきた。
「遠恋中の彼氏からの電話待ち?」
友達は笑いながら言った。
その通りです、なんて死んでも言わないけど。
和也からのメールや電話なんて、期待してもどうせこない。
もともと筆無精なのに、バスケで忙しくなって余計する暇なんかなくなっちゃった。
ほんとはもっとメールしたいのに・・・
でも和也の重荷になることだけは嫌なの。
強情なあたし。
「今日はねー満月なんだって!」
「もう?」
「これは絶対見なきゃね」
満月か・・・
もうこうなったら満月見ながらやけ食いでもするしかないのかしら。
会いたいなぁ・・・
夏休みにたった2日会っただけだもん。
もっと一緒に遊びたいよ。
いろんなこと話して、手をつないで・・・
普通の恋人と同じことしたいよ。
・・・あたしたち、これで付き合ってるって言えるの?
教室から見る窓の外は、一緒に帰るであろう恋人たちがたくさん。
みんな笑顔。
あたしだってあの頃はあんな顔してたんだろうなぁ。
あたしは鞄を持って教室を出る。
1人で歩くのはやっぱり寂しい。
隣には和也がいた昔が嘘みたいに感じる・・・
あの和也の笑い声を、笑った顔を
もう何ヶ月見てないんだろう・・・・・
夜、あたしはテレビを見ながら宿題をする。
「今日は満月で、すばらしい日になりそうですね」
「ええ。満月を見るのはとっても久しぶりです」
テレビのアナウンサーたちが笑う。
「あーそういえば今日満月って言ってたなぁ」
あたしはペンを置いて、ベランダに出る。
やっぱり夜なだけあって少しだけ冷えた。
「わーきれい!ほんとに満月だぁ」
柄にもなく、満月を見てはしゃぐ。
だけど、幸せな気持ちはすぐになくなっていく。
「和也、どうしてるかなぁ・・・」
メールしてもあんまり返事返ってこないし、無駄なのかな。
もしかして和也にはもうあたしって必要なかったりするのかな。
『奈津、俺絶対奈津から離れねーから!』
『え?どうしたの、急に』
『俺のねーちゃん彼氏に遠くに行かれたみたいでさーけっこう苦労してるっぽいんだ』
『遠くに?それは大変だぁ。あたしだったら耐えられないもん』
『だよなぁ。俺も』
いつだっただろう。
そんな会話をしたことを覚えている。
『だから俺絶対ずっと側にいるって決めた!』
『約束だよ?』
『おう』
あのときの気持ちはもうないの?
やっぱり離れてしまったらもうだめなの?
あたし、強くないよ・・・
1人で和也を待ってられるほど、強くないんだよ。
会いたいよ、今すぐにでも。
会いたいよ・・・・・
「一緒にいようって言ったじゃん・・・」
そして月に向かってつぶやく。
「・・・どうか和也がいつまでもあたしを想っていてくれますように」
離れていても良いから、どうかあたしのことを忘れないで。
目をつぶって手を握りながら、そう願った。
♪〜♪♪〜♪
「電話だ」
ベランダから出て、机の上に置いてある携帯に手を伸ばす。
「もしもし?」
『あ、奈津?俺俺』
「かっ・・・」
それは、紛れもなく和也からの電話だった。
『ずっと連絡しないでごめんな』
「ど、どうしたの?急に」
和也からの電話なんてはじめてだった。
とまどいを隠せないあたしに、彼はこう言う。
『奈津がどうしてるかなって気になってたんだ』
嬉しすぎて言葉にできない。
なかなか口に出せないでいると、和也が恥ずかしそうに言った。
『俺、離れてても奈津のことずっと大好きだから』
その言葉で、やっとあたしも正気に戻る。
「うん・・・あたしもだよ」
『なかなか会えないし、あんまメールもしてやれなくってほんとに悪いと思ってる』
電話の向こうではぁはぁと息を切らしている音に気づく。
きっと練習のあとすぐにあたしのとこへ電話をかけてくれたんだろう。
「良いよ。あたし待ってるから。和也が戻ってくるの」
『ありがとう』
「ねぇ、どうして急にかけてきたの?」
すると彼はこう言った。
『月がきれいだったから・・・かな』
「月?」
今、あたしがベランダから見ている月を彼も向こうで見ている。
あたしたち繋がってた。
月を通して、繋がってたんだ。
1人じゃない。
あたしには・・・和也がいた。
こんなにも想ってくれていた。
なにも心配することはないんじゃない。
あたしが不安なように、和也だって不安なんだ。
「今日は満月なんだって」
『やっぱり?』
あたしたちはお互いに会いたいと思って月を見た。
電話をつないで
絆をつないだ。
fin |