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生まれ変わってもなぜか俺は俺にしか生まれ変われなかった。

作者:夏平涼
俺はとても貧乏だった。
身なりは悪く、背は低く、顔も人並み以下。
生まれてこのかたろくな事がなかった。
こんな人間に生まれてしまったこと、今さら後悔しても遅い。
ならば。
この幸薄い人生は無難にやり過ごそう。

しかし来世は!来世こそは!
金持ちか絶世の美女か美男か、はたまた類稀なる能力をもった人間に生まれ変わろうと。
強く胸に決意を抱き、ただひたすら徳を積むことだけを考えて生きぬいた。

「死ね!」「消えろ!」と罵倒され石を投げられようと耐えた。耐え抜いたのだ。
自殺をするだなんてもってのほか。
そんなことするなら一つでも多く徳を積み、来世への生まれ変わりへの期待値を上げる。

上げて上げて上げまくった。

日雇いで稼いだ雀の涙ほどの給料も、毎月毎月欠かさず孤児院の子供たちへと寄付した。
炎天下の中、道端に落ちているゴミを山ほど拾った。
殴られている人がいたら、なんの関係もないのに身を盾にして庇って逃がしてあげた。

上げて上げて上げまくったのだ。
アホな俺が思いつく限り、すべてのことをやってのけた。

すべては来世のために!

*****************************************

「で、俺はどうしてまた俺に生まれ変わってるんだ?」

前世の俺の最期はいとも呆気なかった。
空腹のあまり森に入って、食べ頃の野草を漁っていたら熊と勘違いされて、銃で撃たれて死亡した。

呆気ない人生だったが、俺は内心ほくそ笑んだ。
これでやっと生まれ変われるのだから。

生まれ変わるまでの過程はよく知らない。
でも人間みなそんなものだろう。
むしろ前世の記憶がある俺こそがおかしいのだ。
でもこれも、前世で徳を積んだがゆえの賜物ならば悪くないと思えてくる。

だが、現実はそう甘くはなかった。

「また俺は俺の人生をやり直すのか……?」

気づくに至り、俺は頭を抱えた。

「ふざけるなよ! 俺がどれだけ徳を積み上げたと思ってんだ! 他のやつらはホイホイホイホイいとも簡単に勇者だ王子だ令嬢だ聖女だって生まれ変わってるのに!」

どうして俺だけ、と。
続く言葉は出なかった。

もしかして。もしかすると。

「まだ足りないのか……?」

考えつくや否や、行動は早かった。
あれで足りなかったのだ。
ならば今度は倍やればいい。

上げて上げて上げて上げて上げまくった。

積み上げていく途中、前世にはなかった記憶がひとつ追加されていた。
たいしたものではない。
おかっぱ幼女が無言で三つ葉のクローバーを渡してきたのだ。
もちろん空腹の俺はその場でそれを食べた。

死に様は同じだった。

ようやく追加の俺の人生を終え、やり遂げた充実感で満たされていた俺は確信していた。

今度こそ、俺の理想に生まれ変われると!

*****************************************

「おい。またかよ……」

泣いた。俺の全てが泣いた。

俺は俺でしか生まれ変われないらしい。
最悪だ。
前世どころか前前世の記憶まである分、さらにタチが悪い。

ほぼ無意識にテレビをつけてみる。
たまたまゲストに出ていた坊さんが言う。
「徳とは積もうと思って積み上げるものではありません。自然と積み重なってくるものなのです」と。

なるほど。
俺はわざとらしく徳を積み上げたからだめなのか。

上げて上げて上げまくるんじゃなく、
重ねて重ねて重ねまくるものなのか。

なるほど。なるほど。なるほど。

*****************************************

「もうだめだ。終わった」

四度目の人生も俺だった。

三度目の人生はなかなかのものだった。
自然に徳を重ねるには、まず人と触れ合わなければいけないことを俺は学んだ。

少しだけ身綺麗にし、背筋を伸ばして生きた。
それでもたいした人生とは言えなかったが。
女子高生に話しかけられたのは、トータルの人生を合わせても今回が初めてだったから、なかなかのものだったと言える。
俺にしては。

着の身着のままで、引っ越したりなんかもした。
過疎地域の田畑開墾ボランティアに参加するためだけに。

そんなこんなで、心を改めて徳を重ねたというのに。

また、一からしなければいけないのか。
こんなことを思っている時点で、すでに俺は俺にしかなれないことが決まっているようなものか。

自虐気味に、笑いが口から漏れる。
もう無理だ。無理だ。無理だ。無理だ。

「俺には俺の人生しかないのかよ」

だとしたら。
何もせず、ここで命を断てばどうなる?

ちょうどいい塩梅に、荷造り用のビニールテープが床に転がっていた。
どうして何度も何度も生まれ変わっておきながら、これに気がつかなかったのか。

しゅるり、とテープの端を引っ張る。
思いのほか強度のあるそれは、急かすように電灯の光を受けてきらめいた。

ピンポーン

タイミング悪く、呼び鈴が鳴る。
無視を決めこもうと思った矢先、「すみません。光一さん、いらっしゃいますか?」と扉の外から声が聞こえる。
若い女の声だった。

(死ぬ間際に、一度ぐらい悪事を働いてもいいんじゃないか?)

どうせ俺は俺なんだから。

ビニールテープを放り投げ、三度目の人生の癖で鏡に直行。寝癖がないことを確認し、口臭も問題ないとわかると、玄関扉を開けた。

「あ! こんにちは!」

予想通り、若い女だった。
歳は自分と同じくらい、二十代前半か。
顔も美人だしスタイルも良い。

最後の最後に神様もいいことしてくれるじゃねえかと下衆な考えしかもう頭には浮かばなかった。

「どちら様ですか?」
「私、橋本あかりと言います。ずっと、ずっと光一さんに会いたくて!」

なんだ、この女。
名前も知らないし会ったことももちろんない。
そもそも俺の人生に女は無縁だ。

(新手の詐欺か?)

眉間に皺を刻み、睨みつければ。すぐ強張った表情になり、びくりと肩を揺らした。
それでも、意を決したように彼女は口を開く。

「信じてもらえないかもしれないですが、 私! この人生、四度目で! 光一さんに会うために、何度も何度も神様にお願いしたんです!」

「は?」

待て。この女、今なんて言った?

「四度目の人生、だって?」
「はい! 前も、その前もお会いしたことはあったのですが、全く相手にしてもらえなくて!」

記憶を辿る。
前世、前前世、前前前世。
関わりがあった女なんて、あの時しか覚えがない。

「クローバーをくれたおかっぱ頭の?」
「それ! 私です!」
「話しかけてきた女子高生?」
「それも! 私です!」

待て。待て。
理解ができない。意味がわからない。

(いや、もしかしたら)

神様にお願いをしたとこの女は言った。
俺も神様に次こそはいい人生に転生できますようにと願った。

つまり。

(この女のせいで、俺は俺にしか生まれ変われなかったのか?)

殺意が芽生えた。
目の前でにこにこ笑っているこの女のせいで、俺は四度もこんな人生を歩まなくてはいけなかったのだ。

ごくりと唾を呑み込む。
細く華奢な首だ。きっとすぐに締め上げられる。

「私、両親がいなくて。孤児院育ちなんです。一度目の人生で、ぼろぼろの服を着ていても毎月必ず寄付してくれる光一さんに、大人になったら絶対にお礼しようと思っていたのに。亡くなってしまっていて」

「え?」

「二度目の人生は、まだ小学生で。それも間に合わなくて」

「え?」

「三度目の人生こそ、高校生で! ようやくお礼ができると思ったのに、光一さん、ここの住所を訪ねてもいなくて。そのあとも全然見つからなくて」

「え?」

「やっと、四度目で同じ歳に生まれることができました」

「はい?」

上げかけていた両手から力が抜ける。

なんだ、なんなんだよ、これは。
こんなの俺の人生じゃないぞ!らしくない!

いつも何をしても感謝なんてろくにされなかった俺の人生らしくない!

「やっとお礼が言えます。育てていただいて、本当にありがとうございました」

深々と彼女は頭を下げた。

泣いた。俺の全てが泣いた。
泣いて泣いて泣いて泣いて泣きまくった。

嬉しかった。
俺の、俺の人生は無駄じゃなかったんだと、この瞬間、初めて俺は俺の人生に感謝した。

「もし、よろしければ。ご飯一緒に行きませんか? ぜひ奢らさせてください!」

涙で濡れた俺の汚い顔を、嫌な顔ひとつせずに彼女はハンカチで拭ってくれた。

ぼんやりと思い出す。
そうだ。
あの時、坊さんが言っていたではないか。

「徳とは積もうと思って積み上げるものではありません。自然と積み重なってくるものなのです」

「縁もまた、同じように」と。


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